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盲腸
中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

盲腸の概要

盲腸とは、大腸の始まりに位置する袋状の構造物で、回腸と結腸の接続部に存在します。盲腸には虫垂という小さな突起物があり、免疫機能に関連しているとされています。 虫垂は、大腸の腸内細菌叢バランスの維持に寄与することが示唆されています。そのため、虫垂を切除すると腸内細菌叢のバランスが崩れやすいです。

盲腸の疾患の中で最も一般的なものが、急性虫垂炎です。虫垂炎は、虫垂が炎症を起こし、感染する状態を指します。これが放置されると、虫垂が破裂し、腹膜炎を引き起こす可能性があります。このため、虫垂炎は迅速な診断と治療が必要な病状です。 盲腸は、特に小児や高齢者で多く見られます。男女問わず発症し、発症の頻度に性差はほとんどありません。盲腸の症状として右下腹部の激しい痛みを伴います。初期段階では、痛みはみぞおち周囲に感じられ、その後右下腹部に移動します。腹膜炎,虫垂周囲膿瘍,イレウス(腸閉塞)その他の症状としては、食欲不振、吐き気、嘔吐、軽度の発熱が見られます。痛みの強さや症状の進行速度は個人差がありますが、急速に悪化することが多いため、早期の医療機関受診が推奨されます。

盲腸の原因

急性虫垂炎の原因は、多岐にわたりますが、主に虫垂の閉塞が引き金となります。虫垂が閉塞すると、内部に細菌が繁殖し、炎症と感染が引き起こされます。閉塞の原因としては、糞石、リンパ組織の肥大、寄生虫、異物などが挙げられます。

糞石

糞石とは、硬化した糞便の塊です。これが虫垂の入口を塞ぐことで、虫垂内の圧力が高まり、血流が阻害されます。この結果、虫垂内の細菌が繁殖し、炎症が生じます。糞石は、盲腸の最も一般的な原因の一つとされています。

寄生虫

寄生虫が虫垂に侵入し、炎症を引き起こすこともあります。近年では、発症率は減少していますが、特に衛生状態の悪い地域では、寄生虫感染が原因となることが多いです。寄生虫が虫垂内に繁殖すると、虫垂の閉塞と炎症が生じます。 また、稀ではありますが、誤って飲み込んだ異物が虫垂に入り込み、閉塞を引き起こす場合があります。特に硬く尖った異物を飲み込むと発症しやすいです。

盲腸の前兆や初期症状について

盲腸の前兆や初期症状は、急速に進行することが多く、早期の診断と治療が求められます。初期症状は一般的に非特異的で、他の消化器疾患と類似しているため、注意が必要です。

初期の腹痛

盲腸の最も顕著な初期症状は腹痛です。初めはおへその周囲に鈍い痛みを感じることが多く、時間が経つにつれて右下腹部に移動します。この痛みは、虫垂が炎症を起こし、腫れ始めることによって生じます。痛みの強さは個人差がありますが、徐々に増していくことが一般的です。

食欲不振と消化不良

痛みから4~6時間後には食欲不振がよく見られます。患者さんは食べ物を見たり、匂いを嗅いだりするだけで吐き気を感じることがあります。また、消化不良を訴えることも多く、胃もたれや腹部の張り感が伴うことがあります。

吐き気と嘔吐

吐き気や嘔吐も盲腸炎の初期症状の一つです。これらの症状は、腹痛の発生後数時間以内に現れることが多いです。食事を摂ることで症状が悪化することもあり、患者さんは水分すら摂りづらくなることがあります。

軽度の発熱

吐き気や食欲不振の症状が出た後に発熱が見られることがあります。体温は通常37.5度から38度程度に上昇し、身体が感染と戦っていることを示します。高熱が続く場合は、炎症が進行している可能性があるため注意です。

排便習慣の変化

盲腸の初期症状として、排便習慣の変化も挙げられます。便秘や下痢を経験することがあり、特に便秘が続く場合は注意が必要です。腸の動きが影響を受けることで、排便が困難になることがあります。

