

監修医師:
大坂 貴史(医師)
胃粘膜下腫瘍の概要
胃粘膜下腫瘍は、胃の粘膜より深い層から発生する腫瘍の総称で、中でも消化管間質腫瘍 (GIST) が有名です。
進行するまで気づかれなかった場合には吐血や血便といった症状を契機に発見されることもありますが、初期には症状がほとんどなく、定期的な健康診断やがん検診、他の検査中に偶然発見されることが多いです (参考文献 1) 。
診断には超音波検査内視鏡下穿刺生検法 (EUS-FNA) による超音波検査と生検、病理診断を軸に、CTやMRI で腫瘍の病勢を探っていきます。治療は腫瘍の種類や大きさ、症状の有無によって異なり、内視鏡治療、手術、化学療法が選択肢になります。
胃粘膜下腫瘍の原因
いわゆる「胃癌」は胃の壁の最も表層にある粘膜から発生する癌と考えられていますが、「胃粘膜化腫瘍」はその名の通り、粘膜よりもさらに深いところから発生する腫瘍全般のことをいいます。胃粘膜下腫瘍には様々な腫瘍疾患が含まれており、良性のものから、胃癌のように「がん」としての対応が必要な悪性のものまであります。
粘膜下組織を構成する様々な種類の細胞が腫瘍の発生母体となることが知られていて、平滑筋細胞や脂肪細胞、神経系の細胞が原因となる場合もあります。
胃粘膜化腫瘍の中でも有名なものには消化管間質腫瘍 (GIST; ジスト) があり、これは胃の動きを調整するカハールの介在細胞と呼ばれる細胞から発生するのではないかと考えられています。
胃粘膜下腫瘍の前兆や初期症状について
胃粘膜下腫瘍は、初期には症状が現れないことが多く、健康診断や他の疾患の検査中に偶然発見されることが多いです。
しかし、腫瘍が大きくなったり、粘膜下にとどまっていた腫瘍が胃壁の内腔表面に顔を出すようになると、そこから出た血を吐きだすことによる吐血や。便中に含まれる形で体外に排出されることによる血便が症状として出ることがあります (参考文献 1) 。
めだった初期症状はありませんが、胃癌検診や通常の定期健康診断などで、職場や自治体から内視鏡検査を勧められたらお近くの内視鏡検査ができる病院やクリニックで検査をしてみましょう。
胃粘膜下腫瘍の検査・診断
胃粘膜下腫瘍は検診での内視鏡検査や、他の疾患の精査中に偶然見つかることが多い病気です。
内視鏡検査は胃の内側にカメラを入れて表面を観察する検査のため、粘膜下の隆起として観察される粘膜化腫瘍では、詳細な検査が難しいです。
超音波機能を搭載した内視鏡で、粘膜の下に隠れている腫脹の内部の状態を観察する超音波内視鏡検査 (EUS) や、超音波内視鏡検査と同時に、腫瘍に針を刺して組織を採取する生検が診断に有用です (参考文献 1, 2) 。
EUSとFNAは同時に行われるため EUS-FNA (超音波内視鏡下穿刺生検法) ともよばれます。生検で採取した組織は、腫瘍のタイプの診断 (特に GIST か否かの診断) に加えて、悪性を疑う所見がないかを確認して、その後の治療法選択に役立てられます。
また、CTやMRIなどの画像診断も併用して、転移がないかを確認します (参考文献 1, 2) 。
胃粘膜下腫瘍の治療
検査の結果判明した腫瘍のタイプや大きさ、症状の有無によって治療選択が変わります。
GIST以外のタイプの腫瘍で、かつ症状がない小さな粘膜下腫瘍の場合には、定期的な内視鏡検査をして経過観察をする場合もあります (参考文献 2) 。
腫瘍がGISTと判明した場合には、原則手術での摘出が推奨されています (参考文献 2) 。
どのタイプの腫瘍か分からない場合にも腫瘍のサイズやによっては手術が選択される場合もあります(参考文献 2, 3) 。
腫瘍の大きさや場所によっては、手術療法ではなく内視鏡治療が選択される場合があるほか (参考文献 3) 、転移やお腹の中に腫瘍が散ってしまう播種とよばれる状態にあるなどで、摘出が難しい場合には化学療法によって病勢のコントロールを狙うこともあります (参考文献 2, 3) 。
化学療法では「イマチニブ」という慢性骨髄性白血病に対して使うことの多い分子標的薬を使用することが一般的です。
これらの治療でも腫瘍の病勢を抑えられてない場合には、使う薬剤を変更するほか、腫瘍を部分切除や、ラジオ波焼灼療法・動脈塞栓術などの低侵襲治療が選択肢になります (参考文献 3) 。
胃粘膜下腫瘍になりやすい人・予防の方法
胃粘膜下腫瘍発症のリスク因子はよく知られたものはありません。粘膜下腫瘍のタイプによっては悪性腫瘍としての対応が必要になることがありますので、早い段階で発見して適切な治療を開始することによる重症化予防が大切です。症状は進行するまで出てこないので、職場や自治体から勧められた検診・健診を受けることや、余裕があれば内視鏡検査のができる病院・クリニックで胃癌の検診の意味も兼ねて、定期的な内視鏡検査について相談してみると良いかもしれません。
関連する病気
- GIST(消化管間質腫瘍)
- 平滑筋腫(レイオミオーマ)
- 迷入膵
参考文献