

監修医師:
五藤 良将(医師)
目次 -INDEX-
メッケル憩室がんの概要
メッケル憩室がんとはメッケル憩室にできるがんのことであり、小腸がんの一種で、発見が難しいがんとなります。
メッケル憩室とは、小腸の壁の一部が袋状になって外側に突き出た先天的な疾患です。胎児のへその緒と小腸の間にある卵黄管が消えずに残ってしまうとメッケル憩室になります。メッケル憩室には、小腸の組織だけでなく、胃の組織(異所性胃粘膜)や膵臓の組織(異所性膵)が存在することがあり、がんが発生した場合には、どの組織からがんができたかによって治療が異なる可能性があります。
メッケル憩室は先天的な消化管の異常としては頻度が高く、およそ2%程度の人に認められます。その中でも、メッケル憩室がんの発生はさらに少なく、報告レベルで見られる程度です。メッケル憩室がんの発生率はメッケル憩室を持つ人の約1%前後ではないかと考えられています。
メッケル憩室がんの原因
メッケル憩室がんの原因は症例が少ないため明らかではありません。しかし、一般的な消化器がんと同様の原因である年齢や遺伝的要因などが原因となる可能性があります。
メッケル憩室がんの前兆や初期症状について
メッケル憩室がんは早期の状態では無症状であることが多いです。そのため、ほかの腹腔内手術を行った際に偶然発見されることも少なくありません。
また、症状が出た際には進行していることが多くなります。
メッケル憩室がん特有の前兆や初期症状はありませんが、いくつかの症状があります。
- 腸閉塞症状
メッケル憩室がんで最も多く見られている症状となります。がんによって腸が詰まってしまうことで腹痛、嘔吐、腹部のはり(腹部膨満感)といった症状が起こります。 - 下血
がんは比較的出血を起こしやすい組織であるため、出血を起こした場合には下血が見られます。 - 腹部腫瘤
がんが大きくなってくると、お腹の外側からしこりとして触れる事があります。
これらの症状はメッケル憩室やメッケル憩室がんだけでなく、ほかの消化器がんや、消化器疾患の症状でもありますので、早期に消化器内科を受診することをおすすめします。
メッケル憩室がんの検査・診断
メッケル憩室がんを疑う症状を認めた場合次のような検査を行い、診断をつけます。
ただし、メッケル憩室がんの多くは腸閉塞症状によって見つかるため、診断がつく前に緊急手術となることも少なくありません。そのような場合には、手術後に切除した腸を顕微鏡で観察した結果、メッケル憩室がんと診断されることとなります。
血液検査
血液検査では、いくつかのがんによって上昇するがんマーカーであるCEA、CA19−9などの腫瘍マーカーの値を測定します。また、貧血を伴っていることも多いため、ヘモグロビン(Hb)などの値も確認します。
上部・下部消化管内視鏡検査
内視鏡を口や肛門から挿入して、腸管の中を直接観察する検査です。通常は胃や大腸を見ることが多いですが、さらに奥まで挿入することで小腸を観察する事ができるため、メッケル憩室がんを見つける事ができます。病変が見つかった場合はそのまま病変の一部を採取(生検)することで、がんの確定診断を行うことができます。
しかし、小腸内視鏡は比較的難易度の高い検査であり、必ずしも目的の象徴病変にたどり着けるかどうかはわかりません。
小腸造影検査(バリウム検査)
バリウム(造影剤)を飲んでから、X線検査(レントゲン検査)を行います。胃から十二指腸、小腸へとバリウムが流れていくところを観察することで、小腸内の状態を観察する事ができます。
腹部CT検査
造影剤を用いてCT検査を行うことでより詳細ながんの場所、広がりを評価することができます。また、CT検査は胸部や腹部全体を撮影し観察することができますので、リンパ節やほかの臓器への転移の有無の確認も可能となります。
メッケルシンチグラフィー(99mTcシンチグラフィー)
過テクネチウム酸ナトリウムを注射してCT検査を行います。薬剤が胃粘膜に取り込まれるため、異所性胃粘膜を持つメッケル憩室を見つける事ができます。
PET-CT検査
メッケル憩室の存在は確認できたものの、がんがあるか疑わしい病変に対して行います。放射性フッ素を付加したブドウ糖液を注射します。ブドウ糖ががん細胞に多く取り込まれることを利用して、がんの存在を確認することができます。
また、リンパ節やほかの臓器へ転移を起こしていた場合にはその病変の確認も同時に行うことができます。
メッケル憩室がんの治療
メッケル憩室がんの治療は大きく分けて手術療法、薬物療法(抗がん剤)、その他の治療の3つになります。
以下で簡単に各治療の概要を説明します。
手術療法
手術は体内からがんを取りのぞき、がんの治癒を期待できる治療となります。手術の方法(術式)はがんの場所や広がりに応じて異なります。基本的にはメッケル憩室がんを含むような形で小腸を切除し繋ぎ合わせる小腸切除術が行われます。
がんが周囲へ広がっている(浸潤している)場合には、胃、膵臓や別の小腸、大腸なども合わせて切除することがあります。
薬物療法(抗がん剤)
手術で取り去ることができないと考えられた場合や、手術後に再発を起こした場合は薬物療法を行います。薬物療法のみではがんを完全に治すことは困難でありますが、進行を抑えたり、腫瘍を小さくしたりすることで、生存期間の延長や、症状の改善、手術が可能となることが期待できます。
メッケル憩室がんは小腸がんと考えられますが、先述の通り、異所性胃粘膜から発生した胃がんや、異所性膵から発生した膵がんなどの可能性があります。その原因によって、胃がん、小腸がん、膵がん、あるいは大腸がんに準じた抗がん剤を用いる事があります。
メッケル憩室がんは症例数が限られているため、これらの抗がん剤治療について定められた方法はありません。そのため、患者さんごと、主治医ごとに治療法は異なってくると考えられます。
また、近年になり「がん遺伝子パネル検査」という検査が出てきました。この検査ではがん細胞に起きている遺伝子の変化を数十〜数百種類調べることができます。もし、治療薬が存在する遺伝子変異が見つかった場合は特殊な抗がん剤治療を受けられる可能性があります。メッケル憩室がんは希少がんになるため、この検査は良い適応になると考えられます。
「がん遺伝子パネル検査」は保険適応となりますが、その後の治療は保険医療、治験、自費診療と多岐にわたります。遺伝子変異は見つかるものの、該当する治療がないことや、治療を受けられないことがあるため注意は必要です。
その他の治療
上記以外の治療として放射線治療や陽子線治療などが行われることがあります。これらの治療についても有効性について十分な検討がされておらず標準治療ではありません。しかしながら、化学療法が効かなくなった患者さんや、高齢で化学療法ができない患者さんに行う場合があります。
メッケル憩室がんになりやすい人・予防の方法
残念ながらメッケル憩室になりやすい人、メッケル憩室がんになりやすい人は明らかになっていませんので、予防することも難しいと考えられます。
しかし、定期的な検診や、症状が出た際の早期受診はメッケル憩室がんだけでなく、ほかの消化器がんや消化器疾患の発見につながりますので非常に重要です。
参考文献
- がん統計 HOME:[国立がん研究センター がん統計] (ganjoho.jp)
- 医学書院 専門医のための消化器病学 第3版>
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsa/69/10/69_10_2580/_pdf




