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虫垂炎
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

虫垂炎の概要

 虫垂炎(急性虫垂炎)は、「腹痛」を主な症状とする腹部の救急疾患の代表的な1つです(参考文献1)。俗語で「盲腸」、また英語で Appendicitis というため、略して「アッペ」と呼ばれているのを聞いたことがあるかもしれません。
 虫垂は「盲腸」と呼ばれる小腸から大腸に移行した部分に存在する、細長いヒモのような構造物です。大腸内と交通していて、糞石などで虫垂内腔が詰まることで虫垂炎が生じます。炎症の程度に応じて、カタル性・蜂窩織炎性・壊疽性に分類され、カタル性虫垂炎は比較的軽度の炎症である一方、壊疽性虫垂炎は虫垂壁が壊死し、穿孔するリスクがある状態です。
 年齢層については、若い10〜20歳代で発症する人が比較的多いですが、全年齢層で発症する可能性があります。症状として右下腹部痛を生じる事が多いですが、心窩部痛(みぞおちあたりの痛み)や食欲不振、悪心・嘔吐のみの場合もあります。また、虫垂炎を生じた患者の約20%で穿孔(腸に穴が開く)が生じ、重症化することがあります。治療は原則として手術ですが、軽症例では抗菌薬の投与のみで軽快することもあります(参考文献1)。

虫垂炎の原因

 虫垂内腔が閉塞し、それに血流障害・腸内細菌の感染が組み合わさることで虫垂炎が生じます。閉塞の原因として、糞石(硬い便の塊)のほか、結石、食物中の異物、感染そのもの、腫瘍、リンパ濾胞などがあげられます。虫垂が閉塞すると、内腔は粘液で満たされて膨張し、内腔・壁の圧が上昇します。その結果、小血管の血栓症と閉塞、リンパの流れの停滞が起こります。リンパと血管の障害が進行すると、虫垂の壁は虚血状態になり、壊死に至ります(参考文献1、2)。

虫垂炎の前兆や初期症状について

 虫垂炎では、腹痛を主訴に来院することが多いです。特に右下腹部痛が多いですが、初期は痛みの箇所がはっきりしない腹痛上腹部痛(みぞおちあたりの痛み)から始まることもあります。虫垂炎の炎症が腹膜にまで波及していない場合、食欲不振や悪心・嘔吐、便秘・下痢といった消化器症状のみ呈することもあります。一方、発熱は重症例を除いて軽度であることが多いです(参考文献1、2)。腹痛の原因となる疾患は様々ですが、右下腹部に強い痛みを感じる場合は、消化器を専門としている病院を受診しましょう。

虫垂炎の検査・診断

 虫垂炎の検査では、身体検査・血液検査・画像検査を行うことが多いです。
 身体検査では、腹部全体の触診のほか、虫垂炎に特徴的な所見を診察します。例えば、
右下腹部のある1点を押すと強く痛んだり(マックバーニー圧痛点)、体の左側を下にして横向きに寝ると、痛みが強くなったりします。また、腹膜まで炎症が広がると、痛みのある箇所を押そうとすると腹壁が非常に固くなることもあります(参考文献1)。
 血液検査では、好中球増加を伴う白血球上昇、炎症を示すCRPという蛋白質の上昇が見られます。ただし、これらの所見は虫垂炎以外の多くの疾患でも見られるため、血液検査のみで虫垂炎の診断をつけることはなく、発症時期や経過を考えるのに活用します。また、妊娠可能性のある女性では、妊娠の除外のために妊娠検査を行うことがあります(参考文献1、3)。
 画像検査は、超音波検査、腹部CT検査などを行うことが多いです。その中でも、虫垂炎診断に最も有用な画像検査はCT検査で、他の疾患との鑑別や手術前の評価にも役立ちます。CT検査では、虫垂の腫れや炎症の広がり、虫垂が破れていないかなどを確認しています。

虫垂炎の治療

 虫垂炎の治療は、抗菌薬と絶食による保存的治療と、手術による虫垂の摘出があります。 炎症が比較的軽度なカタル性虫垂炎と言われる病態では、保存的治療のみで軽快することも多いです。ただし、再燃する可能性はゼロではなく、再燃した場合は手術が必要になる場合があります(参考文献1、4)。
 手術は開腹手術、腹腔鏡手術があり、近年は低侵襲の腹腔鏡手術が行われる事が多いです。手術が必要と判断された場合、受診後数日以内に手術が行われることが多いですが、穿孔しており菌血症や敗血症が疑われる場合は緊急手術することもあります(参考文献1、4)。また、最近は手術が必要と判断されたときも、最初に抗菌薬を投与する、または膿や液体を取り出すドレナージ術のみ行って、炎症が落ち着いてから待機的・計画的に虫垂切除を行う場合もあります(参考文献1)。

虫垂炎になりやすい人・予防の方法

 虫垂炎は1000人に1~1.5人の割合で発生し、男女差は少ないとされています。10~20歳代に多いですが、小児や高齢者でも発症することはあります。特に小児では虫垂壁が薄いことや大網の発達が未熟なため重症例が比較的多いです(参考文献1)。
 予防法ははっきりとしていません。また、発症から治療開始までの時間が48時間以上経過すると40%~70%以上が穿孔しているとの報告もあり、虫垂炎が疑われるような右下腹部痛がある場合、速やかに医療機関を受診するようにしてください。


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