

監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。
目次 -INDEX-
ロタウイルス感染症の概要
ロタウイルスは、急性感染性胃腸炎の原因となるウイルスの一つで、主に0~6歳の子どもが感染しやすいです。 ロタウイルスに感染すると、2〜4日の潜伏期間を経て39度以上の高熱、下痢や嘔吐、激しい腹痛などの症状が現れます。 便や嘔吐物に触れた手を介して感染するため、経口感染や接触感染が主な感染経路となります。また、空気中に浮遊したウイルスが口や手に付着することでも感染が広がります。 ロタウイルスは感染力が強く、重篤な脱水症状を引き起こし、入院を必要とする場合があります。特に乳幼児や高齢者など、免疫力が低下している人々が感染すると、症状が重くなることが多い傾向です。ロタウイルスの感染は季節性があり、3~5月にかけて流行のピークを迎えます。 遺伝子構造の違いから、ロタウイルスはA群~G群の7種類に分類されますが、人に感染するのは主にA群です。A群ロタウイルスは、タンパク質の組み合わせによって細かく分類され、遺伝子の組み合えが起こることもあります。 日本での疫学研究はまだデータが不十分ですが、G1、G2、G3、G8、G9の遺伝子型が主流であり、2012年以降新しい遺伝子型が全国的に広まっていることが判明しています。 国立感染症研究所の報告によると、ロタウイルスによる急性胃腸炎で年間約50万人の子どもの命が奪われています。特に開発途上国では、不衛生な環境や医療体制が十分に整っていないことから、重症化や死亡のリスクが高くなっています。 日本においても、ロタウイルス性胃腸炎により毎年数名の死亡例が報告されているため、適切な予防と対策を把握することが大切です。ロタウイルス感染症の原因
ロタウイルスは、主に経口(糞口)感染によって広がります。便に含まれるウイルスが、直接または間接的に口に入ることで感染するのです。ロタウイルスに感染した乳幼児のおむつ替えを行う際は、特に注意が必要です。 ロタウイルスは、通常の環境では死滅しにくく、感染者が使った食器やおもちゃ、トイレの便座などに付着したウイルスも感染源となり得ます。50℃で30分加熱すると感染リスクが大幅に減るといわれており、一般的な洗浄では完全に除去できないという特徴があります。 また、下痢や嘔吐の症状が収まった後でも、少なくとも1週間は便中にウイルスが排出されます。そのため、ご家庭や保育園、幼稚園では、共有している物や場所を清潔に保つ必要があります。ロタウイルス感染症の前兆や初期症状について
ロタウイルス感染症の潜伏期間は、通常2~4日であり、初期症状として、高熱や嘔吐が現れます。 子どもの約1/3は39℃以上の高熱を発症し、初期症状が現れてから48時間以内に白っぽい水様便が出始め、1日に何度も下痢や嘔吐を繰り返すことが特徴です。 このような症状が現れた場合、まずは小児科や内科を受診しましょう。 特に、小児の場合は身体に占める水分の割合が高く、大人よりも脱水症状に陥りやすいです。早めに診察や治療を受けることで、つらい症状の進行を防ぐことができます。 ロタウイルスに感染すると、体内で免疫が形成されますが、一度感染した後も、再び感染する可能性があります。ただし、初回感染と比較すると、症状が軽くなる傾向があります。ロタウイルス感染症の合併症
ロタウイルス感染性胃腸炎は、通常の場合、約14日以内に自然治癒します。しかし、下痢や嘔吐の症状が重篤化すると、脱水が進行し、電解質異常やショック状態に陥ることがあります。 また、ロタウイルス脳炎、急性脳症、けいれん、腎障害などの重篤な合併症を引き起こすこともあります。これらの合併症は、後遺症を残すことがあるため、注意が必要です。 子どもの脱水症状の代表的なサインは下記の症状があります。- 排尿回数が少ない
- 尿の色が濃い
- 唇や皮膚が乾燥している
- いつもより機嫌が悪い
- 涙が出ない
ロタウイルス感染症の検査・診断
