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セリアック病
中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

セリアック病の概要

セリアック病とは、小麦や大麦などに含まれるグルテンによって十二指腸や空腸(小腸の一部)に慢性的な炎症が起こることで、腹痛や下痢などの症状が現れる病気のことです。

この病気は遺伝が関係していることが多く、自己免疫疾患(身体の免疫系が誤って自分の組織を攻撃する病気)の一つと考えられています。

欧米諸国では、セリアック病を発症するケースが人口の約1%とされていますが、日本では発症するケースはまれです。

セリアック病を治療せずに放置すると、長期にわたって重篤な合併症を引き起こすため、早期の診断と適切な治療が重要です。

セリアック病

セリアック病の原因

セリアック病の原因は、主に遺伝的要因と環境的要因の2つに分けられます。

遺伝的要因

遺伝的要因には、HLA-DQ2またはHLA-DQ8という特定の遺伝子を持つ人が発症しやすいことが知られています。

セリアック病を発症した人の90〜95%にHLA-DQ2がある一方で、HLA-DQ8がある人の割合は約5%です。

これらの遺伝子を持つ人は、グルテンに対する免疫反応が過剰になりやすく、その結果、小腸に炎症を引き起こします。一方で、いずれの遺伝子もない場合は、セリアック病を発症する可能性は低いと言われています。

また、家族にセリアック病の患者さんがいる場合は、同様の遺伝子を持つ確率が高く、発症リスクが増加します。

環境的要因

小麦の摂取量が多いとされている欧米諸国では、セリアック病を発症する人が多いです。地域による発症率の違いにも、環境的要因が関与していると考えられています。

また、乳幼児に対してグルテンを含む離乳食を早い段階で開始することで、セリアック病のリスクが高くなります。

近年、都市化や生活スタイルの変化がセリアック病の発症に影響を与える可能性があることが示唆されています。

さらに、加工食品の普及に伴い、食生活が変化し、多量の小麦製品を摂取する機会が増えたこともリスク要因とされています。

セリアック病の前兆や初期症状について

セリアック病の前兆や初期症状は多岐にわたります。小腸が炎症を起こし絨毛(じゅうもう:小腸の内側にある栄養素を吸収する小さなヒダ)が平らになることで、消化器症状や栄養の吸収不良などさまざまな症状が現れます。

  • 下痢
  • 鉄欠乏性貧血
  • 腹満感
  • 体重減少
  • 易疲労感
  • 嘔吐
  • 抑うつ
  • 皮膚症状
  • 骨粗鬆症
  • 精神症状(てんかんや統合失調症)
  • 不妊
  • 関節炎
  • 神経症状

子どもで発症すると、成長障害を起こすこともある一方で、無症状のケースもあります。

セリアック病は、日本での認知度が低いため、下痢や腹満感などの症状から過敏性腸症候群や炎症性腸疾患など他の病気と診断され見過ごされることもあります。

また、うつ症状や不安感といった精神的な影響が現れることもあり、これらが生活の質を低下させる要因になります。

セリアック病の検査・診断

セリアック病には、統一された診断基準はありません。

血液検査や内視鏡検査(いわゆる胃カメラのこと)などの検査結果や、グルテンを除去した食事療法で症状が改善するかなどから総合的に判断して、セリアック病と診断されます。

セリアック病の患者さんはグルテンを含む食事を摂ると、体内で特定の抗体(体内に侵入した異物を排除するタンパク質)が生産されます。

血液検査では、その抗体である「抗tissue transglutaminase(TG)-2 特異的 IgA 抗体」が検出されるかどうかを確認します。

この抗体が検出された場合は、診断確定のために内視鏡検査が行われます。内視鏡を用いて食道や胃、十二指腸を観察します。

また、内視鏡検査に併せて小腸の生検(一部の組織を採取して顕微鏡で検査すること)も行い、絨毛の損傷の程度や異常所見の有無を確認します。

遺伝子検査(細胞を採取して遺伝子の変化を調べる検査)によってHLA-DQ2またはHLA-DQ8の存在を確認することもありますが、主に診断を補助するために行われます。

さらに、グルテンが含まれた食事を控えることで、症状が改善するかどうか確認することは診断指標のひとつです。

セリアック病の診断は迅速かつ正確に行うことが重要です。適切な診断が行われない場合、長期間にわたり症状が悪化し、健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

そのため、疑わしい症状がある場合は早めに医師に相談し、適切な検査を受けることが推奨されます。

セリアック病の治療

セリアック病の治療は、グルテンを含まない食事を続けることです。

これにより、自己免疫反応を防ぎ、腸の絨毛の回復に期待できます。通常は、グルテン除去食(GFD:Gluten Free Diet)を始めてから1~2週間で症状は改善すると言われています。

ただし、小麦は主食のひとつであり、麺類や加工食品の多くにも入っているため、グルテン除去食の摂取を続けることは簡単ではありません。例えば、以下のような食品にグルテンが含まれています。

  • パン
  • ラーメン
  • うどん
  • アイスクリーム
  • ホットドッグ
  • 市販のスープ など

また、栄養不足を補うために鉄分やビタミンD、カルシウムなどの栄養素が必要となるケースもあります。

厳密な食事の管理が必要となるため、医師や管理栄養士と相談しながら治療することが大事です。

さらに、ストレス管理も重要な要素であり、ストレスが腸の健康に影響を及ぼすことから、リラクゼーション法や適度な運動を取り入れることも治療に役立つとされています。

セリアック病になりやすい人・予防の方法

セリアック病になりやすい人は、HLA-DQ2またはHLA-DQ8という遺伝子を持つ人や家族にセリアック病の患者さんがいる人です。

ただし、セリアック病は日本人にとって珍しい病気であり、適切に診断されないケースもあります。

セリアック病の予防には明確な方法が存在しませんが、発症のリスクのある人が早期に適切な検査を受け、症状が出た場合には速やかに医療機関を受診することが重要です。

また、腸内環境を整えることや健康的な食生活を維持することも、セリアック病の発症リスクを減らす可能性があります。

特に、過度な小麦製品の摂取を控え、バランスの取れた食事を心がけることが勧められます。さらに、定期的に健康チェックを受けて、早期に身体の変化に気づくことが、症状の進行を防ぐためにも有効です。


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参考文献

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