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慢性胃炎
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

慢性胃炎の概要

胃炎とは、胃の粘膜に炎症を起こしている状態です。
胃の粘膜に炎症が起きる原因には、細菌感染薬剤ストレス飲酒喫煙食生活といった生活習慣が挙げられます。
急性胃炎とは、炎症の原因を避けることによって1日~数日で治癒するものを指し、慢性胃炎は胃の粘膜の炎症が長期間持続しているものを指します。一般的に『胃炎』という言葉は急性胃炎を指すことが多いですが、検診や内視鏡所見で診断される『慢性胃炎』は持続的な炎症状態を意味します。

慢性胃炎の主な原因は、ピロリ菌の感染です。上部内視鏡検査(胃カメラ)によりピロリ菌に感染していることがわかった場合は、除菌治療が推奨されます。

慢性胃炎の治療をせずに長期間経過すると、胃の粘膜や組織が萎縮し胃液の分泌が少なくなる萎縮性胃炎となります。
ピロリ菌に感染していると、感染していない場合と比べて胃がんになる確率が高くなることが分かっています。また、除菌した後も胃がんにかかるリスクはゼロにはならず、年率0.4%から0.5%の確率で起こること、萎縮性胃炎など除菌前の胃炎の状態が進んでいるほど発生リスクが高くなると、国立がんセンターの報告があります。
よって、胃がんの早期発見のため、除菌後も1年に1回の胃カメラによる経過観察を行いましょう。

慢性胃炎の原因

慢性胃炎の主な原因は、ピロリ菌感染です。その他には、自己免疫性胃炎(A型胃炎)薬剤ストレス生活習慣なども原因となります。

ピロリ菌

ピロリ菌は胃の粘膜表面に生息する菌で、正式な名称は「Helicobacter pylori (ヘリコバクター・ピロリ)」と言います。この菌はウレアーゼという酵素を使って胃酸を中和することで、胃の中で生きていくことができます。ピロリ菌は、体内に入ると除菌しない限り胃の中で生き続けます。ピロリ菌の感染者は感染していない人に比べて胃がんのリスクが5倍になるそうです。また、日本人の胃がん患者の約99%はピロリ菌に感染していることが知られています。

日本において、ピロリ菌の感染者数は3000万人を超えており、感染率は50歳以降では70%以上で年齢が下がるとともに減少し、10〜20歳では10%程度と報告されています。
若い世代の多くは、幼少期にピロリ菌に感染していた両親が口移しで離乳食などを与えたことによる家庭内感染によって感染したと考えられています。一方、高齢者の場合は、上下水道が十分に整備されていない状態で生水を摂取したことによる環境的要因が指摘されています。衛生環境が改善された現代では、感染者は減少傾向にあります。

自己免疫性胃炎(A型胃炎)

免疫異常によって、自分の免疫細胞が胃の特定の細胞を攻撃し、慢性的な炎症を起こす病気です。胃がん発症の原因にもなるため、定期的な胃カメラが必要です。

薬剤

非ステロイド性鎮痛薬(NSAIDs)副腎皮質ステロイド薬抗血栓薬など、他の疾患の治療のために服薬している薬剤によって、慢性胃炎となる場合があります。
原因となる薬剤は慢性疾患の治療に必要な場合が多く、対象となる薬剤を中止することは困難なケースがほとんどです。
特にNSAIDsが原因である場合は、無症状にもかかわらず胃粘膜傷害胃潰瘍を生じていることがあり、注意が必要です。
また、高齢者の場合も症状が明らかではないことが多いため、注意深い観察が必要です。

ストレス

過労、不眠、不安、心配事などのストレスを受け続けると、胃の働きをコントロールしている自律神経が乱れて胃酸が過剰に分泌されたり、胃の消化活動に影響を及ぼすことがあります。

