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鎖肛
北河 徳彦

監修医師
北河 徳彦(医師)

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北海道大学医学部 卒業、北海道大学大学院医学研究科修了。現在は神奈川県立こども医療センター勤務。専門は小児外科・小児腫瘍・小児栄養 。医学博士。日本小児外科学会 小児外科専門医・指導医、日本小児血液がん学会 小児がん認定外科医、日本外科学会 外科専門医・指導医、日本肉腫学会 認定医・指導医、日本ハイパーサーミア学会 認定医、日本移植学会 移植認定医、日本静脈経腸栄養学会認定医。

鎖肛の概要

鎖肛(さこう)とは生まれつき肛門がない、または肛門が正常な位置にない病気です。
数千人に1人の割合で起こるまれな病気ですが、消化管の先天的異常の中では最も多いとされています。

先天性の病気であり、原因は明らかになっていません。
多くは出生直後の視診によって診断されます。胎児の全身状態をチェックする際の直腸での体温測定により発覚することもあります。

症状としては体の中に便がたまることで、腹部膨満や嘔吐などの便秘症状が出現します。
小さな穴が空いているタイプの鎖肛の場合、出生後すぐに病気に気づかないこともあります。
その場合、まれに便秘が悪化して腸管が拡大し腸が破れる(腸管穿孔)ことがあり、腹膜炎に発展する危険性があります。

鎖肛の治療は手術が基本です。鎖肛は直腸の高さと肛門括約筋との位置関係によって、3つのタイプがあり、直腸末端の高さによって低位型、中位型、高位型に分類されます。どのタイプに当てはまるかによって、治療方法は異なります。
手術によって体外へ便を出すことは可能になりますが、術後は排便のコントロールが課題となります。便意が弱いことや筋肉量が少ないため、十分に自力で排便することが難しい状態です。
中位型や高位型では、便失禁や便秘がみられることもあります。術後も長期的に下剤や座薬、浣腸による排便管理をおこないます。

薬で排便を手助けしながら、自分の力でトイレに排便できるように長期間にわたり通院治療が必要です。排泄機能は生活に密接に関わる問題です。排便トレーニングを継続することで、子どもの排便の自立を促し生活の質を向上させることができます。

鎖肛

鎖肛の原因

鎖肛(さこう)の原因はいまだ解明されていません。ですが妊娠初期の胎児発育中に肛門や直腸が正常な位置に形成されないことが主な要因であると考えられています。

胎児の初期には、直腸と肛門は膀胱などの泌尿器とつながっています。妊娠2ヶ月半頃までにそれぞれの臓器に分かれて発育します。女の子の場合は分かれた直腸と尿管の間に膣や子宮が下りてきます。
泌尿器系や生殖系の発生の途中で異常が生じると、男の子は直腸と尿道や膀胱との間、女の子は直腸と膣や子宮との間に小さな通路(瘻孔)ができることがあります。

鎖肛の前兆や初期症状について

鎖肛(さこう)の症状には、便秘や腹部膨満があります。
体外に便をだすことができないため、体内に便やガスが溜まるのが理由です。

鎖肛には本来の肛門位置あるいはその前方に小さな穴(瘻孔)がみられるものもあります。
男の子は膀胱や尿道に直腸がつながっている場合があるため、便が混じった尿がでたり排尿時にガスの匂いがしたりすることがあります。
一方、女の子の場合は子宮や膣と直腸がつながっていることがあるため、膣から便が出るなどの症状が現れる場合もあります。また、女の子場合、正しい位置に肛門がなくても膣のすぐ後方に小さな穴(瘻孔)が開いていることがあります。これは通常、低位の鎖肛として治療されることが多いです。

出生時に鎖肛に気づかれないままだと、貯留した便によって腸管が膨らみ消化管が破れると、腹腔内に食べものや消化液などが漏れ出します。漏れ出た消化管の内容物は刺激が強く細菌を含んでいるため、重度の炎症がおきまれに腹膜炎を発症することもあります。

