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急性腸炎
本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

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群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

急性腸炎の概要

急性腸炎は、腸管内の急性炎症を特徴とする病態であり、主に感染性の病原体が原因となります。 感染性腸炎は、細菌、ウイルス、寄生虫などの病原微生物が腸管内に侵入し、増殖することで発症します。これらの病原体は、汚染された食物や水を介して体内に入ることが多く、夏季には細菌性腸炎が、冬季にはウイルス性腸炎が多発する傾向があります。

急性腸炎の症状は下痢、腹痛、嘔吐、発熱などであり、症状の程度は原因となる病原体や患者さんの年齢、健康状態によって異なります。 治療は、脱水症状の予防が優先され、経口補水液や点滴による水分補給が行われます。

急性腸炎の原因

急性腸炎は、腸管内での急性炎症を引き起こす疾患で、主に感染性の病原体が関与します。これらの病原体には細菌、ウイルス、寄生虫などが含まれます。

細菌性の急性腸炎の原因は、サルモネラ、カンピロバクター、大腸菌、シゲラ(赤痢菌)などが挙げられます。これらの細菌は、汚染された食品や水を介して人間の体内に侵入し、腸管内で増殖します。 例えば、サルモネラは生卵や鶏肉から、カンピロバクターは生の鶏肉や牛乳からの感染が多いようです。 細菌が腸管内で増殖すると、腸壁に炎症を引き起こし、腹痛や下痢、発熱などの症状を呈します。

ウイルス性の急性腸炎の原因は、ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスなどがあります。これらのウイルスは冬季に流行しやすく、感染力が強いため、集団感染を引き起こすことが多いようです。 ノロウイルスは、汚染された飲食物や接触感染を通じて広がり、突然の激しい嘔吐や下痢を引き起こします。 ロタウイルスは乳幼児に多く見られ、発熱、嘔吐、白色便を伴う下痢を引き起こします。

寄生虫による急性腸炎は、日本では少ないですが、アメーバ性赤痢ジアルジア症などがあります。 これらは、発展途上国などの飲料水の衛生状態が悪い地域で多く見られます。

急性腸炎の前兆や初期症状について

急性腸炎の前兆や初期症状は、下痢、腹痛、嘔吐、発熱です。これらの症状は、病原体の種類や感染部位によって異なりますが、急激な発症が多いとされています。 急性腸炎の前兆は、倦怠感頭痛筋肉痛などの全身症状が見られることもあります。これらの症状は、胃腸炎の症状が現れる前に感じられることが多く、感染が全身に広がっていることを示唆しています。

初期症状として最初に感じられるのは腹痛です。この腹痛は、下腹部や右下腹部に集中することが多く、強い痛みを伴うことがあります。痛みの部位が限定されているため、虫垂炎と誤診されることもあります。 次に、下痢が頻発します。この下痢は水様性のことが多く、場合によっては血便を伴うこともあります。 さらに、悪心や嘔吐が現れることが多く、食欲不振や体重減少を引き起こすことがあります。

発熱も急性腸炎の初期症状としてよく見られます。細菌性腸炎の場合、高熱を伴うことが多いようです。 ウイルス性腸炎の場合は、発熱が軽度ですが、ノロウイルス感染では嘔吐が主症状として現れることが多いようです。 ロタウイルス感染では、嘔吐に加えて発熱と白色便を伴う下痢が特徴的です。

このような症状が現れた場合、まずは内科や消化器内科の受診が推奨されます。 内科では、基本的な診察や初期の治療を行い、必要に応じて消化器内科への紹介が行われます。 消化器内科では、詳細な診断と専門的な治療が提供されます。 症状が重篤な場合や脱水症状が疑われる場合には、早急に医療機関を受診し、適切な治療を受けることが重要です。

急性腸炎の検査・診断

急性腸炎の検査には、便培養が用いられます。便培養により、サルモネラ、カンピロバクター、病原性大腸菌などの細菌が特定されますが、結果が出るまでに2〜3日を要します。 培養の陽性率は高くないため、陰性であっても感染性腸炎を否定できません。