生活習慣

食べすぎ・飲みすぎ、刺激物、アルコール、タバコ、香辛料、果汁、炭酸飲料などは、胃酸の分泌を促進し炎症を助長する原因になりうるため控える必要があります。

慢性胃炎の前兆や初期症状について

症状

  • 胃痛
  • 胃部膨満感
  • 胃もたれ
  • 胃の不快感(重い感じがするなど)
  • 吐き気
  • 嘔吐
  • 食欲不振

急性胃炎と同様な症状を示しますが、急性胃炎に比べて症状は明瞭でなく、自覚症状がほとんどないこともあります。

これらの症状があり、慢性胃炎が心配な時や治療したい場合は、上部消化管内視鏡の検査が行える消化器クリニック(消化器内科、消化器外科、内視鏡科など)を受診することをおすすめします。

慢性胃炎の検査・診断

問診

ピロリ菌の除菌歴家族歴を確認します。
ピロリ菌は家庭内感染が主な感染経路であるため、家族のピロリ菌感染の有無、胃潰瘍や胃がんなどの既往歴が有用な情報となります。

胃内視鏡検査

胃カメラ検査ともいわれます。口や鼻から内視鏡を胃の内部まで通し、胃の粘膜の状態や色調などを観察します。胃の粘膜の炎症が進行して萎縮性胃炎などを確認します。

胃X線検査

バリウム発泡剤を飲み、X線を照射して胃の状態を観察する検査です。胃の中全体に行き届くようにバリウムを付着させて胃全体の形、大きさ、粘膜の状態などを詳しく観察します。

その他

血液検査病理組織検査が行われることもあります。

慢性胃炎の診断は上部内視鏡検査によって診断が確定されます。
慢性胃炎は胃の粘膜の異常なので、レントゲンやCTなどの画像検査血液検査では診断することができません。

慢性胃炎の治療

ピロリ菌に感染している場合は除菌が推奨されます。薬物療法生活習慣の改善が選択されることもあります。

ピロリ菌の除菌

ピロリ菌の除菌治療では、胃酸の分泌を抑える薬と2種類の抗生物質を併用する「三剤併用療法」が基本です。

現在、一次除菌ではプロトンポンプ阻害薬(PPI)に代わって、より強力なカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB:ボノプラザン)が主流となっています。
ボノプラザンは除菌成功率の高さ(90%近く)と耐性菌への有効性が報告されています。

一次除菌では、アモキシシリンクラリスロマイシンという2種類の抗生物質と、ボノプラザンを1日2回、7日間服用します(一次除菌)。
内服終了から4週間以上経過後に呼気テスト等で除菌判定を行います。

除菌が成功しなかった場合(二次除菌)には、クラリスロマイシンをメトロニダゾールに変更し、アモキシシリンおよびP-CABまたはPPIを同様に服用します。
二次除菌成功率も80~90%程度と高く、内服中および終了後2日間は飲酒を控える必要があります。

除菌治療中には、副作用として下痢、軟便、味覚異常、発疹、蕁麻疹などが起こることがあります。
特に発熱や腹痛を伴う激しい下痢、血便などの症状が現れた場合は、直ちに服薬を中止し、医師に相談してください。

薬物療法

症状緩和を目的として、制酸剤(胃酸の分泌を抑える)、胃粘膜保護剤胃の働きを整える薬漢方薬などが処方されます。

生活習慣の改善

食べすぎ、飲みすぎ、コーヒーや香辛料など刺激物、飲酒、肉・揚げ物類などの消化の悪いものを控えて胃への負担を減らすようにしましょう。喫煙は胃への血流量を減らす作用があるので、禁煙に努めましょう。

慢性胃炎になりやすい人・予防の方法

慢性胃炎を予防するためには、原因を取り除くことが大切です。
慢性胃炎の主な原因はピロリ菌の感染なので、ピロリ菌の感染が疑われたら検査を行い、感染していることが分かったら、除菌を行うことが大切です。
また、胃に負担をかけないように食事に気をつける、趣味などで自分に適したストレス管理法をみつけてストレスを回避する、喫煙並びに過度の飲酒を控えるなど生活習慣を改善することも大切です。


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