鎖肛の検査・診断

多くは出生直後胎児の全身状態を観察する際に、会陰部やお尻の視診で発見されます。出生後は直腸で体温を測りますが、体温計が直腸に入らないことで見つかるケースもあります。

鎖肛(さこう)は、直腸の高さと肛門括約筋との位置関係によって治療方針が変わってきます。
直腸末端が肛門括約筋より上で終わっているものを「高位型」、途中で終わっているものを「中間型」、通過しているものを「低位型」といいます。
直腸末端が肛門の皮膚側に近い順から低位型、中間型、高位型です。どの型であるのかを判断するために、レントゲン検査で直腸末端の位置を確認します。

またその他の先天性疾患を合併していることもあるため、全身の検査もおこないます。
鎖肛に合併する主な奇形は以下のとおりです。

  • 泌尿生殖器系奇形(水腎、膀胱尿管逆流症、水尿管)
  • 脊髄・脊椎奇形
  • 心大血管奇形
  • 十二指腸閉鎖
  • 食道閉鎖
  • 染色体異常 など

これらの合併症は新生児期にレントゲン検査や超音波検査で確認します。

鎖肛の治療

鎖肛(さこう)のうち肛門がないタイプの場合は、緊急手術をおこないます。
どの型であっても最終的には根治を目指せますが、術後も通院しながら排便トレーニングをおこなう必要があります。

手術方法については、病型により下記のように異なります。

低位型の手術

低位型の場合は、男児では新生児期に新しく肛門を作る肛門形成術とよばれる手術をおこない、多くの場合一度の手術で根治が望めます。一方、女児の低位で多い肛門膣前庭瘻などでは、出生後は肛門拡張術などで排便ができるようにした後、乳児期に肛門を作る手術をすることが多いです。低位型の場合、術後の排便機能は良好の場合が多いといわれています。

中間型、高位型の手術

中間型や高位型の場合は、2段階にわけて手術をおこないます。
新生児期には、人工肛門(ストーマ)を作る手術をします。人工肛門増設術は、便の排泄の出口を新しくつくるために腸の一部を直接お腹の外に出す手術です。術後はお腹の上から便がでるようになります。ストーマからでてくる便は、パウチとよばれる専用の装具をお腹に貼って便を受け止めます。パウチは便だしや定期的な交換が必要です。

人工肛門により便が排泄できるようになると、母乳やミルクで栄養をとれるようになります。赤ちゃんの成長を待ち直腸や肛門の筋肉が発達した段階で、肛門形成術をおこないます。新しい肛門ができ排便に問題がないことを確認した後に、人工肛門を閉じます。

術後の治療

術後の排便機能は低位型では良好ですが、中間位型と高位型では便秘や便失禁などの排便障害がみられることがあります。
鎖肛の患児は肛門の周りの筋肉や神経が未熟です。便が溜まったことを感じづらかったり便を出す力が弱かったりするため、便秘や便もれが生じます。

手術だけでは自分で排便する力が身につかないため、術後の排便トレーニングが重要になります。

排便は生活と密接に関わる問題です。便秘や便漏れがあると、生活の質の低下につながります。排便のことで困らない状態になることを目指して、退院後も通院しながら排便トレーニングをおこなっていきます。具体的には毎日一定のペースで浣腸をおこない、毎日同じ時間に排便する習慣をつけていきます。決まった時間にトイレに座れば、少しずつ自分の力で排便することができるようになるといわれています。

鎖肛は適切な手術とケアによって、多くの子供たちは正常な生活を送ることができます。
排便の自立は長期的に取り組む必要があり、子どもにとって排便ケアは生涯を通じて向き合う課題です。親としては病気について十分な知識を持ち、医師や専門家と協力して治療に取り組むことが大切です。

鎖肛になりやすい人・予防の方法

鎖肛(さこう)になりやすい人の特徴は、現在のところ分かっていません。
鎖肛は数千人に1人の頻度で起こる生まれつきの病気のため、予防法もありません。


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