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直腸瘤
阿部 一也

監修医師
阿部 一也(医師)

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医師、日本産科婦人科学会専門医。東京慈恵会医科大学卒業。都内総合病院産婦人科医長として妊婦健診はもちろん、分娩の対応や新生児の対応、切迫流早産の管理などにも従事。婦人科では子宮筋腫、卵巣嚢腫、内膜症、骨盤内感染症などの良性疾患から、子宮癌や卵巣癌の手術や化学療法(抗癌剤治療)も行っている。PMS(月経前症候群)や更年期障害などのホルモン系の診療なども幅広く診療している。

直腸瘤の概要

直腸瘤(ちょくちょうりゅう)とは、直腸の壁が変形し膣側に押し出され、もとに戻らなくなった状態を言います。
この疾患は、女性に見られる「骨盤臓器脱」の1つにも分類されます。骨盤内の臓器を支える筋肉や膜が弱くなることなどを原因として起こる骨盤臓器脱では、他に子宮脱や膀胱瘤が知られています。

直腸瘤は、膣と直腸を隔てる壁が直腸から膣に向かって押し出されて形成されます。膣の側から見るとコブのように膨らんでいる状態であることが、病名の由来です。逆に、直腸の内側から見ると、膣に向かってポケットのように凹んでいる状態になります。

加齢や出産などの影響に加え、排便時の「力み」の繰り返しなどが、直腸瘤の発症原因になると考えられています。

直腸瘤の主な症状は、便を出そうとしても出にくかったり、排便後も便が残っているような感覚があったりすることです。病状が進むと、便がうまく排出できない「排便障害」となります。排便障害のために便秘がちになり、余計に症状が悪化するという悪循環となるケースもあります。

直腸瘤の治療では、軽症であれば便を出しやすくする薬物療法がとられます。症状が進んで瘤が大きくなった場合は手術による治療も検討されます。

慢性的な便秘にならないよう、健康的な排便状態を保つことは、この疾患の予防につながります。

直腸瘤

直腸瘤の原因

直腸瘤の主な原因は、加齢や出産などによって直腸と膣の間の組織が弱くなることだと考えられています。
女性の身体は、妊娠や出産によって骨盤周囲の筋肉や組織に大きな負荷がかかることがあります。また、加齢などの影響により、骨盤内の臓器を支える筋肉や膜の働きが徐々に弱まることが知られています。一方、直腸は肛門の近くにあり、便が最後に通るところです。女性の場合は、その直腸と隣り合わせの位置に膣があります。

主に排便時などに女性が強くいきむと、直腸内の圧力によって直腸の壁が膣の方向へ膨らむことがあります。この膨らみが慢性的に繰り返されたり、膨らみ部分に溜まった便が直腸の壁を押し続けたりすると、直腸と膣の間の組織が伸びてしまい元に戻らなくなります。このようなメカニズムで直腸瘤が形成されると考えられています。

直腸瘤の前兆や初期症状について

直腸瘤の初期症状は、排便しづらいと感じることです。

具体的には、便が出にくい、何度もトイレに行かなければならないと感じる、あるいは肛門の周りに違和感があるといった症状があります。また、排便の際、腟に圧迫感があるケースもあります。

病状が進むと、直腸瘤がポケット状になった部分に便が滞留し、便がうまく排出できない「排便障害」となります。排便障害のために便秘がちになり、より症状が悪化するという悪循環となるケースもあります。

直腸瘤の検査・診断

大半の直腸瘤は、医師による問診や肛門・直腸と腟周辺の診察により診断できます。

直腸瘤の大きさを測るために、排便造影検査という検査をすることもあります。直腸瘤の位置関係や排便時のつまり具合を、視覚的に捉えることができる検査です。
また、その他の骨盤臓器脱が疑われる場合は、超音波検査(エコー検査)をおこなう場合もあります。

直腸瘤の治療

直腸瘤の治療は、主に保存的療法と手術です。ただし、いきなり手術となることはまれで、まずは保存的療法を試みるケースが一般的です。

保存的療法

保存的療法には、便秘の改善や直腸への負担を軽減するためのさまざまな手法が含まれます。

便秘の症状が強い場合は、下剤や座薬を使って排便をコントロールします。

軽度の直腸瘤であれば、便を我慢してしまったり、便が固くなりすぎたりしない限り、自然な排便をおこなえる場合があります。生活リズムや食事などについて、腸の働きをよくする指導をおこないます。

保存的療法により「排便時の力みすぎ」や「慢性的な便秘」を改善できれば、直腸への負担が減り、直腸瘤の手術をしなくても自然な排便ができるようになる可能性があります。

手術

保存的療法をおこなっても症状が改善されない場合や、すでに重度の直腸瘤が認められるような場合は手術も検討されます。

手術は、腸と膣の間の壁を補強するものであり、肛門側からおこなう場合と膣側からおこなう場合があります。患者の希望も聞きながら、直腸瘤の状態に合わせて手術方法を決めます。

直腸瘤になりやすい人・予防の方法

直腸瘤は主に中高年以降の女性や、出産を経験している女性に多く見られる疾患です。

日常的に便秘症状を自覚している人、排便時や日常生活で力んでしまう癖がある人などは、発症リスクが高いと言えます。

直腸瘤を予防するには、日常生活で便秘にならないようにすることが大切です。バランスの取れた食事を心がけ、食物繊維を多く含む野菜や果物を摂取して、適度な運動をおこなうことは、直腸瘤の予防に役立ちます。

また、できるだけリラックスして排便できるような環境づくりを心がけると良いでしょう。

なお、症状として「排便障害」をともなう疾患は他にも数多くあります。
重篤な疾患を見逃さないためにも、便秘症状などが気になる場合は早めに肛門科などの医療機関を受診することは大切で、この疾患の予防だけでなく、他の疾患の早期発見にもつながります。


関連する病気

  • 膀胱脱
  • 子宮脱

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