これらの前兆や初期症状が現れた場合は、早期に医療機関受診が推奨されます。盲腸炎は急速に進行することが多く、放置すると虫垂が破裂し、腹膜炎を引き起こす危険があります。そのため、症状が現れた時点で速やかに医療機関を訪れ、専門医の診断を受けることが重要です。典型的な症状であれば外科(消化器外科)となりますが、判断が難しいためまずは内科(消化器内科)を受診するとよいでしょう。

盲腸の検査・診断

盲腸の診断には、複数の検査が行われます。これにより、他の疾患との鑑別が行われ、正確な診断が可能となります。

身体診察

最初に行われるのは身体診察です。医師は患者さんの症状や痛みの部位を確認し、触診を行います。特に右下腹部を押すと痛みが強くなる場合は、盲腸炎の疑いが強まります。痛みが腹部全体に広がっている場合や、歩行時に痛みが増す場合も、盲腸の症状であると考えられます。

血液検査

血液検査は、体内の炎症や感染の程度を評価するために行われます。盲腸炎の場合、白血球数やC反応性タンパク(CRP)の値が上昇していることが多いです。これらの値は、高いほど重症であることを示し、炎症の有無を確認するための重要な指標となります。

画像診断

画像診断は、盲腸の診断において重要な役割を果たします。特に超音波やCT検査が広く用いられます。超音波検査は非侵襲的であり、放射線被曝がないため、安全かつ迅速に診断を行うことができます。盲腸や虫垂の腫れや液体の貯留を確認することができ、診断の精度を高めます。虫垂の直径が6mm以上であったときに盲腸と診断します。また、虫垂の直径が10mm以上、膿瘍形成、腹腔内液貯留のいずれかの所見がみられたときには、すみやかな手術治療が必要です。 CT検査は、肥満が強い方の盲腸炎の診断において非常に有効です。CTスキャンにより、腹腔内の詳細な画像が得られ、虫垂の炎症や周囲の組織の状態を正確に把握することができます。特に、合併症のリスクがある場合や、他の疾患との鑑別が必要な場合には、CT検査が推奨されます。

尿検査

尿検査も盲腸の診断に役立ちます。尿路感染症や腎臓結石など、類似している症状の疾患との鑑別のために行われます。盲腸の場合、尿検査の結果には特異的な異常は見られないことが多いですが、他の原因を排除するために重要です。 これらの検査結果を総合的に判断し、盲腸の診断が確定されます。症状の経過や患者さんの全身状態も考慮され、適切な治療方針が決定されます。盲腸炎が疑われる場合には、速やかに適切な治療を開始することが必要です。

盲腸の治療

盲腸炎の治療は、早期の診断と適切な治療が求められます。治療方法は主に外科的手術と薬物療法に分かれますが、重症度や症状の進行状況に応じて選択されます。

外科的手術

盲腸炎の治療において最も一般的なのは、虫垂切除術(虫垂摘出術)です。手術には主に開腹手術と腹腔鏡手術の2種類があります。

開腹手術

開腹手術は腹部に切開を加え、直接虫垂を取り除く方法です。この方法は、急性虫垂炎が重症である場合や、虫垂が破裂している場合に選択されます。開腹手術は迅速に行うことができ、視野が広いため、周囲の組織への影響を確認しながら安全に手術を進めやすいです。症状が悪化している場合は、開腹手術でしか行えないこともあります。

腹腔鏡手術

腹腔鏡手術は、腹部に小さな切開を加え、内視鏡を用いて虫垂を取り除く方法です。この方法は、開腹手術と比べて回復が早くなります。傷跡も小さく済むため、患者さんの負担を軽減できます。腹腔鏡手術は、盲腸の症状が軽度である場合や、初期段階で診断された場合に選択されることが多いです。

