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食道アカラシア
伊藤 喜介

監修医師
伊藤 喜介(医師)

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名古屋卒業後、総合病院、大学病院で経験を積む。現在は外科医をしながら、地域医療に従事もしている。診療科目は消化器外科、消化器内科。日本外科学会専門医、日本消化器外科学会専門医・消化器がん外科治療認定医、日本消化器病学会専門医、日本腹部救急医学会認定医、がん治療認定医。

食道アカラシアの概要

食道アカラシアは、下部食道括約筋(lower esophageal sphincter:LES)の弛緩不全と食道体部の正常蠕動の消失により、食物の通過障害や、食道の異常拡張などがみられる食道運動機能障害となります。食道アカラシアの頻度は1年あたり10万人に1人程度発症し、男女差はほとんどありません。また、好発年齢にも特徴的なものはなく、発症年齢は20~60歳以降まで広く分布しています。
さらに、食道アカラシア患者では、食道がんのリスクが高くなることが報告されており、またQOLも著しく低下することから、早期に発見することが好ましいと考えられます。

食道アカラシアの原因

健常者の食道は迷走神経と食道の筋層間神経叢によって支配されており、抑制系神経と興奮系神経のバランスがとられていることで、嚥下直後の正常な一次蠕動波が形成されます。しかし、食道アカラシア患者では遠位食道やLESの筋層間神経叢が消失するため、抑制系神経が障害されて興奮系神経優位となります。これによって、LES弛緩不全、遠位食道の異常収縮や食道短縮が起こります。
その原因として、遺伝ウイルス感染自己免疫変性などが考えられているものの、いまだその原因は不明となっています。

食道アカラシアの前兆や初期症状について

食道アカラシアでは90%以上の患者さんに嚥下困難つかえ感、75%程度に胸焼け、45%程度に逆流症状といった胃食道逆流症状が見られます。また、その他の症状として、咳・喘息症状、誤嚥、咽頭痛、嗄声といった咽頭・呼吸器症状や、胸痛を認める場合もあります。
しかしながら、これらの症状はアカラシアだけに特徴的な症状ではないため、症状だけで診断することは困難となります。このような症状が見られた場合は、まずは内科消化器内科を受診することがすすめられます。

食道アカラシアの検査・診断

食道アカラシアを疑う症状が見られた場合は以下のような検査を用いて診断を行います。検査をする上で大切なこととして、まずは悪性腫瘍(がん)などの器質的疾患を除外すること、一つの検査だけでなく複数の検査の所見から総合的に診断することがあります。

上部消化管内視鏡検査(EGD)

いわゆる胃カメラのことであり、嚥下障害やつかえ感を認めた場合にまず行う検査となります。必要に応じて生検を行うことで、好酸球性食道炎の除外や、逆流性食道炎、腫瘍や瘢痕狭窄などの器質的疾患の除外をします。
食道アカラシアを疑う内視鏡所見としては、食道拡張、食物残渣貯留、反転観察時の巻き込み像などがありますが、これらの所見は進行例に見られることが多くなります。
また、早期の食道アカラシアに特徴的な所見としては深吸気時の下部食道観察で柵状血管の消失と狭窄部に集簇する放射状の壁を認めるesophageal rosetteや、食道内を縦走するスジ状所見であるpin stripe patternなどがありますが、いずれも確定診断をつけることはできません。

食道造影検査(UGI)

バリウムなどの造影剤を嚥下しながらレントゲンを撮影することで食道の形状を観察することができます。狭窄を示唆するクチバシ状の所見であるbeak signや、食道内の造影剤の貯留が認められます。
また、バリウム嚥下後1分・2分・5分後の食道内バリウムの高さを評価するTBE(timed barium esophagogram)も有用な所見となります。1分後に5cm、5分後に2cm以上の貯留を認めた場合は診断に有用と考えられます。

食道内圧検査(HRM)

食道アカラシアを診断するために最も有用な検査となります。食道の内圧は食道の運動を反映するため、喉から食道、胃の入り口までの食道の動きを記録することができます。内視鏡や胃食道逆流症の通常治療で治らない嚥下障害やつかえ感を有する患者さんには積極的におこなわれます。
検査方法としては鼻からセンサー付きのカテーテルを挿入し、胃まで到達したことを確認します。その後、一定の間隔で水を飲み食道の内圧を記録していきます。食道アカラシア患者では、100%failed peristalsis(完全な蠕動の消失)もしくはspasmと、LES弛緩不全が認められます。

また、食道内圧のパターンから食道体部内に圧上昇を認めないType1、20%以上に30mmHg以上の全食道収縮(pan-esophageal pressurization)がみられるType2、20%以上に遠位食道spasmが見られるType3に分類する、シカゴ分類が用いられます。

食道アカラシアの治療

食道アカラシアの病態である、LES弛緩不全と食道壁の運動異常を回復させるような治療は存在しません。そのため、各種検査によって食道アカラシアと診断された場合、LES圧を低下させ、食道から胃内へ通過させるような治療を必要とします。
治療方法は体への侵襲の少ない順に薬物療法、内視鏡治療、外科治療(手術)があり、それぞれ解説していきます。

薬物療法

LES圧低下作用があるカルシウム拮抗薬や亜硝酸薬などを内服することで症状改善をはかります。

内視鏡的治療①、バルーン拡張術

内視鏡下食道バルーン拡張術は、LES部をバルーンで広げて筋肉の一部を裂くことで通過をよくする治療となります。穿孔のリスクや、再治療を要する場合もあるため注意が必要です。40代以上、女性、Type2の患者さんには治療効果が高いことがわかっています。

内視鏡的治療②、筋層切開術

2016年から保険適用となった新しい治療法となります。POEM(Per-oral Endoscopic Myotomy)と呼ばれています。異常収縮部の5cm手前の食道粘膜を切開してエントリーを作成し、LESを超えて2〜2.5cm胃側まで筋層を切開する方法です。短期的な成績は良好となっていますが、長期的な成績はまだ明らかにはなっていません。

外科治療

食道胃接合部の筋層を切開するヘラー(Heller)手術と、胃から食道への逆流を防ぐドール(Dor)噴門形成術を同時に行うHeller-Dor手術が行われます。以前は開腹手術でしたが、現在は腹腔鏡下に手術を行うことが可能であり、より侵襲の低い治療が可能となっています。

食道アカラシアになりやすい人・予防の方法

食道アカラシアになりやすい人は現在も明らかになっていません。よって、予防する方法もありません。
また、症状もアカラシアに特徴的なものはなく、胃食道逆流症などと同じような症状を呈します。そのため、逆流症状などの症状が見られた場合には早期に病院を受診し検査、診断を行うことで、早期発見、治療につなげることが重要となります。


関連する病気

  • 食道癌
  • 胃食道逆流症(GERD)

参考文献

  • 医学書院 専門医のための消化器病学 第3版

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