監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
胃食道逆流症の概要
胃食道逆流症とは胃酸が食道へ逆流することにより、食道の粘膜がただれる病気です。中高年や高齢者に多くみられます。
胃食道逆流症の原因は食道と胃の機能・構造異常や、腹圧の上昇などの生活要因が挙げられます。
胃酸逆流に伴う自覚症状の有無と内視鏡検査による食道の炎症を認めた場合に診断されます。
主な症状として、胸焼け、口やのどの奥に酸っぱい液体が上がってくる感じなどが現れます。
これらの症状は食後2〜3時間までに起こることが多く、症状がみられた場合には胃酸が逆流している可能性があります。
薬物療法と生活習慣の改善が治療の基本となりますが、内服薬での改善がみられない場合や食道裂肛(しょくどうれっこう)ヘルニアを伴う場合には、手術の適応となる場合もあります。
胃食道逆流症の有病率は近年増加傾向にあり、10%前後と報告されています。
治療を受けなかった場合は、症状が慢性的に続くことで生活の質に影響を及ぼす可能性があります。
命の危険に関わるような病気ではありませんが、治療により症状は解消するため、不快な症状が続く場合は早めに受診しましょう。
胃食道逆流症の原因
胃食道逆流症は胃酸が食道に逆流し、食道の粘膜が傷つくことが原因でおこります。
胃の壁は胃酸が直接触れないように粘液などで守られているため、胃酸によって胃が傷つくことはありません。しかし食道は胃酸から身を守る機能が弱いので、胃酸に長く触れると炎症をおこしてしまいます。
胃酸が逆流する原因としては、以下が挙げられます。
噴門部の筋肉の緩み
通常は胃と食道のつなぎ目である噴門部が閉じた状態であり、胃の内容物の逆流を防いでいます。
噴門部には下部食道括約筋という筋肉があり、食道から胃へ食べ物が通過するときは、入口を緩めて食道から胃に食べ物が落ちます。
食べものを飲み込んだ後は下部食道括約筋が締まり、胃の内容物が食道に逆流しないようにしています。この筋肉が緩むと、胃から食道への内容物の逆流がおこるようになります。
食道裂肛ヘルニア
食道裂肛(しょくどうれっこう)ヘルニアとは、横隔膜の下にあるべき胃の一部が食道の方へはみ出してしまう病気です。
食道裂孔ヘルニアがあると、食道と胃のつなぎ目の締まりが悪くなり、胃酸が食道に逆流しやすくなります。
蠕動運動の異常
健康な人でも食後は胃酸が逆流することはありますが、逆流した胃酸は食道の蠕動運動(食べものや飲み物が肛門側へと押し出されるはたらき)によりすぐに胃に戻されます。
蠕動運動に問題が生じている場合、胃酸が食道に長く留まってしまうことがあります。
腹圧の上昇
お腹に圧力がかかりやすくなると、胃酸が食道へ逆流しやすくなります。腹圧が上がる原因は、食べすぎや肥満でお腹が押される、お腹に力をいれる、前かがみの姿勢をとるなどが挙げられます。
胃酸の分泌が増える
アルコールやコーヒー、脂肪が多い食事は胃酸の分泌が亢進すると考えられています。これらを摂取する際は、空腹時ではなく食間や食後に摂るなどの工夫が必要です。
胃食道逆流症の前兆や初期症状について
主な症状は、胸焼け、口やのどの奥に酸っぱい液体が上がってくる、胸が詰まるような痛みなどがあります。その他の症状として、のどの違和感、慢性的な咳の持続などを訴える人もいます。これは胃酸がのどまで逆流してきた場合にみられます。
胃食道逆流症の検査・診断
自覚症状から胃食道逆流症が疑われた場合は、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)をおこないます。
自覚症状で胸焼け、酸っぱいものが上がってくるなどの逆流症状があり、胃カメラで食道粘膜のただれがみつかった場合は胃食道逆流症と診断されます。
中には自覚症状がなく食道の炎症のみがみられる人、自覚症状はあるけれど食道炎がない人もいますが、自覚症状と食道炎のどちらか片方でもある場合は胃食道逆流症と診断されます。