ロタウイルス感染症は、症状や周囲の感染状況を踏まえて診断しますが、検査による確定診断も必要に応じて行います。 主な診断方法としては、便の迅速診断検査(イムノクロマト法)があり、15分程度で結果が出ます。迅速診断検査(イムノクロマト法)
迅速診断検査は、患者さんの負担も少なく所要時間は約15分と迅速に結果を得られる方法です。簡易的な方法のため、感度によっては罹患していても陰性となることがあります。RT-PCR法
RT-PCR法は、ウイルスの特性や変異株の検出も可能な方法です。 精度が高い一方、結果が出るまで数時間を要するため、通常の診察では流行状況や症状を考慮して診断します。ELISA法
ELISA法は、抗原と抗体の結合を利用してウイルスを検出する方法です。 高感度で特異的な検出が可能で、ロタウイルス感染症の診断においても有効です。 所要時間は約2~3時間で、疫学調査のスクリーニングに用いる方法です。ロタウイルス感染症の治療
ロタウイルス感染症に対する特効薬は存在しません。そのため、治療は対症療法と、水分補給が中心となります。対症療法
対症療法としては、発熱や痛みを抑えるための解熱剤の使用が一般的です。 腸内環境を整えるために整腸剤が処方されることもあります。また、ウイルスの排出を遅らせる可能性があるため、下痢止めは使用しない方が良いとされています。水分補給
ロタウイルス感染症の治療では、脱水予防が最も重要です。 消化に良く栄養のある食事を少しずつ摂り、十分に休息しましょう。 下痢や嘔吐が続く場合は、少量ずつ頻繁に水分補給を行い、脱水を防ぎます。乳幼児の場合、母乳やミルクでの水分補給も有効です。 軽度の脱水症状では、経口補水液の摂取が推奨されています。一気に飲むのではなく、少量を頻回に飲むことが大切です。 乳幼児や高齢者で重症リスクが高く、経口での水分摂取ができない場合は、輸液で治療することもあります。ロタウイルス感染症になりやすい人・予防の方法
ロタウイルス感染症は、生後6ヶ月以上の0~2歳児が最も発症しやすく、全体の約70%を占めます。新生児は、母体からの免疫によって症状が現れない場合が多い傾向です。 保育施設や幼稚園、介護施設での集団感染が起こりやすく、介護者や家族も感染しやすい環境にあります。ロタウイルスワクチンの接種
ロタウイルス感染症の予防として経口のワクチン接種が有効です。 現在、2種類のワクチンがあり、ロタテック(5価ワクチン)は3回、ロタリックス(1価ワクチン)は2回接種します。 ワクチンを接種することで、感染した際の重症化を防ぐことができます。初回接種は生後14週6日までに受けられるよう、早めに小児科を予約しましょう。ワクチン接種後の注意点
ワクチン接種後の便にはロタウイルスが含まれているため、約1週間は注意して対応しなければなりません。オムツ替えの際は、できればビニール手袋を着用し、手洗いを徹底しましょう。 ロタウイルスワクチンの副反応として、腸重積のリスクがあります。イチゴジャム状の血便や、何をしても泣き止まないなどの症状が見られる場合には注意が必要です。いつもと違う様子が見られた時は、すぐに医師に相談してください。日常生活での予防
ロタウイルス感染症を予防するためには、日常生活での手洗いと消毒を徹底することが重要です。 まずは、石鹸を使って手指をよく洗いましょう。ドアノブや便座などよく触れるものは、次亜塩素酸ナトリウムで消毒をします。 流行期には、通っている保育園や幼稚園での感染状況を把握して、家庭での衛生管理を意識することが、予防につながります。 急な下痢や嘔吐の症状が出たら、汚染された衣類やタオルは、直接触れないように処分することも一つの方法です。 感染が疑われる場合は早期に医療機関を受診し、ほかの家族への感染を防ぐために、食器の共用は避けましょう。関連する病気
- ロタウイルス胃腸炎
- 熱性けいれん
- 急性腎障害
- 脳炎
- 脳症
- 乳糖不耐症
- 抗生物質関連下痢
- アデノウイルス胃腸炎
- 腸重積症
- 腸重積
参考文献




