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前田 孝文

監修医師
前田 孝文(医師)

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京都府立医科大学卒業。その後、国内外複数の病院の勤務を経て、2012年より「辻仲病院柏の葉」にて骨盤臓器脱専門外来・便秘外来を担当、現在は臓器脱センター医長として勤務。
日本外科学会専門医・指導医、日本消化器外科学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医、日本大腸肛門病学会専門医・指導医、日本内視鏡外科学会技術認定医(一般外科:大腸)、消化器癌外科治療認定医身体障害者福祉法指定医(ぼうこう又は直腸機能障害、小腸機能障害)。

肛門周囲膿瘍の概要

肛門周囲膿瘍は肛門の周りに膿が溜まる病気で、傷ついた肛門組織から細菌が侵入して引き起こされます。

30-40歳の男性で発症しやすい病気ですが、乳児に発生することもあります。

壊疽性筋膜炎という緊急性の高い感染症の原因にもなり、最悪の場合、命に関わる可能性があります。

肛門周囲膿瘍は膿瘍が大きくなって周囲に広まると治療が複雑になることがあり、速やかに切開して膿を排出する必要があります。

肛門周囲膿瘍は痔瘻(じろう)という病気から発生することが多く、膿を排出するだけでなく、膿が溜まった原因を明らかにして、適切な治療を受けることが必要です。

肛門周囲膿瘍

肛門周囲膿瘍の原因

肛門周囲膿瘍は、膿の発生原因によって二つに分けられます。

①肛門と直腸の境目(肛門陰窩)から便の中の菌が肛門周囲の組織に入り込み感染する
②肛門周囲の皮膚(毛穴)から細菌が侵入し感染する

①の場合は、痔瘻(じろう)という病気が肛門周囲膿瘍の原因で、②は毛嚢炎や紛瘤(ふんりゅう)が原因となります。

肛門周囲膿瘍の前兆や初期症状について

肛門周囲膿瘍の主な初期症状は、肛門の周りの激しい痛みや腫れ、皮膚の赤み、発熱です。
皮膚から深い位置の膿瘍では、腫れがわかりにくいですが肛門の奥に鈍い痛みが現れます。

痛みの症状は、膿瘍が大きくなるにつれて次第に強くなります。

肛門周囲膿瘍の検査・診断

肛門周囲膿瘍では、主に以下のような検査が行われます。

  • 視診・指診・肛門鏡検査
  • 超音波(エコー)検査
  • CT検査
  • MRI検査
  • 瘻孔造影(ろうこう造影)

視診・指診・肛門鏡検査

肛門周囲膿瘍は視診や指診、肛門境検査で診断できます。

視診では肛門の周りの皮膚の赤みや腫れを確認し、指診で患部の膨らみや痛み、熱感を確認します。患部が赤く腫れ、熱っぽくて、痛みがあれば、肛門周囲膿瘍と診断できます。

肛門周囲膿瘍の原因が痔瘻である場合には、肛門鏡を肛門に挿入して観察することで、肛門陰窩に一次口という膿が出ている穴を確認できることがあります。

超音波(エコー)検査

超音波(エコー)検査は超音波を当てて画像を撮影する検査であり、肛門周囲膿瘍の診断に有効です。

プローブという指ほどの太さの棒を肛門に挿入して、肛門周辺にある膿瘍の部位や広がりの状態を確認します。

CT検査

CT検査は360°方向からX腺を体に向けて当てることによって、身体の輪切り画像を撮影する検査です。

CT検査は肛門から深い位置にある坐骨直腸窩膿瘍や骨盤直腸窩膿瘍の診断に優れており、適切な手術方法の選択に有効です。

MRI検査

MRI検査は磁気を利用して身体の断面を撮影する検査で、臓器の位置関係の把握に優れています。
深い位置にある肛門周囲膿瘍や走行の把握が難しい痔瘻の診断、手術方法の検討に有効です。

瘻孔造影

瘻孔とは臓器と他の臓器をつなぐ正常では存在しない管状の穴のことであり、瘻孔造影ではヨード造影剤を瘻孔に流し込み、時間の経過とともに造影剤の移動を観察します。

瘻孔造影は瘻管の広がりや、痔瘻の原因となっている原発口の位置を把握することに優れています。

直腸と膣のあいだにできる直腸膣瘻のような周辺臓器と交通している病変を合併している場合に行われます。

肛門周囲膿瘍の治療

肛門周囲膿瘍では、皮膚を切開し排膿するドレナージ術が第一選択であり、早急な治療が必要です。

蜂窩織炎(ほうかしきえん)や糖尿病、心臓弁膜症などの基礎疾患がある場合や、免疫が低下している状態、クローン病の合併症として発症している場合では、切開ドレナージだけでなく、抗生剤を用いた薬物療法を行うこともあります。

痔瘻が原因で潰瘍が発生している場合は自然治癒が難しく手術が行われますが、乳児の肛門周囲膿瘍では自然治癒することが多く保存的治療が検討されます。

ドレナージ術

肛門周囲膿瘍はできるだけ早く、速やかなドレナージ術をすることが重要です。

膿瘍が発生した部位や大きさによってドレナージ術の内容が異なります。

比較的浅い部分に発生した膿瘍のドレナージでは、局所麻酔で対応可能ですが、肛門の奥にできる膿瘍では、局所麻酔では十分な鎮痛効果が期待できないため、腰椎麻酔や仙椎硬膜外麻酔が検討されます。

薬物療法

薬物療法は免疫力が低下して感染症になりやすい状態の人や、蜂窩織炎や糖尿病、心臓弁膜症を合併している場合に行います。

肛門周囲膿瘍の原因は複数の細菌が関与している場合が多いため、肛門周囲膿瘍の治療では複数の抗菌薬を使用します。

クローン病を患っていて肛門周囲膿瘍や痔瘻を合併している場合では、メトロニダゾールやニューキノロン系、セフェム系の抗菌薬を投与します。

手術

肛門周囲膿瘍の原因が痔瘻である場合には、根本的な治療として手術を行います。

比較的浅い部分に発生した膿瘍の場合は、瘻管を肛門側の原発口から皮膚側の二次口まで切り開く開放術式を行います。

前側方の痔瘻や括約筋機能が低下している場合は括約筋温存術式や、瘻管に紐状の医療器具を挿入して縛るシートン法が適応になります。
シートン法はクローン病によって痔瘻が合併している場合にも適応されます。

肛門周囲膿瘍になりやすい人・予防の方法

蜂窩織炎や糖尿病、心臓弁膜症などの基礎疾患がある人や免疫力が低下している人は、肛門周囲膿瘍になるリスクが高いと言われています。

肛門周囲膿瘍の大半は細菌感染であり、下痢が発症の原因となることが報告されています。

免疫力が低下しないように規則正しい生活習慣を心がけ、体調管理に努めることが予防に効果的です。


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