胃食道逆流症の治療
胃食道逆流症の治療は、薬物療法と生活習慣の改善が基本です。
自覚症状や食道炎の程度に応じて、内服薬が選択されます。自覚症状や食道炎が軽い場合、日常生活に気をつけるだけで不快な症状なく過ごせることもあるので、その場合は薬は不要です。
内服薬で症状の改善や食道炎の改善がみられない場合、また長期にわたって薬を飲む必要がある場合、目立った食道裂肛(しょくどうれっこう)ヘルニアがある場合などは、手術が必要になることもあります。
生活習慣の改善
胃酸の逆流防止には、以下に挙げるような生活習慣を改善することが重要です。
- 食べすぎ、早食いをさける
- 食後2~3時間は横にならない
- 高脂肪食、アルコール、炭酸飲料、喫煙をできるだけ控える
- 頭を高くして寝る
- 肥満の場合は減量する
- 便秘を解消する
- ベルトや服でお腹を締め付けないようにする
- 長時間の前かがみの姿勢は避ける
内服治療
①胃酸の分泌を抑える薬
自覚症状や食道炎の程度に合わせて、プロトポンプ阻害薬(PPI)とカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P‐CAB)の2種類のうちいずれかを内服します。
ほとんどの場合は1〜2ヶ月薬を飲むことで、症状がやわらぎ食道炎の改善がみられます。
②胃酸を中和したり、胃酸による刺激を弱める薬
症状がでた時に補助的に使われる薬として、制酸薬、アルギン酸塩などがあります。内服後すぐに薬の効果が現れますが、効き目は20〜30分程度です。
③消化管の運動を改善する薬、漢方薬
胃酸の分泌を抑える薬で十分な効果が得られない場合に併用することがあります。
手術
大きな食道裂孔(しょくどうれっこう)ヘルニアがみられる場合には手術が有効です。また内服治療で症状や食道炎の改善がみられない場合、長期間にわたる内服が必要となる場合にも、手術が検討されます。実際に手術するかどうかは、手術の効果やリスク(年齢や基礎疾患の有無など)を考慮して判断されます。
食道裂肛ヘルニアの手術は横隔膜まで上がってしまった胃をお腹の中に戻し、胃で食道の下部分を包み込む噴門(ふんもん)形成術をおこないます。手術することで胃酸の食道への逆流を防ぐことが可能です。
現在では、開腹手術に比べて内視鏡による腹腔鏡手術が広くおこなわれています。
胃食道逆流症になりやすい人・予防の方法
胃食道逆流症になりやすい人の特徴としては、肥満やたばこを吸う人が挙げられます。
食道と胃のつなぎめである噴門部(ふんもんぶ)は胃の内容物が食道へ逆流することを防ぐための機能がありますが、日頃の生活における動作や食事のなかに噴門部の機能を低下させるものがあります。
続けていると胃食道逆流症の症状が出現することがあるので、以下の予防法を参考に生活してみてください。
生活面での予防法
お腹まわりの締めつけ、重いものを持つ、前かがみの姿勢、右を下にして寝る、肥満、喫煙などがあります。
胃の圧迫や腹圧が上昇することで、胃酸が逆流しやすくなるため気をつけましょう。
食事面での予防法
食べ過ぎ、寝る前の食事、脂肪が多い食事、甘いもの、アルコール、チョコレート、コーヒー、炭酸飲料、みかんなどのかんきつ類の摂取などが挙げられます。
脂肪の多い食事は下部食道括約筋が緩む原因です。食後は胃酸が多く分泌されるため、食べてすぐ寝ると胃酸が逆流しやすくなります。
生活習慣や食生活を見直すことによる症状改善には個人差がありますが、肥満の解消と上半身をやや起き上がらせて寝る姿勢は、胃酸逆流防止の効果が高いといわれています。
関連する病気
- 食道炎
- 食道裂孔(しょくどうれっこう)ヘルニア
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- 食道腺がん
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- 歯の酸蝕症(さんしょくしょう)