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食あたり
山本 佳奈

監修医師
山本 佳奈(ナビタスクリニック)

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滋賀医科大学医学部 卒業 / 南相馬市立総合病院や常磐病院(福島)を経て、ナビタスクリニック所属/ 専門は一般内科

食あたりの概要

食あたりは、一般的に食中毒と同義で使われる言葉です。食べ物や飲み物に含まれる細菌やウィルス、自然毒、寄生虫を摂取することで、腹痛、下痢、嘔吐、発熱などの症状が現れる健康被害を指します。

食あたりは原因物質によって異なりますが、主症状は消化器系の不調です。発症までの時間は原因物質によって様々で、数時間から数日かかる場合もあります。 例えば、黄色ブドウ球菌による食あたりでは、食後3時間前後で症状が現れますが、カンピロバクターによる食あたりでは、1日から7日程度で発熱や腹痛、下痢、吐き気などの症状が現れます。

食あたりは、適切な衛生管理や調理方法を守ることで予防できる場合が多いですが、完全に防ぐことは難しいです。 特に、夏季は細菌性の食あたりが増加し、冬季はノロウイルスなどのウイルス性食あたりが流行する傾向があります。

軽症で済む場合もありますが、重症化すると命に関わる可能性もあります。特に乳幼児や高齢者、妊婦など免疫力の低下している方は食あたりになりやすく、症状が重くなる可能性があるため注意しましょう。

食あたりの原因

食あたりの原因は多岐にわたりますが、主に細菌、ウイルス、寄生虫、自然毒、化学物質に分類されます。

細菌性の食あたり

食あたりの原因となる細菌としてサルモネラ菌、カンピロバクター、腸炎ビブリオ、黄色ブドウ球菌などが代表的です。 これらの細菌は、生肉や生魚、卵、調理済み食品、生野菜、飲料水などに付着し、適切な温度管理や調理がなされないと増殖して食あたりを引き起こします。 例えば、サルモネラ菌は主に牛肉や豚肉、鶏肉などの食肉、卵に存在していることが多く、加熱不足の料理や生卵を食べることで感染する危険性があります。

ウイルス性の食あたり

ウイルス性の食あたりでは、ノロウイルスが有名な原因物質の一つです。ノロウイルスは感染力が強く、汚染された食品や水を摂取することで感染します。 特に、二枚貝やノロウイルスに汚染された井戸水などを飲むことで感染するほか、ノロウイルスに感染した人の手や唾液、ふん便、嘔吐物などを介して二次感染する場合もあります。流行期は主に冬季ですが、年間を通じて発生する可能性があるので注意が必要です。その他にも、A型肝炎ウイルスやE型肝炎ウイルスなど、加熱不足の魚介類や肉類を食べることで食あたりになるウイルスもあります。

寄生虫による食あたり

寄生虫による食あたりで代表的なのはアニサキスです。 アニサキスはサバやアジ、サンマ、カツオなどの魚介類に寄生しており、刺身や寿司などの生食で感染することがあります。長さは2〜3cmで白色の少し太い系のような見た目をしており、目視での確認が可能です。食べると激しい腹痛や吐き気、嘔吐などの症状が現れます。

また、クドア属の寄生虫はヒラメなどの魚に寄生し、食べると約2〜20時間程度で下痢や嘔吐を引き起こします。しかし、症状は軽度なことが多く、発症後24時間以内に回復して後遺症のない事例がほとんどです。

自然毒による食あたり

自然毒による食あたりでは、フグ毒やキノコ毒などが代表的です。 フグの肝臓や卵巣などの内臓には強力な毒素が含まれており、素人が調理して食べると重篤な中毒症状を引き起こす危険性があります。 毎年、フグの調理免許を持っていない人による調理や肝臓等の有毒部位を食べたことで食あたりが発生しています。

また、毒キノコを食用のキノコと間違えて食べ、深刻な中毒症状が現れることがありますので、食用キノコと確実に判断できないものは、絶対に採ったり食べたりしないようにしましょう。

化学物質による食あたり

化学物質による食あたりは、原因となる化学物質が高濃度に蓄積された食品や加工品を食べることで症状がでます。

ヒスタミンでの食あたりの例では、食品中に含まれるヒスチジンに、ヒスタミン産生菌の酵素が反応してヒスタミンに変換されます。そのため、ヒスチジンを多く含む食品(マグロやカジキ、カツオ、サバなどの赤身魚及びその加工品)を常温で放置するなど不適切な管理をすることで、ヒスタミンが生成されます。ヒスタミンは熱に強く、一度生成されると食あたりを防ぐことはできません。 これらの原因物質は、食品の取り扱いや調理方法、保存状態によって増殖や汚染が進むことがあります。適切な衛生管理や調理方法を守り、食あたりを予防しましょう。

