監修医師:
大坂 貴史(医師)
胃潰瘍の概要
胃潰瘍とは、何らかの理由で胃の粘膜がただれ、粘膜の下の粘膜下層までえぐれてしまったような状態のことをいいます。似たような概念として「びらん」がありますが、びらんは粘膜内にとどまる病変なので、胃潰瘍はそれよりも深いものです。
胃潰瘍の多くは無症状です。症状のある胃潰瘍の場合は上腹部痛や食後の上腹部痛不快感、満腹になるのが早くなる、吐き気などが現れます (参考文献 1)。
胃潰瘍の合併症としては、出血や胃の流出路の閉塞、胃に穴が開いたり、穴が空くことによって胃と他の臓器が繋がってしまうことなどが挙げられます (参考文献 1)。
胃潰瘍の2大原因とは①ピロリ菌の感染②消炎鎮痛剤である NSAIDs の利用と言われています (参考文献 2)。
診断は主に上部消化管内視鏡 (いわゆる胃カメラ) で胃の粘膜を観察することによって行われます。胃がんなどの悪性腫瘍との鑑別が問題になる場合は、内視鏡での観察と同時に潰瘍周辺の組織を内視鏡的に生検し、顕微鏡で組織を詳しく確かめることもあります (参考文献 1)。
胃潰瘍の治療には①ピロリ菌感染がある場合にはピロリ菌の除菌をする②NSAIDsと呼ばれる抗炎症薬を利用している場合には、その服用の必要性について見直す③胃酸の産生を抑える薬を服用するなどがあり、胃潰瘍の原因や状態に応じて使い分けたり組み合わせて治癒を目指していきます (参考文献 3)。
胃潰瘍の原因
胃潰瘍の原因として多いのは①ピロリ菌感染②消炎鎮痛剤である NSAIDs の使用の2つとされています (参考文献 2) 。
ピロリ菌が胃に感染すると、胃酸の分泌や粘膜の防御システムに影響を及ぼし、胃における潰瘍形成につながります。最近はピロリ菌の感染率は減少してきていますが、これは後述するピロリ菌の除菌治療が保険適用になったことが大きな要因であると考えられています (参考文献 4)。
NSAIDsは消炎鎮痛剤の一部で、アスピリンなどの薬剤が含まれています。NSAIDsが阻害する生化学経路に胃粘膜保護作用のある物質があるため、NSAIDsの過度な服用は潰瘍形成につながるとされています。
これらの原因の他には、胃酸の分泌を異常増やすような腫瘍 (ガストリノーマ) や、ヘルペスウイルス感染症の一部などの報告があります (参考文献 2)。
胃潰瘍の前兆や初期症状について
胃潰瘍に代表される消化性潰瘍のおよそ 70% は無症状であるとされ、進行するにしたがって次のような症状が徐々に出てきます (参考文献 1)。
腹痛
上腹部痛や不快感 (すぐに満腹感がでてしまう、脂っぽい食事が食べられなくなる、嘔気嘔吐など) は胃潰瘍患者のなかでは最も多い症状です。痛みが背中まで響くこともあります。
一般的に腹痛・腹部不快感の症状は、食後に悪化することが多いです。
出血
潰瘍から出血すると吐き気や吐血、血便が自覚症状として現れることがあります。典型例では吐血は「赤、またはコーヒー残渣のような色」で、血便は「黒い、タールのような色」とされていますが、当てはまらない例もあります。
胃の流出路障害
胃の出口周辺に潰瘍ができた場合は、潰瘍がその出口を狭くなってしまうことがあり、その場合は早期満腹感や腹部膨満感、食欲不振、嘔気・嘔吐が症状として現れる場合があります。
胃に穴が開いてしまったり (穿孔) 、他の臓器と胃の中がつながってしまう (瘻孔形成)
潰瘍が深くなっていくと、じきに胃の壁を突き破ってしまいます。その場合には激しい腹痛が現れることがあります。
壁に開いた穴を通して、胃の中と周りの臓器や組織が繋がってしまうこともあります。その場合には、繋がってしまった臓器で機能障害や感染が起こることがあります。
胃潰瘍が心配になった場合の受診先ですが、一般的な内科を受診しても良いと思いますし、近くに「消化器内科」を標榜する病院があれば、胃潰瘍の診断や治療のプロフェッショナルがいますので、そちらを受診してみてもよいかもしれません。
胃潰瘍の検査・診断
胃潰瘍の診断において中心的な役割を果たすのが上部消化管内視鏡検査 (いわゆる胃カメラ) です (参考文献 1) 。内視鏡検査では口から長いチューブ型のカメラを入れて、食道から胃、その先の十二指腸まで観察します。
悪性腫瘍 (胃がん) との鑑別が問題になる場合は、内視鏡での観察と同時に。潰瘍や周辺の組織を内視鏡的に生検し、顕微鏡を用いて詳しく組織構造を確かめることもあります (参考文献 1)。
また、ピロリ菌に感染しているかを確かめる検査 (尿素呼気試験や便抗原検査) を追加ですることもあります。
胃潰瘍の治療
ピロリ菌の除菌やNSAIDs 服用の見直しに加えて、胃酸分泌を抑制する薬剤を服用するといった治療があり、これらを組み合わせて治療していきます (参考文献 3)。
ピロリ菌の除菌では、抗菌薬と胃酸産生を抑える薬を服用した後、再度ピロリ菌がいるかの検査をして、しっかり除菌できたことを確認します。
これらの治療の後も患者さんによっては定期的な内視鏡検査が奨められることがあります (参考文献 3)。
胃潰瘍になりやすい人・予防の方法
胃潰瘍などの消化性潰瘍の危険因子としては次のようなものが知られています (参考文献 2) 。
- 喫煙
- お酒をたくさん飲むこと
- ピロリ菌が感染しやすくなるような特定の遺伝要因
- 強いストレスや抑うつ状態
- 睡眠時無呼吸症候群
これらの危険因子をみると、喫煙やお酒、自分のメンタルヘルスを保つことなどは予防につながりそうです。また、果物や野菜、食物繊維の多い食事をしている人は消化性潰瘍のリスクが低下することが報告されており (参考文献 2) 、適切な食生活は睡眠時無呼吸症候群の原因の1つである肥満の予防・改善につながるため、食生活の改善や運動も胃潰瘍予防になるのではないでしょうか。
参考文献
- 1.UpToDate. Peptic ulcer disease: Clinical manifestations and diagnosis
- 2.UpToDate. Peptic ulcer disease: Epidemiology, etiology, and pathogenesis
- 3.UpToDate. Peptic ulcer disease: Treatment and secondary prevention
- 4.厚生労働省科学研究成果データベース. ヘリコバクター・ピロリ除菌の保険適用による胃がん減少効果の検証