監修医師:
大坂 貴史(医師)
大腸憩室炎の概要
大腸憩室炎は、大腸の壁にできる小さな袋状の突出部(憩室)が炎症を起こす疾患です。憩室は通常、加齢に伴い大腸壁が弱くなることで形成されるものであり、大腸のどの部分にも発生する可能性がありますが、特にS状結腸に多く見られます。憩室が感染や炎症を引き起こすと、大腸憩室炎と診断されます。憩室自体は無症状であることが多いものの、憩室炎に発展すると急性腹痛、発熱、消化器症状などが現れ、放置すると重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
憩室炎は中高年に多く見られ、特に50歳以上の成人においてその発症頻度が高まります。都市部での生活や、食物繊維の少ない食事がリスク因子として知られており、先進国における憩室炎の有病率は増加傾向にあります。
大腸憩室炎の原因
大腸憩室炎の主な原因は、憩室と呼ばれる大腸壁の袋状の突起の中に便や細菌が詰まり、局所的な感染や炎症を引き起こすことです。憩室が形成される背景には、大腸壁の構造的な脆弱性と腸内圧の上昇が関与しています。
憩室形成のメカニズム
憩室は、大腸の内圧が高まることで弱い部分が外側に膨らみ、袋状の構造物が形成されることによって生じます。腸内圧の上昇は、便秘や食物繊維の不足、腸管の蠕動運動の異常などが原因となります。特に、食物繊維が不足すると便のかさが減り、大腸の内容物が固くなるため、腸内圧が上昇しやすくなります。
感染・炎症のメカニズム
憩室に便や細菌が溜まると、局所的な感染や炎症が発生します。これが憩室炎の直接的な原因です。便が憩室内に長時間留まると、腸内細菌が増殖し、局所的な組織に炎症反応が引き起こされます。これにより、憩室周囲の腸壁が腫脹し、さらには膿瘍形成や穿孔といった重篤な合併症を引き起こすことがあります。
大腸憩室炎の前兆や初期症状について
この症状は、人によって異なりますが、基本的には炎症の重さや合併症の有無によって変わります。多くの場合、憩室炎は外来で治療できますが、場合によっては入院が必要になることもあります。憩室炎は年齢とともに増える傾向がありますが、若い人にも起こることがあります。急性憩室炎で最も一般的な症状は腹痛です。この痛みは通常、左下腹部に現れることが多いですが、場合によっては右下腹部や恥骨の上のあたりにも痛みが広がることがあります。痛みは通常、続けて感じることが多いです。一部の患者では発熱も見られますが、血圧が低下したりショック状態になったりすることは非常にまれです。そのような場合は、腸に穴が開いてしまい、腹膜炎という重篤な状態になっている可能性があります。また、約20%の患者では、お腹にしこりを感じることがあります。急性憩室炎は、便秘や下痢などの排便の変化を引き起こすことがあり、約半数の患者で便秘が見られ、25~35%の患者で下痢が報告されています。血便が出ることはまれです。さらに、約10~15%の患者では、腸の炎症が膀胱に影響を及ぼし、尿意が急に強くなったり、頻繁にトイレに行きたくなったり、排尿が難しくなったりすることがあります。
警戒すべき症状
憩室炎が進行すると、膿瘍形成や腸穿孔が発生し、腹膜炎を引き起こすリスクがあります。腹膜炎は生命を脅かす状態であり、以下のような症状が見られた場合には直ちに医療機関を受診する必要があります。
- 強い腹痛と腹部の硬直
- 高熱
- 頻脈
- 血圧低下
大腸憩室炎の検査・診断
大腸憩室炎の診断は、患者の臨床症状と画像検査に基づいて行われます。初期の診察では、問診と身体診察が行われ、特に腹部の圧痛や反跳痛が確認されます。これらの所見は、腹膜炎の存在を強く示唆します。
血液検査
炎症の存在を確認するために、血液検査が行われます。白血球数の増加やC反応性蛋白(CRP)の上昇が認められることが多いです。これらは、体内で進行している感染や炎症の程度を示します。
画像検査
画像検査は、大腸憩室炎の診断と重症度評価において重要な役割を果たします。以下は、主な画像検査の種類です。
- 腹部CTスキャン
憩室炎の診断に最も有用な検査です。CTスキャンにより、憩室の位置や数、炎症の広がり、膿瘍の有無などを詳細に評価できます。また、腸穿孔や腹膜炎などの重篤な合併症の診断にも有用です。 - 超音波検査
CTスキャンに比べて感度は低いものの、超音波検査でも憩室の存在や炎症を確認することができます。特に、急性期においては、迅速な診断手段として有用です。
大腸憩室炎の治療
大腸憩室炎の治療は、炎症の重症度や患者の全身状態に応じて選択されます。軽度の症例では、外来治療が可能な場合もありますが、重症例では入院治療が必要となります。
保存的治療
軽症から中等症の憩室炎は、保存的治療が一般的です。
- 絶食
腸管を休ませるために、数日間の絶食が推奨されます。必要に応じて点滴による水分補給や栄養補給が行われます。 - 抗生物質
感染症の治療には、広域スペクトルの抗生物質が使用されます。抗生物質は経口または静脈内投与で行われ、炎症や感染が収まるまで継続されます。 - 痛みの管理
鎮痛剤を使用して、腹痛の管理が行われます。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用は、腸管への影響を考慮して慎重に行われます。
外科的治療
重症の憩室炎や保存的治療に反応しない場合、外科的治療が必要になることがあります。外科的治療は、以下のような場合に検討されます。
- 膿瘍のドレナージ
CTガイド下で膿瘍のドレナージが行われることがあります。これは、膿瘍が大きく、保存的治療で改善が見られない場合に実施されます。 - 腸管切除術
穿孔や腸閉塞、重篤な出血がある場合には、緊急手術が必要です。手術では、炎症や感染が広がった腸管の部分切除が行われ、場合によっては人工肛門の造設が必要となることもあります。
大腸憩室炎になりやすい人・予防の方法
憩室炎になりやすい人
急性憩室炎の非手術的治療後、患者の16~42%が1回以上の再発を経験します。過去の報告では、女性、若年、喫煙、肥満などの人は再発リスクが高いとされています。
予防の方法
憩室炎を予防したり再発を防ぐために、いくつかの生活習慣や食事に関するアドバイスがあります。以下にわかりやすくまとめました。
- 健康的なライフスタイル
憩室炎の予防には、禁煙や運動、減量が重要です。また、肉の量を減らし、食生活を見直すことが勧められます。急性期が過ぎたら、食物繊維が豊富な食事もおすすめです。食物繊維をたくさん摂ると、将来的に憩室炎の再発を減らす可能性があるという研究結果もあります。ただし、食物繊維が必ずしも再発を完全に防ぐとは限りません。 - 種子やナッツ類の摂取
以前は、種子やトウモロコシ、ナッツなどが憩室に詰まって炎症を起こす可能性があるとされ、これらを避けるように指導されていました。しかし、大規模な研究では、これらの食べ物が憩室炎を引き起こすリスクは増えないことがわかっています。そのため、これらを食べることを控える必要はないとされています。 - 非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)やアスピリンの使用
NSAIDやアスピリンは、憩室炎の合併症や出血のリスクを高める可能性があるとされています。ただし、心臓病のためにアスピリンを服用している場合を除き、これらの薬を長期的に使うことは避けるように推奨されています。
これらの情報を参考にしながら、医師と相談して自分に合った生活習慣を取り入れていくことが大切です。