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大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

十二指腸がんの概要

十二指腸がんは、十二指腸に発生する悪性腫瘍全般を指す言葉です。初期症状は乏しいものの、進行すると食欲不振や吐き気、嘔吐、便の色の変化、黄疸、黒色便、貧血といった症状がみられます。診断は、症状や身体診察ののち、CTや内視鏡検査、生検などを通じて確定します。治療はがんの種類や進行度に応じて、内視鏡治療や外科的手術、化学療法が選択されます。十二指腸がんは人口10万人あたり6人未満とされる希少がんであり、発症のリスク因子は未解明な点も多いものの、一部の神経内分泌腫瘍には遺伝的背景が知られています。明確な予防法はないものの、胃カメラなどによる定期的な検診が早期発見・早期治療に重要です。

十二指腸がんの原因

「がん」という言葉がカバーする疾患は広く、胃癌に代表されるような管 (くだ) の内腔表面や表皮の細胞 (上皮系細胞) から発生する「癌」、筋肉をはじめとした支持組織や血液などの、外の世界と接しない細胞由来の悪性腫瘍まで含みます。全身にできる悪性腫瘍をまるっと含んだ概念が、ひら仮名の「がん」だと考えてください。 したがって「十二指腸がん」という言葉には、十二指腸原発のあらゆる悪性腫瘍が含まれます。神経内分泌細胞が悪性化した神経内分泌がん、十二指腸内腔表面の腺上皮が悪性化した十二指腸腺癌、線維芽細胞や平滑筋細胞、神経系の細胞から発生する十二指腸の消化管間葉系腫瘍 (GIST) が代表的です。 それぞれ由来が異なるため、個別に原因を解説することはしません。由来となる細胞に何らかの変異がおこり「がん化」します。その原因は感染症であったり、遺伝性の素因、良性の腺腫 (ポリープ) が時間をかけて「がん化」することがあります。

十二指腸がんの前兆や初期症状について

腫瘍のできる場所によっても症状が異なりますが、消化管の悪性腫瘍全般に初期症状は軽く気づかれにくいという特徴があります。腫瘍が大きくなって十二指腸の内腔が閉塞してくれば、胃から小腸へ食べ物が通りにくくなるので、食思不振や嘔気・嘔吐が現れてきます。 十二指腸には胆汁、膵液を消化管へ放出する「十二指腸乳頭部」があります。ここに腫瘍ができると胆汁が排出できないことによる黄疸・皮膚の痒みのほか、脂肪を分解できなくなることによって便が白くなるという症状が出ることがあります。なお、十二指腸乳頭部がんは胆道・膵臓系の疾患として扱われることが多いです。 進行すると腫瘍やその周辺組織から出血することによって黒色便や、貧血症状 (疲れやすさ、息苦しさなど) が出ることもあるでしょう。 十二指腸がんに特異的な症状はありませんが、これらの症状は胃がんや膵がん、胆道がんとも重なる部分があります。いずれにせよ早期発見が重要なので、当てはまるような症状があれば胃カメラができる消化器内科を受診してください。

十二指腸がんの検査・診断

まずは診察室の問診と身体診察です。問診では今までの病歴や症状の経過を詳しく整理します。身体診察では体に出ている症状を第三者が評価することで、影響を受けている器官にめぼしを付けます。 次のステップは画像検査で、CTが一般的です。ある程度の大きさの腫瘍であれば画像でも指摘できるほか、胆道・膵管の閉塞所見、消化管の閉塞所見も評価することができます。 ここまでの検査で十二指腸に腫瘍の存在が疑われれば、上部消化管内視鏡検査 (胃カメラ) を行って実際に十二指腸の内側から病変を観察します。その際に生検で病変の一部を採取し、病理診断することで「がん」であるかを確かめます。

十二指腸がんの治療

がんの種類や、進行度によって治療法が異なります。内視鏡での摘出ができるものであれば、内視鏡的な治療が行われます。手術で摘出するものもあります。 がん治療全般にいえることですが、がんの種類・進行度に応じて化学療法を行います。手術ができる場合でも、手術の治療効果を高めるための化学療法を行うことがあります。 その他症状緩和のための治療も並行して行います。

十二指腸がんになりやすい人・予防の方法

十二指腸がんは胃癌や大腸癌にくらべて頻度が低く、小腸がん (十二指腸がん・空腸がん・回腸がん) 全体でも、診断されるのが人口10万人あたり6人未満の「希少がん」に分類されます (参考文献 1, 2) 。

希少疾患でありリスクも分かっていない部分が多いですが、小腸がん全体のなかで多い「神経内分泌腫瘍」というタイプは、その一部で家族性の発症が知られています。家族に神経内分泌腫瘍患者がいる場合には、発症率が高いといえるかもしれません。 発症の予防法は基本的にありませんが、検診で胃カメラを定期的にやることが早期発見・早期治療・重症化予防につながります。十二指腸の奥のほうだと胃カメラでの観察が難しい場合があります。そのような場合には便潜血検査が陽性になって、精査のなかで気づかれる場合があります。いずれにせよ、検診を定期的にうけて、異常所見は放置しないことが重要です。

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