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中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

呑気症の概要

呑気症は、ほかに空気嚥下症噛み締め呑気症候群(奥歯を噛み締めることで多量の空気を飲み込んでしまう)などの呼称があります。

人間の腸の中にあるガスは、その約70%が口から飲み込まれたものだと言われています。

呑気症は、過剰な空気を飲み込むことによって引き起こされる消化器の症状です。
お腹の膨満感や鼓腸(腸の中にガスが異常に溜まってしまっている状態)、頻回なげっぷ、腹痛などの不快な症状を引き起こします。

呑気症の人は、客観的にもお腹の膨満や鼓腸が見られることが多く、レントゲンでお腹を撮影すると大量の空気が胃や腸にあることが確認されます。

呑気症は、特に不安障害やストレスが関与する場合に頻繁に発生すると言われています。
また、食事習慣や生活習慣も関係していると言われています。

日本において、呑気症の患者さんは8人に1人程度の割合で存在し、特に20〜50代の女性に多いと言われています。消化器系の不調を訴える患者さんの中には、呑気症の方が多く含まれていると考えられます。
米国では、機能性消化不良を抱える成人の約10%が空気嚥下症の症状を経験していると報告されていると言われています。

呑気症は、主に次の3つのタイプに大別されると言われています。

Esophageal belching

飲み込んだ空気が食道内にとどまり胃内に入らないことで頻回にげっぷを繰り返すタイプ。

Gastrocardiac syndrome

空気が胃内に入り、胃が拡大するため、食後の腹部膨満や上腹部の痛み、心臓が圧迫されることによる前胸部痛をきたし、げっぷにより軽快するタイプ。

Intestinal flatulence

嚥下された空気が腸内に移行し強い鼓腸をきたすタイプ。
このタイプでは過敏性腸症候群(Irritable bowel syndrome :IBS)を合併していることが多いと言われています。
とくに、Esophageal belchingは、ストレスの関与が大きいと言われています。

呑気症の原因

呑気症は多くの要因が関わっていると言われています。
その中で主な要因と言われているものをご紹介します。

緊張やストレス・不安

緊張やストレス・不安が高まると、唾液を飲み込む際に無意識に空気も一緒に飲み込むことが増える傾向があります。
また、不安や緊張で無意識のうちに軽く歯を噛みしめる場合は、空気を呑み込む機会が増えるため呑気症空がおこりやすくなると言われています。

口呼吸

鼻詰まりやアレルギーによる呼吸の障害がある場合、口呼吸が増え、空気を飲み込みやすくなります。

食べるスピードが速い

急いで食事を摂ると、無意識に多くの空気を飲み込むことがあります。

飲み物の飲み方

炭酸飲料を飲んだり、ストローで飲んだり、または飲みものを一気に飲むことも空気を飲み込む原因となります。

便秘

便秘気味の人は腸の動きが低下していることが多く、ガスが貯留しやすい状態にあると言われています。

姿勢など

長時間座った姿勢を続けたり、腹部の締め付けなどは、胃腸に空気やガスが溜まる原因となります。

呑気症の前兆や初期症状について

空気嚥下症の前兆や初期症状には以下のようなものがあります。

腹部膨満感
お腹が張った感じがして、不快感のあることが多いです。
げっぷ
げっぷが頻回に出ることがあります。
腹痛
特に上腹部に痛みを感じることがあります。
鼓腸
腸の中にガスが溜まってしまっている状態のことをいいます。
前胸部痛
心臓が圧迫されることで前胸部に痛みが発生することがあります。
食欲不振
お腹の症状が続くことで食欲が低下することがあります。
逆流性食道炎
げっぷを頻回に繰り返すことで酸の逆流が起こり、逆流性食道炎を引き起こす要因となります。
人前ではげっぷやおならを出しにくいため、ガスの排出を我慢することで症状が悪化することがあると言われています。

そのほかに、頭痛や目の痛み、ふらつき、歯の痛みなどの症状が見られることもあると言われています。
<呑気症の原因は多岐にわたるため、受診する病院も症状によって異なります。

受診すべき診療科については「呑気症の治療」で解説します。

呑気症の検査・診断

呑気症の診断には、特別な検査はありません。
そのため、症状や食事習慣、生活習慣などの詳細な問診が重要になると言われています。
問診に加え、下記の検査が行われることがあります。