ウイルス性腸炎の確定診断には、便や吐物からのウイルス特異的抗原や遺伝子の検出が用いられます。 ノロウイルスやロタウイルスが代表的な病原体であり、特異的な迅速診断キットが利用されることもあります。

血液検査では、炎症反応(白血球数やC反応性タンパク(CRP)値の上昇)や脱水の程度(血中電解質バランスの乱れ)を確認します。 腹部CTや超音波検査は、腸管の状態やほかの腹部疾患との鑑別に役立ちます。 回盲部のリンパ節腫大や腸壁の肥厚が見られる場合、カンピロバクター腸炎が疑われます。

急性腸炎の治療

急性腸炎の治療は、対症療法が中心となります。 基本的な治療目標は、脱水の予防と症状の緩和です。軽症例では、経口補水液を用いた水分補給が重要です。 経口補水液には、水分だけでなく、電解質と糖質がバランスよく含まれており、効率的な水分補給を可能にします。

重症例や経口摂取が困難な場合には、点滴による補液が必要です。高齢者や小児、免疫力が低下している患者さんでは、脱水症状が急速に進行するため、早期の対応が求められます。 補液は体液のバランスを保ち、脱水や電解質異常を防ぐために重要です。

細菌性腸炎の場合、抗菌薬の使用が検討されます。 抗菌薬は、特定の病原菌に対して有効ですが、すべての細菌性腸炎に適用されるわけではありません。例えば、サルモネラやカンピロバクターによる腸炎では、必ずしも抗菌薬は使用しません。しかし、重症例や免疫不全状態の患者さん、または症状が長引く場合には、抗菌薬が適用されることがあります。 第一選択薬には、マクロライド系やフルオロキノロン系抗生物質が用いられますが、耐性菌の問題も考慮する必要があります。

ウイルス性腸炎には、特効薬が存在しないため、対症療法が主な治療法となります。ノロウイルスやロタウイルスによる腸炎では、嘔吐や下痢による脱水に注意が必要です。適切な水分補給と休養が重要です。

急性腸炎の治療は、下痢止め薬や鎮静薬の使用は推奨されません。これらの薬剤は、腸管内の病原体や毒素の排出を遅らせる可能性があるためです。しかし、症状が強い場合には、医師の判断により使用されることもあります。

整腸剤やプロバイオティクスの使用は、腸内細菌叢のバランスを整える目的で用いられることがあります。これにより、腸内環境が改善され、症状の緩和が期待できます。

急性腸炎になりやすい人・予防の方法

免疫力が低下している方は急性腸炎になるリスクが高いです。高齢者、幼児、免疫抑制剤を使用している患者さん、慢性疾患を抱えている方々などが含まれます。

また、不適切な食品の取り扱いや衛生環境の悪さも急性腸炎のリスクを高めます。生肉や生魚を適切に調理しない、手洗いを怠る、汚染された水を飲むなどの行動は、細菌やウイルスの感染を招く可能性があります。 旅行者は、現地の水や食品の衛生状態に注意が必要です。

急性腸炎の予防は、食材の適切な取り扱いが基本となります。生肉や生魚は十分に加熱し、調理器具や手をしっかりと洗浄することで、細菌やウイルスの感染リスクを減らします。また、生水や衛生状態が疑わしい地域では、ボトルウォーターの使用が推奨されます。

さらに、手洗いの徹底も重要です。食事前や調理中、トイレの後には、石鹸と水で手をしっかりと洗うことで感染予防の効果が期待できます。手洗いが困難な状況では、アルコール消毒剤の使用も有効です。

また、予防接種も効果的な手段です。 例えば、ロタウイルスワクチンは、乳幼児の急性腸炎の予防に役立ちます。 ロタウイルスは、重篤な下痢や嘔吐を引き起こすウイルスであり、ワクチン接種により感染リスクを減らします。

最後に、適切な栄養十分な睡眠確保も、免疫力を維持し、感染リスクを減らすために重要です。 バランスの取れた食事と規則正しい生活習慣は、体の防御機能を高め、病原体に対する抵抗力を強化します。

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