薬物療法

盲腸の症状が軽度であり、虫垂の破裂がない場合には、抗生物質を用いた薬物療法が行われることがあります。抗生物質は、炎症を抑え、感染をコントロールするために使用されます。治療期間は約1週間程度ですが、症状の改善が見られない場合や悪化する場合には、手術が必要になります。また、虫垂は残ったままなので約20%が再び虫垂炎になる可能性があります。 盲腸の手術後は、感染のリスクを低減するために抗生物質が投与される場合があります。また、痛みの軽減に鎮痛剤が処方されます。術後の管理として、適切な栄養摂取と休息が必要です。患者さんは、手術後数日から1週間程度で日常生活に復帰することができますが、重い物を持ち上げたり激しい運動を避けるようにしましょう。 盲腸の治療は、患者さんの症状や全身状態に応じて適切に選択されます。早期の診断と迅速な治療を行うことで、予後は良好です。盲腸が疑われる場合には、速やかに医療機関を受診し、専門的な治療を受けることが重要です。

盲腸になりやすい人・予防の方法

盲腸になりやすい人にはいくつかの特徴があります。これらの特徴を理解し、予防策を講じることで、盲腸炎の発症リスクを低減することができます。

盲腸になりやすい人の食生活

食生活も盲腸炎の発症リスクに影響を与える要因の一つです。繊維質の少ない食事や高脂肪、高糖分の食事は、腸内環境を悪化させる可能性があります。バランスの取れた食事を心がけ、野菜や果物、全粒穀物を積極的に摂取することが推奨されます。

盲腸になりやすい人の生活習慣

不規則な生活習慣や過度のストレスも、盲腸のリスクを高める要因となります。十分な睡眠を取り、適度な運動を行うことで体の免疫力を維持し、ストレスを軽減することが重要です。その結果、腸内環境を整え、盲腸の発症リスクを抑えられます。

免疫力の低下

免疫力が低下している場合、感染症にかかりやすくなるため、盲腸のリスクも高まります。慢性疾患を持つ方や高齢者、栄養不良の方は、免疫力が低下しやすいため、注意が必要です。免疫力を高めるためには、バランスの取れた食事や適度な運動、十分な休息が重要です。

予防の方法(バランスの取れた食事)

繊維質が豊富な食事を心がけることで、腸内の老廃物の排出をスムーズにし、便秘を防げます。野菜や果物、全粒穀物を積極的に摂取し、腸内環境を整えましょう。また、発酵食品を摂ることも腸内の善玉菌を増やし、健康を維持する助けとなります。

予防の方法(規則正しい生活)

規則正しい生活習慣を維持することは、免疫力を高めるのに重要です。毎日同じ時間に起床し、適度な運動を行い、十分な睡眠を取ることが大切です。また、ストレスを適切に管理し、リラックスする時間を持つのも重要です。

予防の方法(適度な運動)

適度な運動は腸の動きを活発にし、便秘を防ぐ効果があります。ウォーキングやジョギング、ヨガなど、自分に合った運動を継続的に行いましょう。運動は、全身の血液循環を良くし、免疫力の向上にも寄与します。

予防の方法(適切な水分摂取)

十分な水分を摂ることは、腸の動きを促進し、便秘を防ぐために重要です。1日に2リットル程度の水を目安に摂取することが推奨されます。水分摂取は、食事からも摂ることができるため、スープや果物なども積極的に取り入れましょう。

予防の方法(定期的な健康診断)

定期的に健康診断を受けることで、身体の異常を早期に発見し、適切な対処を行うことができます。特に家族に盲腸炎の既往歴がある場合や、過去に盲腸炎を経験したことがある場合は、定期的な検査を受けるのが大切です。 盲腸は、急速に進行することが多いため、前兆や初期症状を見逃さないようにするのが重要です。痛みや不調を感じた場合は、早めに医療機関を受診し、専門医の診断を受けるのが大切です。適切な予防策を講じることで、盲腸の発症リスクを低減し、健康な生活を維持できます。 これらの予防策を日常生活に取り入れ、健康な腸内環境を維持すると、盲腸のリスクを減らし、快適な生活を送れます。盲腸の発症リスクがある方や、既に盲腸を経験したことがある方は、特に注意して生活習慣を見直し、予防に努めましょう。

関連する病気

  • 虫垂周囲膿瘍
  • イレウス(腸閉塞)

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