食あたりの前兆や初期症状について

食あたりの前兆や初期症状は、原因となる物質によって異なりますが、一般的には消化器系の不調が主な症状となります。

食あたりの初期症状は、風邪やインフルエンザなどの他の疾患と似ていて、判断が難しい場合があります。 しかし、食あたりの場合は、同じものを食べた人々が同様の症状を示すことが多い点が特徴です。 多くの場合、以下のような症状が単独または複数組み合わさって現れます。

腹痛や下痢症状について

最も一般的な症状として、腹痛と下痢がみられます。腹痛は、軽い不快感から激しい痛みまで様々で、下腹部に集中することが多い傾向です。 下痢は、軽度のものから水様性の激しいものまであり、頻繁に便意を感じることや血便や粘液便が見られることもあります。

嘔吐の症状について

嘔吐も食あたりの典型的な症状の一つです。突然の吐き気に襲われ、食べたものを吐き出すことがあります。嘔吐は、胃の中の有害物質を排出しようとする体の防御反応ですが、脱水症状を引き起こすリスクがあります。また、嘔吐が続いて胃酸が大量に排出されると、体の状態がアルカリ性に偏ってしまい代謝性アルカローシスという状態を引き起こしかねません。

発熱症状について

発熱も食あたりで見られる症状で、軽度の微熱から39度以上の高熱まで原因物質によって様々です。発熱は体が感染と戦っている証拠ですが、高熱が続く場合は消化器内科などでの診察が必要になります。

その他の症状について

その他の症状として、頭痛、倦怠感、筋肉痛などが現れることもあります。特にカンピロバクターでは発熱や頭痛、筋肉痛や倦怠感が初期症状としてみられることがあります。 症状の程度や持続時間は個人差があり、同じ原因物質でも人によって反応が異なることがあります。食あたりが疑われる場合は、無理に食事を取らず、水分補給を心がけながら一般内科や内科で様子を見てもらうとよいでしょう。

食あたりの検査・診断

食あたりの検査・診断は、症状の程度や経過、摂取した食品の情報などを総合的に判断して行われます。医療機関では、まず問診と身体診察が行われ、必要に応じて各種臨床検査が実施されます。

問診

問診では、症状の詳細や発症時期、最近摂取した食品や飲料水、周囲の人の状況などについて詳しく聞きます。さらに、症状が出る前24時間から72時間の間に食べたものを思い出してもらうことも必要です。そして、同じものを食べた人が他にいないか、その人たちにも同様の症状が出ていないか、脱水症状になっていないかなども情報収集します。

身体診察

身体診察では、体温、血圧、脈拍などのバイタルサインのチェックを行います。また、腹部の触診や聴診により、腹痛の部位や程度、腸の動きなどを確認します。

臨床検査

臨床検査は、食あたりの原因物質によって実施する内容が異なりますが血液検査や便検査などが主に行われます。血液検査では、炎症反応や電解質バランス、肝機能や腎機能などをチェックします。 便検査では便の性状や色、血液や粘液の混入の有無を確認し、必要に応じて細菌培養検査やウイルス検査を行います。

食あたりが疑われる場合、食品衛生法に基づいて保健所への届け出が必要となります。保健所による調査では、患者さんの便や嘔吐物、摂取した食品の残りなどが検査対象となります。 また、同じ食品を摂取した他の方々の食あたりの状況についても調査されます。

食あたりの診断は、問診や身体初見、臨床検査結果、臨床症状を総合的に判断して行われます。しかし、原因物質の特定は必ずしも容易ではありません。 特に、ウイルス性の食あたりでは、検査で原因を特定できないことも少なくありません。

食あたりの治療

食あたりの治療は、原因や症状の程度によって異なりますが、基本的には対症療法が中心となります。多くの場合は自然回復しますが、適切な治療を受けることで症状の緩和や回復の促進が期待できます。

水分摂取と食事

食あたりでは、下痢や嘔吐により体内の水分が失われるため、脱水症状を防ぐことを目的に水分と電解質の補給が優先されます。経口補水液やスポーツドリンクなど、電解質が含まれた飲料を優先的に摂取するとよいでしょう。重度の脱水の場合は、点滴による水分補給が必要になることもあります。

食事については、嘔吐などの症状が落ち着くまでは消化の良い軽めの食事を心がけましょう。おかゆやスープ、バナナなどの消化しやすい食品から始め、徐々に通常の食事に戻していきます。脂っこいものや刺激物は避け、腸の負担を軽減することが大切です。

