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腸炎
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

腸炎の概要

腸炎は、十二指腸、小腸、大腸のいずれかの部位に炎症が起きるもので、約2週間以内に炎症が収まる急性腸炎と、それ以上続く慢性腸炎に分類されます。
急性腸炎は主にウイルスや細菌、寄生虫などの感染によって引き起こされます。症状としては、腹痛、下痢、吐き気、嘔吐、発熱などが一般的です。
一方、慢性腸炎は発症がゆるやかですが、原因不明の疾患や難治性疾患のものも少なくありません。
腸炎は多くの場合は水分補給や抗菌薬、鎮痛薬などによる対症療法で治癒しますが、脱水症状から重篤化することもあります (参考文献 1) 。特に感染性腸炎の予防には手洗いや食材の適切な処理、患者との濃厚な接触を避けることが重要です (参考文献 2) 。

腸炎の原因

腸炎の原因は多岐にわたり、主に感染性と非感染性の要因に分けられます。
感染性腸炎は、ウイルス、細菌によるものが一般的です。
ウイルス性腸炎はノロウイルスやロタウイルスが主な原因で、特に冬季に流行します。潜伏期間は 1~3日 で、多くは自然に治癒します。
細菌性腸炎では、大腸菌、サルモネラ菌、カンピロバクター、赤痢菌、コレラ菌、チフス菌・パラチフス菌、黄色ブドウ球菌などが原因となります。病原大腸菌は組織新入生大腸菌、毒素原性大腸菌、病原大腸菌、腸管出血性大腸菌、腸管凝集性大腸菌の 5種類 があり、特に腸管出血性大腸菌の O157 が知られています。
感染経路と潜伏期間はそれぞれ以下のようになります。

  • 腸管出血性大腸菌 O157:
    家畜や感染者の糞便により汚染された食品や井戸水からの経口感染が殆どです。潜伏期間は 2〜14日 です。
  • サルモネラ菌:
    汚染された動物飼料から家畜・鶏に感染し、食肉や卵からの経口感染が起こります。ミドリガメなどのペットから感染することもあります。 8〜48時間 で発症します。
  • カンピロバクター:
    牛、豚、鶏などの家畜やペットの腸管に存在し、肉類や牛乳から感染します。特に鶏肉からが多いです。潜伏期間は 3〜7日 です。
  • 赤痢菌:
    日本における発症者は東南アジア周辺などの海外にて汚染飲料水や食品から感染した人が殆どです。潜伏期間は 1〜3日 です。
  • コレラ菌:
    コレラ菌に汚染された食物や飲料水の経口摂取により感染します。潜伏期間は1〜5日です。
  • チフス菌・パラチフス菌:
    チフス菌・パラチフス菌に汚染された食物や飲料水の経口摂取により感染します。潜伏期間は 1〜2週間 です。
  • 黄色ブドウ球菌:
    黄色ブドウ球菌に汚染された食物や飲料水の経口摂取により感染します。潜伏期間は 2〜5時間 と、かなり発症が早いです。

非感染性腸炎には、薬剤性腸炎、放射線腸炎、循環不全による虚血性腸炎、アレルギー性の胃腸症などがあります。
薬剤性腸炎は、特定の薬剤が原因で腸の粘膜に炎症が生じる疾患です。特に抗菌薬や非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs) が関与することが多く見られます。
抗菌薬による腸炎は、腸内の正常な細菌叢が乱れることで起こり、これにより有害な細菌が増殖し、腸粘膜に炎症を引き起こします。特に、クロストリジウム・ディフィシル (C. difficile) 感染が原因となることが多く、この場合、偽膜性腸炎を起こすことがあります。NSAIDs などによる腸炎は、薬剤が直接腸粘膜に作用して障害を引き起こすことが原因です。ペニシリンなどの抗菌薬、化学療法薬や免疫抑制剤も直接傷害による腸炎の原因となります。
放射線腸炎は、がん治療で使用される放射線療法によって引き起こされる腸の炎症です。特に腹部や骨盤への放射線照射が原因となります。
また、過敏性腸症候群 (IBS) やクローン病、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患 (IBD) なども腸炎を引き起こします。
これらは慢性的な腹痛や下痢を引き起こし、慢性腸炎と呼ばれます (参考文献 1) 。

