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短腸症候群
中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

短腸症候群の概要

短腸症候群は何らかの疾患が原因で、小腸の大部分が切除されることにより発症する消化器症状です。
通常、小腸は栄養素や水分の吸収に重要な役割を果たしますが、短腸症候群が起こると機能が低下して栄養不良や下痢などの症状が生じます。

短腸症候群は幅広い年代で発症する可能性がありますが、子どもと大人で原因が異なります。

子どもではヒルシュスプルング病や中腸軸捻転などの先天的な原因で発症することが多く、大人ではクローン病や上腸間膜動脈塞栓症などの後天的な原因で発症します。

日本でのヒルシュスプルング病などを含めた子どもの発症率は、200〜300人ほどであり、患者の8〜9割が成人期医療に移行し、長期的な管理が必要です。
診断は臨床症状や残存している小腸の長さや、吸収機能の状態に基づいておこなわれます。

(出典:公益社団法人 日本小児学会「疾患名:腸管不全(Hirschsprung 病類縁疾患、短腸症候群)」)

体内に残存している小腸は時間が経つにつれ、絨毛や血管などとともに粘膜の面積が増える構造的な変化が生じます(腸管順応)。
構造的な変化は成長ホルモンなどの刺激によって促され、残存している小腸の機能が回復し、少しずつ栄養素や水分が吸収できるようになります。

治療は栄養療法が中心となり、小腸を切除した直後の「術直後期」、残存している小腸の機能が回復し始める「回復適応期」、小腸の機能が安定した「安定期」にわけて進められます。

短腸症候群は小腸の消化吸収障害だけでなく、肝機能障害や胆石症などが合併しやすいことも特徴です。
特に子どもでは成長障害が問題となりやすく、大人になるまで細かい栄養管理が必要になります。
生活の質を改善・維持し続けるために、多職種による包括的なアプローチで長期的な管理を進めていきます。

短腸症候群

短腸症候群の原因

短腸症候群の原因は子どもと大人で異なります。

子どもは、先天性の小腸閉鎖症やヒルシュスプルング病、中腸軸捻転、腹壁破裂のほか、後天性の壊死性腸炎や腹部腫瘍、外傷などで起こります。
大人では上腸間膜動脈塞栓症や絞扼性イレウス、放射線腸炎、腹部腫瘍、クローン病、外傷などが原因になります。

これらの疾患では、生命の危機から脱するために小腸を切除する必要があります。
大量の切除によって小腸が短くなり、生存維持に重要な栄養素や水分が十分に吸収できなくなることで発症します。

短腸症候群の前兆や初期症状について

短腸症候群の症状は、主に消化器系と栄養状態に関連して現れます。
最も見られやすい症状は水様性の下痢で、脱水状態に移行する可能性があります。
体重減少も見られ、子どもでは成長障害の原因になります。

症状の進行に伴い、肝機能障害や胆石症、尿管結石、ビタミンB12欠乏性貧血、乳酸アシドーシスなどの合併症が発生することもあります。

しかし、安定期に入ると下痢などの症状はある程度コントロールされやすくなります。

短腸症候群の検査・診断

短腸症候群の診断は、手術で小腸を切除したときの残存している小腸の長さや、術後の症状の経過によっておこなわれます。
子どもでは全小腸の1/3以下、大人では150cm以下の場合に診断されることが多いです。

小腸の機能を確かめるために、専用の染色液で染めた便を調べる便ズダンⅢ染色や、摂取したD-キシロースが尿中に含まれるか調べるD-キシロース吸収試験などをおこなうこともあります。

(出典:学会誌JSPEN 「成人短腸症候群の食事療法」

短腸症候群の治療

短腸症候群の治療は主に時期に応じた栄養療法がおこなわれますが、薬物療法や手術療法が適応されることもあります。

治療法は患者の年齢や残っている小腸の状態、原因疾患などによっても異なります。
医師や管理栄養士、薬剤師などの多職種がチームを組み、「腸管リハビリテーション」として、患者に合わせた治療やサポートをしていきます。

栄養療法

栄養療法は、主に消化管を介さない「中心静脈栄養」と、消化管を介する「経腸栄養」によっておこなわれます。
中心静脈栄養ではブドウ糖や電解質、アミノ酸、脂質などの輸液を、心臓近くにある上大静脈から投与します。
経腸栄養では、天然の食材を配合もしくは合成した流動食を口や鼻、胃から投与します。 

主に術後1ヶ月以内にあたる術直後期では中心静脈栄養が基本になります。
術後数ヶ月〜12ヶ月にあたる回復適応期では経腸栄養が開始され、中心静脈栄養の投与量を徐々に減らしていきます。
回復適応期から数年経った安定期では、経腸栄養や通常の経口摂取の頻度を増やしながら徐々に中心静脈栄養の離脱を目指します。

中心静脈栄養の離脱が難しいケースでは、在宅静脈栄養に移行して自宅で継続します。

薬物療法

薬物療法ではホルモン剤を投与することによって小腸の腸管順応を促します。
対象療法として、胃酸の分泌や下痢を抑える薬物が使用されることもあります。

手術療法

中心静脈栄養から離脱する見込みがないケースでは、腸管延長術が適応されることがあります。
肝機能障害などにより中心静脈栄養の継続が難しい状態では、小腸移植術が検討されます。

短腸症候群になりやすい人・予防の方法

短腸症候群の原因になる疾患は先天性のものや、原因不明のものが多いことから、なりやすい人の特徴や予防の方法はありません。

短腸症候群になった場合は、症状を悪化させないために、医師や管理栄養士による食事内容の指示を守りましょう。
経口摂取が可能となった場合も、炭水化物が多めで脂肪が少ない食事を摂ることが望ましいです。

砂糖が多く含まれているお菓子やジュース、食物繊維の多いきのこやナッツ、シュウ酸なども、消化不良によって下痢が起こりやすくなるため避けましょう。
結腸が残っている場合は、ブロッコリーやバナナなどのシュウ酸が多く含まれる食べ物も、尿路結石の原因になるため、できるだけ控えてください。


関連する病気

  • 先天性小腸閉鎖症
  • 中腸軸捻転
  • ヒルシュスプルング病
  • 腹壁破裂
  • 壊死性腸炎
  • 上腸間膜動脈塞栓症
  • 絞扼性イレウス
  • 放射線腸炎
  • 腹部腫瘍

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