監修医師:
井林雄太(田川市立病院)
目次 -INDEX-
腸重積症の概要
腸重積症とは、腸の一部が隣接する腸管の中にtelescopingのように入り込んでしまうことで起こる病気です。この状態になると、腸閉塞を引き起こし、血流が滞ってしまうために、緊急を要する疾患となります。
腸重積症の原因
小児の腸重積症の多くは原因がはっきりしない「特発性腸重積症」です。考えられる要因としては、ウイルス感染の後に回腸のリンパ組織(パイエル板)が腫れたり、腸間膜のリンパ節が腫れたりすることが挙げられます。年齢が上がると、ポリープやMeckel憩室、腸管重複症、IgA血管炎などの病気によって腸重積症が起こることが増えます。特に5歳以上の小児では、約60%がこれらの病変が関係している腸重積症です。再発性の腸重積症や「小腸-小腸型」の腸重積症の場合、こうした病変の存在を疑う必要があります。
また、ロタウイルスワクチン接種後に腸重積症のリスクがわずかに増加するという報告もあります。しかし、ワクチン接種によってロタウイルス胃腸炎による入院や死亡を減らす効果は、このリスクを大きく上回ると考えられています。
腸重積症の前兆や初期症状について
小児の腸重積症は、初期症状が他の一般的な病気と似ていることが多く、見逃されやすいです。
初期症状
腹痛、嘔吐、血便などの典型的な症状がすべて揃わないことも多く、診断が難しい場合があります。
腹痛
小さな子どもは腹痛を言葉で表現できないことが多く、間欠的啼泣(かんけつてきていきゅう)として現れることがよくあります。これは、激しい痛みで泣き、痛みが治まると泣き止むのを繰り返すことです。
血便
よく知られている「イチゴゼリー状の血便」が見られる場合もありますが、血便が出ない場合や、逆に鮮血が見られることもあります。
活気不良
子どもが元気をなくし、ぐったりしている様子も腸重積症の重要なサインです。
重要なポイント
乳幼児でこれらの症状が見られた場合、早めに小児科を受診することが大切です。腸重積症は早期診断・治療が重要です。
腸重積症の検査・診断
小児の腸重積症は、症状がさまざまでほかの病気と似ていることが多く、診断が難しい場合があります。特に、血便や腹部にしこりができる典型的な症状が出る前に、早めに診断し治療を行うことが重要です。
問診
保護者から、腹痛(特に間欠的な泣き方)、嘔吐、血便、腹部のしこり、ぐったりした様子がないか、また最近ウイルス性胃腸炎にかかったかどうかを確認します。
身体診察
お腹を触って、ソーセージ状のしこりがないかを確認します。
右下腹部が空虚になっている「Dance徴候」が見られれば、腸重積症を疑います。痛みが強くて触れない場合や、ぐったりしている場合は、重症の可能性があるため、迅速な対応が必要です。
検査
腹部超音波検査(US)
腸重積症の診断に最もよく使われる検査です。
利点
子どもへの負担が少なく、ベッドサイドで行えることもあります。診断の正確性が高く、腸の血流状態や病変も確認できます。
所見
短軸像では、target sign(標的徴候)、長軸像ではpseudokidney sign(偽腎徴候)が特徴です。
注腸造影検査
直腸から造影剤を入れて、X線で腸の様子を観察します。
利点
診断と同時に、高圧浣腸で治療ができることがあります。
所見
腸重積症があると、造影剤が詰まった部分がカニ爪のような形になります。
腹部X線検査
腸重積症の確定診断には向いていませんが、ほかの病気との区別や合併症を確認するために使います。
腹部CT検査
放射線の被曝があるため、乳幼児にはあまり使用しませんが、診断が難しい場合や、小腸同士の腸重積症が疑われる場合に使います。
腸重積症の治療
小児の腸重積症の治療法は、大きく分けて「非観血的整復術」と「観血的整復術(手術)」の2つがあります。
- 非観血的整復術
- 高圧浣腸
肛門からチューブを挿入し、空気や造影剤を使って圧をかけて腸重積症を解除する方法です。日本では、6倍に薄めた造影剤(ガストログラフィン)や空気を使うことが多いです。成功率は80〜90%と高く、ほとんどの場合、この方法で治療が可能です。ただし、腸に穴が開くリスクがあるため、慎重に行う必要があります。特に、生後3か月未満の赤ちゃんや腸閉塞の症状がある場合は注意が必要です。
超音波ガイド下整復術
超音波で腸重積症の位置を確認しながら、生理食塩水を注入して整復する方法です。放射線被曝がないという利点があります。
観血的整復術(手術)
非観血的整復術が成功しない場合や、腸管壊死、腹膜炎、遊離ガス(腸に穴が開いた時に見られるガ
開腹手術
お腹を切り開き、腸重積症を直接治す手術です。
Hutchinson手技
重積した腸を押し戻す手技です。
腹腔鏡下手術
お腹に小さな穴を数カ所開け、そこからカメラや器具を使って行う手術です。
利点
傷が小さく、痛みが少ない、回復が早いというメリットがあります。ただし、手術中に開腹手術へ移行することもあるため、高度な技術が必要です。
治療後の再発
腸重積症は治療後に再発することがあります。再発率は、非観血的整復術後の方が手術後より高いとされています。再発した場合は、再び同じ治療を行いますが、再発が続く場合は、原因となる病変がないか詳しく調べます。
腸重積症になりやすい人・予防の方法
なりやすい人
乳幼児
腸重積症は、生後3ヶ月から3歳までの子どもによく見られます。特に生後12ヶ月未満の子どもに多く、これは腸の発達がまだ完全ではないことと関係しています。
低出生体重児
最近では、低出生体重児での腸重積症の報告も増えています。
男児
腸重積症は男の子に多く、女の子に比べて約2倍の発生率があります。
ウイルス感染症後
風邪などのウイルス感染後に腸重積症を起こすことがあります。これは、ウイルスによって腸のリンパ組織が腫れることが原因の一つです。
ロタウイルスワクチン接種後
家族歴
家族に腸重積症の経験がある場合、その子どもも腸重積症になりやすいという報告があります。
予防方法
腸重積症の多くは原因がわからないため、予防が難しいですが、次の点に注意することでリスクを減らせるかもしれません。
ウイルス感染症の予防
日頃から手洗いやうがいをしっかり行い、ウイルス感染を防ぐことが大切です。
規則正しい生活習慣
バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動を心がけ、免疫力を高めることが重要です。
関連する病気
- 腸閉塞(イレウス)
- 腸ポリープ
- メッケル憩室
参考文献
- 日本小児救急医学会ガイドライン作成委員会(編): エビデンスに基づいた 小児腸重積症の診療ガイド ライン 改訂第 2 版,へるす出版,東京,2022
- 大橋研介,越永従道,池田太郎ほか.症例から学 ぶ:超低出生体重児にみられる腸重積症.小児外科 2012;44