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胃腫瘍
高宮 新之介

監修医師
高宮 新之介(医師)

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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。

胃腫瘍の概要

胃腫瘍とは、胃に発生する「できもの」を指します。この「できもの」には、良性のものと悪性のものがあり、それぞれ性質や治療法が異なります。良性の胃腫瘍(例:ポリープ)は基本的に放置しても健康に悪影響を及ぼすことが少ないですが、悪性の胃腫瘍(例:胃がん)は進行すると命に関わるため、早期発見・早期治療が大切です。

胃腫瘍は、発生する場所や細胞の種類によって次のように分類されます:

  • 上皮性腫瘍
    胃の内側を覆う粘膜から発生する腫瘍で、胃がんの多くがこのタイプに含まれます。上皮性腫瘍には、乳頭腺がん(乳頭のような形)、管状腺がん(管状の構造)、印環細胞がん(細胞にリング状の構造が見られる)などの種類があります。
  • 内分泌細胞腫瘍
    ホルモンを作る細胞が腫瘍化したものです。これには、ゆっくり進行するタイプ(NET G1)ややや速く進行するタイプ(NET G2)、さらに速い進行性を持つものが含まれます。
  • 非上皮性腫瘍
    胃の粘膜のさらに下の層や筋肉層から発生する腫瘍です。この中には胃腸管間質腫瘍(GIST)や平滑筋肉腫などが含まれます。
  • 悪性リンパ腫
    胃に存在するリンパ組織(免疫の一部)から発生する腫瘍です。MALTリンパ腫は慢性的な炎症が原因になることが多いとされています。

胃腫瘍の中には、比較的ゆっくり進行するものもあれば、急速に広がるものもあります。早期発見が患者さんの負担を軽減するための鍵となります。

胃腫瘍の原因

胃腫瘍の発生には、以下のような要因が深く関与しています:

  • ピロリ菌感染
    ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ菌)は胃の内側に住みつく細菌で、日本人の胃腫瘍の大きな原因の一つとされています。この菌は胃粘膜を長期間にわたり刺激し、慢性的な炎症を引き起こします。この炎症が、腫瘍の発生や胃がんの進行につながることがあります。ピロリ菌感染は成人の約30%に見られると言われています。
  • 食生活と生活習慣
    高塩分の食品(漬物や塩辛)や加工食品(ハムやベーコン)を頻繁に摂取することで、胃の粘膜がダメージを受ける可能性があります。また、野菜や果物の摂取量が少ないことも、胃腫瘍のリスクを高める要因とされています。
  • 喫煙と飲酒
    タバコは胃粘膜のバリア機能を弱め、胃酸による刺激を強くします。また、アルコールを多量に摂取することも胃への負担を増加させ、腫瘍の原因になることがあります。
  • 遺伝的要因
    家族に胃腫瘍や胃がんの患者さんがいる場合、同じ病気を発症するリスクが高まることがあります。これには遺伝的な要因だけでなく、似たような生活習慣が影響している可能性もあります。
  • 加齢
    胃粘膜は加齢に伴い徐々に弱くなります。そのため、50歳以上では胃腫瘍のリスクが上昇するとされています。

胃腫瘍の前兆や初期症状について

胃腫瘍の初期段階では、症状が現れにくいのが一般的です。しかし、以下のような症状が見られることがあります:

  • 胃の不快感や軽い痛み
    腫瘍が成長し始めると、胃の内側が圧迫されることで、不快感や鈍い痛みを感じることがあります。これらの症状は特に食後に現れることが多いです。
  • 食欲不振
    腫瘍が胃の動きを妨げると、食事の摂取量が減り、食欲がなくなることがあります。
  • 体重減少
    食事量の減少や消化不良により、短期間で急激に体重が落ちる場合があります。
  • 吐血や黒い便
    腫瘍が出血を引き起こすと、嘔吐物に血が混ざったり、便が黒くなる(タール便)ことがあります。
  • 貧血による症状
    慢性的な出血により、貧血が進行すると、疲労感や息切れ、ふらつきが現れることがあります。

これらの症状が見られた場合は、放置せず消化器内科を受診することが重要です。特に、ピロリ菌感染歴がある方や胃がんの家族歴がある方は、定期的な検査が推奨されます。

胃腫瘍の検査・診断

胃腫瘍を診断するためには、次のような検査が行われます:

  • 内視鏡検査(胃カメラ)
    胃の中を直接観察できる検査で、胃腫瘍の有無を詳しく確認します。必要に応じて、異常が見られる部分の細胞を採取(生検)し、がん細胞の有無を調べます。
  • 超音波内視鏡(EUS)
    内視鏡に超音波の機能を付けたもので、胃壁の奥深くにある腫瘍(粘膜下腫瘍)を調べるのに適しています。
  • CTやMRI検査
    腫瘍の広がりや、ほかの臓器への転移の有無を確認するための画像検査です。
  • FNA(細胞診)
    腫瘍に細い針を刺して細胞を採取し、その性質を詳しく調べます。この方法は、胃腸管間質腫瘍(GIST)の診断によく用いられます。
  • 血液検査
    貧血や腫瘍マーカーの有無を確認します。

胃腫瘍の治療

胃腫瘍の治療法は、腫瘍の種類や進行度、患者さんの健康状態に応じて異なります。以下に主な治療方法を詳しく説明します。

良性腫瘍の治療

  • 胃ポリープの経過観察
    良性の胃ポリープ(特に胃底腺ポリープ)は、がん化のリスクが極めて低いため、定期的な内視鏡検査で経過を観察するのが一般的です。

  • 内視鏡的切除
    大きさが10mmを超えるポリープや、増大傾向が見られる場合は、内視鏡を使ってポリープを切除することがあります。これにより、がん化のリスクを防ぐことができます。

胃がんの治療

  • 内視鏡治療(ESD:内視鏡的粘膜下層剥離術)
    早期がんの場合、内視鏡を用いて腫瘍を直接切除します。この治療法は、胃の機能を温存しつつ、腫瘍を取り除くことが可能です。

  • 外科的手術
    がんが進行している場合、胃の一部を切除または胃全体を摘出します。手術では、リンパ節も併せて摘出し、転移の有無を確認します。

  • 化学療法
    抗がん剤を用いて腫瘍の増殖を抑える治療法です。手術後の再発を防ぐ目的や、手術が困難な場合に使用されます。

  • 放射線療法
    特定のケースで、がん細胞を破壊するために使用されます。ただし、胃がんでは化学療法の方が一般的です。

非上皮性腫瘍の治療

GIST(胃腸管間質腫瘍)の手術
GISTは、手術で完全に腫瘍を取り除くのが基本です。場合によっては、腫瘍の成長を抑える「分子標的薬」を併用することがあります。

悪性リンパ腫の治療

  • 化学療法
    抗がん剤を使い、腫瘍細胞を抑える治療法です。特にMALTリンパ腫は、ピロリ菌の除菌治療が有効な場合もあります。
  • ピロリ菌除菌療法
    ピロリ菌感染が原因とされるMALTリンパ腫では、ピロリ菌を除去することで腫瘍が縮小することがあります。

胃腫瘍になりやすい人・予防の方法

胃腫瘍になりやすい人

  • ピロリ菌に感染している人
    ピロリ菌感染は、胃がんの最大のリスク要因とされています。
  • 胃がんの家族歴がある人
    家族に胃がんや胃腫瘍の病歴がある場合、同じ病気を発症するリスクが高いと考えられています。
  • 高塩分の食事を摂る人
    漬物や塩辛、インスタント食品などを多く摂取する食生活は、胃腫瘍のリスクを高めます。
  • 喫煙者や大量に飲酒する人
    喫煙や過度の飲酒は、胃腫瘍のリスクを大幅に増加させることがわかっています。
  • 加齢
    胃腫瘍は50歳以上での発症率が高くなるため、高齢者も注意が必要です。

胃腫瘍の予防方法

  • ピロリ菌の検査と除菌治療
    ピロリ菌に感染している場合は、早期に除菌治療を受けることでリスクを下げることができます。
  • バランスの良い食事
    野菜や果物を多く摂り、塩分を控えた食事を心がけることが大切です。
  • 禁煙と節酒
    喫煙は胃腫瘍だけでなく他の病気のリスクも高めるため、禁煙が推奨されます。飲酒も適量を守ることが重要です。
  • 定期的な健康診断
    胃腫瘍は早期発見が鍵となるため、定期的に内視鏡検査を受けることが推奨されます。
  • ストレスの軽減
    ストレスが胃粘膜に悪影響を及ぼすことがあるため、適度にリラックスする時間を持つことが大切です。

関連する病気

  • 胃がん
  • 胃腺腫

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