腹部レントゲン検査

腹部に溜まったガスを確認します。

内視鏡検査

胃や食道、腸を内視鏡というカメラを用いて検査します。
がんや腸閉塞による器質的な変化が起こっていないかを確認する目的があります。

食事内容の記録

食事の内容や摂取方法を記録し、呑気症に関連する習慣などがないかを確認します。

呑気症の治療

呑気症は明らかな治療法がありません。
そのため、医師などの専門家の経験に基づく方法が主となっています。また、原因に応じて異なります。

主な治療法には下記のものがあります。

行動療法

ストレス管理やリラクゼーションの技法を学び、緊張やストレス・不安とうまく付き合えるようになることで、空気の飲み込みを減少させることが目的です。

食事指導

ゆっくりと食事を摂り、ストローや炭酸入りの飲料を控えるなど指導されます。

呼吸療法

正しい呼吸法を学び、空気を過剰に飲み込まないようにするためのトレーニングが行われます。

薬物療法

消化管の運動を改善する薬や、抗不安薬が処方されることがあります。
しかし、呑気症の場合は、原因が消化器系にあるとは限りません。
そのため、受診をせずに自己判断で市販の整腸薬や胃薬などの制酸剤に頼った場合は、帰って症状を長引かせる可能性があります。

歯科、口腔外科を受診する

朝起きたときに歯やアゴの痛み、頭痛などを感じたり、日中もデスクワークなどでうつむき姿勢が多かったり、仕事などで緊張状態が多い人の場合は、歯を噛みしめることがクセになっている可能性があります。
その場合は、歯科や口腔外科を受診してマウスピースを作ってもらい、噛みしめグセを是正することで症状を軽減させる方法も有効だと言われています。

心療内科を受診する

仕事や人間関係などのストレスが原因になっていると思われる場合は、心療内科などの受診も考慮し、医師に相談してみましょう。

呑気症は、すぐに命にかかわる病気ではありません。
しかし、人によって多様な症状がみられ、原因が特定しづらいケースも多いです。呑気症の症状やストレスが日常生活において大きく影響する場合があります。
呑気症の治療は、時間がかかることが多いので、焦らずに対処することが大切です。

呑気症になりやすい人・予防の方法

呑気症は、ストレスの多い人、神経症傾向の人、うつ状態の人がなりやすいと言われています。
呑気症の予防は、日常の生活習慣を見なおすことが重要であり、それによって呑気症の予防や症状の改善が可能だと言われています。

ストレスの解消を図る

ストレスは呑気症の最大の原因とされています。
日々の生活の中で少しずつでもいいので積極的に解消に努めましょう。
家にこもったり、お酒を飲み続けたりすると、ストレスが増すことがあるので、注意しましょう。

簡単なストレス解消には外出や軽い運動が良いと言われています。
散歩、ウォーキング、ジョギング、買い物、友人に会う、映画を観るなど、外に出て気分転換をし、仕事や人間関係によるストレスを忘れる時間をもつことが大切です。

歯の噛み締めを改善する

パソコン、スマホ、ゲーム、家事、工作などを続けていると、無意識に姿勢がうつむき加減になり、また歯を噛みしめていることが少なくありません。
そうした状態をくり返していると、噛みしめ癖がつきます。
噛みしめ癖によって、知らずに空気をたくさん呑み込むようになるため、自分で意識的に、噛みしめを改善することも大切です。

深呼吸をすると、口から息を吐くときに自然に歯の噛み合わせがゆるむため、噛みしめが解消されます。
仕事中などに、ときどき意識的に深呼吸をする習慣をつけることも有効だと言われています。
深呼吸には、からだと心をリラックスさせて、ストレスを解消する効果もあります。

食生活の改善

早食いをしている人は、食べ物と一緒にたくさんの空気を呑み込んでいます。
よく噛んで、ゆっくりと食事をすることで、空気の呑み込みが減少します。
同じ理由で、麺類や汁類は、静かに飲むことも呑気症の予防に効果的だと言われています。
食事は、胃腸に負担のかかる揚げ物類や、炭酸飲料は控えめにすることも有効だと言われています。

参考文献

  • 日本消化器学会ガイドライン
  • J-STAGE 腸管ガスに関連する症状を主訴とする病態と治療法の研究の動向
  • J-STAGE 職場不適応を背景とした難治性空気嚥下症症例に対して生物心理社会的観点からの多角的治療が奏功した1例

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