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炎症性腸疾患
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

炎症性腸疾患の概要

炎症性腸疾患(IBD:Inflammatory Bowel Disease)は、主に腸の内壁が慢性的に炎症を起こす疾患の総称です。代表的な疾患として、「潰瘍性大腸炎(UC)」と「クローン病(CD)」の2つがあります。これらは腸管に炎症が生じ、長期間にわたり症状が現れたり再発したりする病気です。 潰瘍性大腸炎は、大腸の内側の粘膜に炎症や潰瘍ができる病気で、主に直腸や結腸に限られます。一方、クローン病は、消化管のどの部位にも炎症が生じる可能性があり、口から肛門まで、特に小腸と大腸に炎症がよく見られます。 IBDは、長期的に管理が必要であり、治療法が進歩しているものの、完全に治ることが難しい疾患です。炎症が起こると、腹痛や下痢、血便などの症状が現れるため、日常生活に大きな影響を与えることがあります。早期発見と適切な治療が症状の管理と生活の質を向上させる鍵となります。

炎症性腸疾患の原因

炎症性腸疾患の正確な原因は未だに完全には解明されていませんが、いくつかの要因が複合的に関与していると考えられています。以下に主な原因を説明します。

遺伝的要因

IBDには遺伝的な要素が強く関与しているとされています。家族にIBDを持つ人がいる場合、そのリスクが高まることが知られています。特にクローン病では、家族歴がある場合の発症リスクが高く、特定の遺伝子変異が関連していることも確認されています。

2. 免疫系の異常

IBDは、体の免疫系が過剰に反応して腸の内壁を攻撃することが原因とされています。免疫系が誤って腸の健康な細胞を外敵と認識し、攻撃を続けることで炎症が引き起こされます。この免疫応答の異常が、慢性的な炎症の発生に繋がります。

3. 環境的要因

生活環境や食事、喫煙、抗生物質の使用などの環境要因もIBDの発症に影響を与える可能性があります。食事の中でも、加工食品や脂肪の多い食事がIBDのリスクを高める要因とされています。また、クローン病では喫煙が発症や再発を促進することが確認されています。

4. 腸内細菌の異常

腸内には多くの細菌が共存しており、健康な腸内環境を保つために重要な役割を果たしています。IBDの患者では、腸内細菌のバランスが崩れ、病原性のある細菌が増加することで炎症が引き起こされると考えられています。特にクローン病患者では、特定の細菌の異常が確認されています。

炎症性腸疾患の前兆や初期症状について

炎症性腸疾患の症状は、炎症の部位や重症度によって異なりますが、以下のような前兆や初期症状が現れることが多いです。これらの症状が続く場合、早めに医師の診察を受けることが重要です。

1. 腹痛

腹痛はIBDの最も一般的な症状の一つです。特に、クローン病では、小腸に炎症がある場合、下腹部に痛みが出ることが多いです。痛みは食後に悪化することがあり、慢性的に続くことがあります。

2. 下痢

頻繁な下痢はIBDの特徴的な症状です。潰瘍性大腸炎では、血便を伴う下痢が特に多く見られ、直腸からの出血が原因であることが多いです。クローン病では、水様性の下痢が多く見られます。

3. 血便

炎症が進行すると、腸の粘膜が破れ、便に血が混じることがあります。潰瘍性大腸炎では、血便がよく見られる症状の一つであり、患者によっては大量の血便を訴えることもあります。

4. 体重減少

IBDは消化不良や吸収障害を引き起こすため、食事を摂っていても栄養が十分に吸収されず、体重が減少することがあります。特に、食欲不振や栄養吸収の不良が長期間続く場合、体重減少が顕著に現れることがあります。

5. 疲労感

慢性的な炎症による体の負担から、IBDの患者は慢性的な疲労感を感じることがあります。炎症により体がエネルギーを消耗するため、日常生活での活動が制限されることもあります。

6. 発熱

炎症がひどくなると、発熱が起こることがあります。特に、クローン病では、炎症が広範囲に及んだり、膿瘍が形成された場合に発熱を伴うことがよくあります。

炎症性腸疾患の検査・診断

IBDの診断は、症状の詳細な評価と、さまざまな検査によって行われます。IBDの診断は専門的な医療機関で行われ、正確な診断が重要です。以下は、IBDの診断に用いられる主な検査方法です。