投薬治療

投薬治療としては、症状に応じて以下のような薬が使用されます。 下痢に対しては、整腸剤や止瀉薬(ししゃくやく:下痢止め)が処方されることがあります。ただし、細菌性の食あたりでは身体の防御反応として体内から有害物質を排出するために下痢症状が出ている場合があるため、安易に止瀉薬を使用するべきではないでしょう。

嘔吐が激しい場合は、制吐剤が使用されることがあり、嘔吐による体力の消耗や脱水を防ぐことができます。

発熱や痛みに対しては、解熱鎮痛剤が使用されることがあります。ただし、アスピリンは子どもの場合にはライ症候群のリスクがあるため、使用を避けましょう。

細菌性の食あたりが疑われ、症状が強い場合には抗生物質が処方されることもありますが、基本的には「水分補給」と「安静」、整腸剤などの「対症療法」で対処することが多いです。 重症の場合や持続する高熱、血便、激しい腹痛などの症状がある場合は、入院治療が必要です。点滴による水分・電解質の補給や、より詳細な検査、適切な投薬治療薬物療法が行われます。

食あたりの治療は、単に症状を抑えるだけでなく、原因となる有害物質を体外に排出し、体力を回復させることが目的です。適切な治療を受けることで、早期の回復と合併症の予防につながります。

食あたりになりやすい人・予防の方法

食あたりになりやすい人として、免疫力が低下している人や海外旅行中の方、海外から帰国した方が挙げられます。

免疫力が低下している人

乳幼児や高齢者、妊婦、慢性疾患を持つ人、免疫抑制剤を使用している人などは、食あたりになるリスクが高く、症状が重篤化する可能性があります。食事の際には食あたりの原因物質発生を防ぐために、食品の適切な管理方法や調理方法を守るようにしましょう。に

海外旅行をしている人や海外から帰国した方

海外旅行をする人も食あたりのリスクが高い傾向にあります。特に、暑い地域や衛生状態がよくない地域への旅行では、現地の水や食べ物から食あたりを起こす可能性が高いです。 旅行中もしくは海外旅行からの帰国後に、24時間内で3回以上の下痢などがみられる症状を旅行者下痢症といいます。旅行先での食事や汚染された生水が原因で発症することが多いため、食事の際には加熱処理された食べ物や密閉管理された飲料を選択するようにしましょう。

食あたりの予防法

食あたりの予防には、手洗いや食品の適切な保存、食品を加熱処理することが挙げられます。 手洗いの徹底では、手指に付着した細菌やウイルスを除去することができます。特に、調理者が手を清潔に保ち、食品の汚染を防ぐ対策が必要不可欠です。 手洗いが推奨されるのは以下のような場面です。

  • 食事をする前
  • 調理を始める前
  • 調理の途中でトイレに行ったり、鼻を噛んだりした後
  • おむつ交換後や動物に触れた後
  • 残った食品を扱う前
食品を冷蔵庫や冷凍庫で適切に保存することも大切です。細菌の多くは10℃以下では増殖がゆっくりとなり、−15℃以下では増殖が停止します。そのため、購入後の生鮮食品や調理済み食品は速やかに冷蔵・冷凍保存することを推奨します。しかし、冷蔵保存をしても細菌増殖はゆっくりと進行しますので、食品の購入後は早めに食べるようにしましょう。

また、食あたりを防ぐためには調理の際に食品を十分に加熱し、内部まで火を通すようにしましょう。ほとんどの細菌やウイルスは加熱によって死滅します。特に、肉料理は中心部までしっかりと加熱することで付着している細菌の死滅が期待できます。食肉を加熱する時は中心部を75℃で1分以上加熱するのが目安です。

さらに、免疫力が低下している方や妊婦、高齢者の方では生食を避けることで食あたりを防ぐ可能性があります。刺身や寿司、生卵、生野菜などを食べる際は、注意が必要です。 生野菜や果物も、しっかりと洗ってから食べることが推奨されます。

また、海外旅行などの旅先での飲料水についても食あたりに気をつけなければなりません。現地の水道水が安全でない場合があるため、缶やびん、ペットボトル入りの飲み物で信頼できるメーカーのものを接種する事が望ましいです。氷も同様に、汚染された水で作られている可能性があるため、摂取は控えましょう。

食品の購入時にも新鮮な食品を選び、賞味期限や消費期限を確認し、食品の購入後は速やかに冷蔵庫や冷凍庫に入れるようにしましょう。

最後に、食事の際には食べ物の見た目や匂い、味に異常がないか確認し、少しでもおかしいと感じた際は、食べるのを避けましょう。

これらの予防策を実践することで、食あたりのリスクを大幅に減少させることができます。日常生活の中で衛生管理を徹底し、適切な食事の取り扱いを心がけることが、健康を守るための第一歩です。

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