

監修医師:
前田 広太郎(医師)
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2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。
目次 -INDEX-
ノロウイルス胃腸炎(こども)の概要
ノロウイルス胃腸炎(こども)は、小児のウイルス性胃腸炎の約半分を占めます。環境に安定して存在し、少量のウイルス粒子で感染が成立します。アルコール消毒が効きにくく、秋から春にかけて流行します。ウイルスが変異しやすく毎年全年齢層での流行があります。嘔吐や下痢、発熱がみられ、脱水症を引き起こします。便中抗原迅速検査により診断可能です。基本は対症療法で、母乳は制限せず、早期から経口補水液の投与を開始し、嘔吐が治まれば人工乳や食事を再開します。ノロウイルス胃腸炎(こども)の原因
ノロウイルス胃腸炎(こども)は、ウイルス性胃腸炎の原因として46.4%を占めています。ノロウイルスは一本鎖RNAウイルスで、エンベロープを持たないためアルコール消毒に強く、消毒には次亜塩素酸ナトリウムが必要です。感染経路は経口感染(食中毒、糞口感染)、飛沫感染とされます。ノロウイルスの粒子は感染者の便に1億~1兆個/g、吐物中にも1万~1億個/g含まれ、ウイルス粒子は100個程度でも感染が成立するとされます。環境中でも安定して存在し、2週間程度感染力があるとされます。食中毒では汚染された二枚貝やウイルスを保有した調理者による食材汚染が感染源となります。糞口感染では、おむつの使用などでウイルスが伝播します。吐物が乾燥し粉塵化することにより飛沫感染を起こします。ウイルスの遺伝子変異が起こりやすく、何回も感染し流行します。11月から1月を中心に流行します。ノロウイルス胃腸炎(こども)の前兆や初期症状について
12〜48時間の潜伏期間があり、悪心嘔吐、下痢、腹痛、発熱がみられ、1~2日程度で消退します。持続する嘔吐や大量の下痢がある場合、脱水が進行する可能性があります。重度脱水を示唆する兆候として、見た目に調子が悪くぐったりしている、些細な刺激に過敏に反応する、反応が乏しい、目が落ちくぼんでいる、脈や呼吸が早い、皮膚緊張の低下や、四肢の冷感やチアノーゼなどが挙げられ、注意が必要です。ノロウイルス胃腸炎(こども)の検査・診断
ノロウイルスの検出は、便や直腸スワブによる検体を使用し、イムノクロマト法を用いた迅速診断で確定診断します。15分で判定可能です。小児では3歳未満で保険適応となります。著明な脱水により腎前性腎不全、まれですが中枢神経合併症(急性脳炎・脳症)を発症する場合があり、症状に応じて検査を追加します。また、脱水により高尿酸血症や尿酸結石をきたすこともあります。胃腸炎の回復期に強い腹痛(乳児では啼泣や不機嫌)などみられれば、尿検査で潜血の有無を確認したり、腹部エコーで結石の有無や腎盂・尿管の拡張がないか確認します。ノロウイルス胃腸炎(こども)の治療
ノロウイルス胃腸炎(こども)に対する特別な治療法はなく、通常のウイルス性胃腸炎に対する治療と同様に基本的には対症療法となります。脱水に対しては、体重減少が5%程度の軽・中等度脱水で、経口摂取が可能であれば、経口補水液の摂取をします。スポーツドリンクやベビーイオン水は糖濃度が高くNa濃度が低いため不適当とされます。母乳は制限せず、嘔吐しても経口補水液を5ml程度(ペットボトルのキャップ1杯)ずつ5分おきに飲ませるなどで脱水を予防します。大量の下痢や重度の脱水(9%以上の体重減少)がある場合には経静脈輸液を行います。原則的に、下痢止めや制吐剤は使用しません。整腸剤は下痢の時間を数時間短縮させる可能性があるものの、急性期の効果はありません。嘔吐が治まれば、なるべく早くに人工乳や発症前と同様の食事を再開します。炭酸飲料は市販の果物ジュースは制限します。消化酵素は急性期でも十分に分泌されているため、消化の良いものやおかゆ、薄めたミルクなどは、小腸上皮細胞の回復に必要な栄養素の不足に繋がり、下痢を長引かせる可能性があります。小腸上皮細胞の障害が強い場合、一時的な乳酸不耐症により下痢が長引く可能性があります。この場合は、乳児では離乳食の再開や、乳糖を含まない豆乳などに一時的に変更し、下痢が治まれば通常のミルクに徐々に戻していくことも考慮します。ノロウイルス胃腸炎(こども)になりやすい人・予防の方法
感染者の排泄物により伝播することから、汚染された環境を次亜塩素酸ナトリウムで消毒することが予防に繋がります。アルコール消毒は無効です。感染者の排泄物を扱った際には、手指を十分に石鹸で洗い流す必要があります。また、感染者による調理や食事の準備を避けることで、周囲への感染を予防します。症状消失後2日程度は調理による食事提供を避けた方がよいとされています。流行期に二枚貝の摂取を避けることも重要です。ノロウイルスワクチンは実用化されていませんが、治験では重症度やウイルス排泄量の低下を認めたという報告があり、開発が進められています。参考文献
- 日本小児救急医学会診療ガイドライン作成委員会 編:小児急性胃腸炎診療ガイドライン 2017年版.2017
- Up to date: Acute viral gastroenteritis in children in resource-abundant countries: Clinical features and diagnosis
- Thongprachum A, et al: Epidemiology of gastroenteritis viruses in Japan:Prevalence, seasonality, and outbreak. J Med Virol 2016;88:551-570
- Tuladhar E, et al: Reducing viral contamination from finger pads: handwashing is more effective than alcohol-based hand disinfectants.J Hosp Infect. 2015;90(3):226. Epub 2015 Apr 10.
- Leroux-Roels G, et al: Safety and Immunogenicity of Different Formulations of Norovirus Vaccine Candidate in Healthy Adults: A Randomized, Controlled, Double-Blind Clinical Trial.J Infect Dis. 2018;217(4):597.