1. 血液検査

血液検査では、炎症の指標であるCRP(C反応性タンパク)白血球数を調べ、体内での炎症の有無を確認します。また、貧血や栄養状態を評価するために、赤血球数や鉄分の量も測定されます。

2. 便検査

便検査では、便中の血液や白血球を検出することで腸内の炎症の程度を把握します。また、感染性の下痢との区別をつけるために、細菌やウイルスの有無も調べられます。

3. 内視鏡検査

大腸内視鏡検査や上部消化管内視鏡検査では、直接腸内を観察し、炎症や潰瘍、ポリープなどの異常を確認します。特に、潰瘍性大腸炎やクローン病の診断には欠かせない検査です。内視鏡検査中に組織を採取して、生検を行うこともあります。

4. 画像診断

CTやMRIなどの画像診断は、腸管外の炎症や腫瘍、膿瘍の有無を確認するために用いられます。特に、クローン病の患者では腸管全体に炎症が広がることがあるため、詳細な画像検査が必要です。

5. カプセル内視鏡

カプセル内視鏡は、小腸の内部を詳しく観察するために使用される方法です。カプセル型のカメラを飲み込み、消化管を通過させながら内部の映像を記録することで、通常の内視鏡では届かない小腸の炎症を確認することができます。

炎症性腸疾患の治療

IBDの治療は、炎症の抑制と症状の管理が主な目的となります。個々の患者の病状や炎症の部位、重症度に応じて、治療法が選択されます。以下に、IBDの一般的な治療方法を紹介します。

1. 薬物療法

薬物療法は、IBDの治療において最も基本的な治療法です。以下は、主に使用される薬剤の種類です。

  • 5-ASA製剤: 炎症を抑える薬であり、潰瘍性大腸炎の治療に広く用いられます。
  • ステロイド: 急性期の炎症を強力に抑える効果があり、重症の炎症にはステロイドが使用されます。ただし、長期間の使用は副作用が出やすいため、注意が必要です。
  • 免疫抑制剤: 免疫系の過剰な働きを抑えるために使用される薬です。特に、ステロイドの効果が不十分な場合や、再発を予防するために使用されます。
  • 生物学的製剤: 最近の治療法として、TNF-α(炎症を引き起こす物質)を抑える生物学的製剤が注目されています。これにより、炎症を抑える効果が高まり、難治性のIBD患者に有効とされています。

2. 外科的治療

薬物療法で十分な効果が得られない場合や、腸管の狭窄や閉塞、膿瘍が形成された場合には、外科的治療が検討されることがあります。特に、潰瘍性大腸炎では、全大腸切除が治療法の一つとして選択されることがあります。クローン病では、狭窄部位の切除や腸管の拡張手術が行われることが多いです。

3. 栄養療法

IBDの治療では、栄養状態を改善し、腸への負担を減らすために栄養療法が行われることがあります。特に、クローン病の患者に対しては、消化に負担の少ない栄養素を中心とした食事療法や、経腸栄養法が有効です。

炎症性腸疾患になりやすい人・予防の方法

炎症性腸疾患になりやすい人

  • 遺伝的な素因がある人: 家族にIBDの患者がいる場合、そのリスクが高まります。
  • 喫煙者: 特にクローン病では、喫煙が発症リスクを高める要因となります。
  • 高脂肪食の摂取が多い人: 高脂肪食や加工食品の摂取が多い場合、IBDのリスクが高まることが示唆されています。

予防の方法

IBDの予防法は確立されていませんが、以下のような対策が炎症の発症リスクを減らす可能性があります。

  • バランスの良い食事 脂肪分や加工食品の摂取を控え、野菜や果物、全粒穀物などをバランス良く摂取することで、腸内環境を整えることができます。
  • 禁煙 クローン病のリスクを減らすためには、禁煙が非常に重要です。喫煙は腸に悪影響を及ぼすため、IBDの患者は禁煙を強く推奨されます。
  • 適度な運動 身体活動は潰瘍性大腸炎のリスク低下とは関連していませんが、クローン病のリスク低下と関連しているとされています。
  • 十分な睡眠 睡眠不足は、潰瘍性大腸炎の発症リスクの増加や、IBD患者の病気の再発リスクの増加と関連しているとされています。
炎症性腸疾患は長期的な管理が必要な疾患ですが、適切な治療生活習慣の改善によって、症状をコントロールし、生活の質を向上させることが可能です。

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