腸炎の前兆や初期症状について

感染性腸炎の主な症状は腹痛、下痢、吐き気、嘔吐、発熱です。細菌性腸炎は原因菌によって症状が異なり、それぞれ以下のような症状を呈します。

  • 腸管出血性大腸菌 O157:
    激しい腹痛と水溶性下痢で発症し、その後に血便も呈します。約10% は発症 1週間後 に溶血性尿毒症症候群を続発して急性腎不全、血小板減少、溶血性貧血、脳症を生じることがあり、重篤な経過を辿ると死に至る場合もあります。
  • サルモネラ菌:
    典型的な感染性腸炎の症状と同じで、腹痛、下痢、吐き気、嘔吐、発熱を呈します。
  • カンピロバクター:
    水溶性下痢、発熱、腹痛が見られ、1週間 程度続きます。対症療法で症状が改善することが多いですが、菌血症や髄膜炎、腹膜炎を生じることもあります。
  • 赤痢菌:
    発熱、腹痛、泥状〜水様の便、テネスムス (便意はあっても排便しようとすると出ない) が見られ、後に膿粘性の血便が見られます。
  • コレラ菌:
    「米のとぎ汁様」と言われるような水様性の下痢を生じます。発熱はなく、脱水が顕著に表れます。
  • チフス菌・パラチフス菌:
    高熱で発症します。脾腫や全身に 数mm の赤い斑点も見られることがあります。進行すると腸出血や腸穿孔を生じることもあります。
  • 黄色ブドウ球菌:
    激しい吐き気や嘔吐、強い腹痛、下痢を生じます。まれに発熱やショック症状を伴うこともありますが、通常は 1日 か 2日間 で治ります。

薬剤性腸炎では薬剤服用後数日で水様性の下痢や腹痛、血便を発症します。潰瘍や腸の狭窄をおこすこともあり、重症化すると腸穿孔や敗血症のリスクが高まります。
放射線腸炎は急性型と慢性型に分かれます。急性型では、放射線治療中や直後 (照射後 3か月以内) に腸粘膜の発赤や浮腫、出血が現れ、慢性型は6か月~25年わたって見られ、血管障害による潰瘍や狭窄・瘻孔形成が見られます。
また、慢性腸炎では腹痛や下痢がゆるやかに発症し長期間持続します (参考文献 1) 。

腸炎の検査・診断

腸炎の診断は病歴と症状、検査結果を総合的に評価して行われます。さらには、病歴と症状のみで診断がつけられることもあります。
例えば急性ウイルス性胃腸炎の診断は、 1週間 以内に急速に発症する特徴的な下痢症(1日 3回 以上または 1日 200g 以上の便)の病歴があり、吐き気、嘔吐、発熱などの症状と軽度で腹部全体に広がる腹部圧痛が見られれば診断されます (参考文献 3) 。

腸炎の治療

感染性腸炎のうち、ウイルス性腸炎は自然に治癒することが多いです。一方、細菌性腸炎は原因菌によって使用する抗菌薬が異なります。それぞれ以下のようになっています。

  • 腸管出血性大腸菌 O157:
    まず十分な水分補給を行います。溶血性尿毒症症候群を発症した場合は透析などを行うこともあります。
  • サルモネラ菌:
    ニューキノロン系抗菌薬が有効です。
  • カンピロバクター:
    マクロライド系抗菌薬あるいはホスホマイシンを用います。
  • 赤痢菌:
    ニューキノロン系抗菌薬またはホスホマイシンを用います。
  • コレラ菌:
    脱水が強いため補液を行い、抗菌薬としてはテトラサイクリン系またはニューキノロン系を用います。
  • チフス菌・パラチフス菌:
    クロラムフェニコールが第一選択薬で、耐性菌に対してはニューキノロン系抗菌薬を用います。
  • 黄色ブドウ球菌:
    補液と対症療法が中心になります。

薬剤性腸炎の治療には、原因薬剤の中止や変更が基本となります。C. difficile による偽膜性腸炎に対するバンコマイシンなど、状況に応じて抗菌薬が使用されることもあります。
放射線腸炎の治療には、軽症であれば放射線照射を中断することで多くは改善します。
潰瘍形成などが起きている場合は 5-ASA 製剤やステロイドによる薬物療法も行います。
さらに狭窄や穿孔などが生じた場合は外科的治療が必要となることもあります (参考文献 1) 。

腸炎になりやすい人・予防の方法

感染性腸炎の予防には一般的な食中毒への感染対策として手洗いや食材の適切な処理が重要となる他、感染源に接触した人が発症するため、発症者との濃厚な接触を避けることが必要です。
そして、薬剤性腸炎は抗菌薬や NSAIDs (非ステロイド性抗炎症薬) を服用している人に起こりやすいです。また、放射線腸炎は放射線治療を受けている人に起こる可能性がある腸炎です。そのため、これらに該当する人で気になる症状がある場合はかかりつけ医に相談しましょう (参考文献 1) 。


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