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田中 茉里子

監修医師
田中 茉里子(医師)

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・弘前大学医学部卒業 ・現在は湘南鎌倉総合病院勤務 ・専門は肝胆膵外科、消化器外科、一般外科

鼠径ヘルニアの概要

鼠径ヘルニア(そけいヘルニア)は、腹腔内の臓器が腹壁の隙間を通じて脱出する状態です。特に鼠径部の鼠径管を通じて腸管などが突出している場合が多く、成人男性に多く見られますが、女性や小児にも発生します。 主な症状は、立位や運動時に鼠径部や陰嚢に膨らみが現れ、仰向けになると消失する場合がしばしば見られます。しかし、進行すると痛みを伴い、膨らみが引っ込まなくなる場合もあります。特に、ヘルニアが嵌頓(かんとん)すると緊急手術が必要となります。

診断は身体診察と超音波検査で行われ、確定診断には画像診断が有用です。治療法としては手術が根治的治療法とされており、開腹手術と腹腔鏡手術があります。腹腔鏡手術は侵襲が少なく、術後の回復が早い利点があり、手術ではメッシュ素材を使用して鼠径管の弱点を補強します。

予防策としては、腹圧の急激な上昇を避けることが重要です。重い物を持ち上げる際には適切な姿勢を保ち、便秘を避けるために食生活の注意が推奨されます。 また、定期的な運動で腹筋を強化し、腹壁の支持力を高めることも効果が期待できます。

鼠径ヘルニアは早期発見と適切な治療が重要であり、症状が現れた場合には医療機関の受診が推奨されます。医師の診察により適切な診断と治療計画が立てられ、合併症の予防につながります。

鼠径ヘルニアの原因

鼠径ヘルニアは、腹腔内の臓器や組織が鼠径部を通じて突出する状態です。この病気の原因は、主に腹壁の筋肉や結合組織の弱さにあります。男性では精索、女性では子宮円索が通る鼠径管が弱くなると、ヘルニアが発生しやすくなります。 先天性の要因も影響し、特に男児は胎児期に腹膜突起が閉じないことでリスクが高まります。

後天的な要因には、加齢や過度な腹圧が挙げられます。 重い物を持ち上げる、便秘、慢性的な咳、肥満などが腹圧を高め、鼠径管に負担をかけます。

症状としては、鼠径部の腫れや痛みがあり、立ち上がったり咳をすると目立ちますが、寝ると引くことがあります。放置すると腸閉塞や嵌頓(腸の一部が腹部に戻らなくなる状態)を引き起こす恐れがあります。

診断は身体検査や超音波検査、CTスキャンで行われます。治療は軽度の場合、経過観察が選択されることもありますが、基本的には外科手術が推奨されます。手術ではメッシュを使用して鼠径管を補強する方法が多く採用されています。

予防には、腹筋を強化する運動や適切な体重管理が有効です。定期的な健康チェックを通じて早期発見や早期治療を行うことで、重篤な合併症を防ぐことが期待されます。

鼠径ヘルニアの前兆や初期症状について

鼠径ヘルニアは、腹部の一部が鼠径部(太ももの付け根)に突出する疾患で、特に男性に多く見られます。早期発見と治療が重要です。 初期症状として、鼠径部に小さな腫れや膨らみを感じることがあり、立ち上がったり、咳をしたり、重いものを持ち上げたりすると目立ちます。座ったり横になったりすると腫れは引っ込みますが、再び立ち上がると再発することがよくあります。痛みを伴う場合もあれば、痛みを感じにくい場合もあります。

ほかの前兆としては、鼠径部の違和感や圧迫感です。これらは活動中や運動時に強くなり、休息時には軽減する場合があります。 症状が進行すると、腸がヘルニア嚢に挟まり、急激な腹痛や嘔吐が生じる場合があります。この症状は嵌頓(かんとん)ヘルニアと呼ばれ、緊急手術が必要です。

鼠径ヘルニアの疑いがある場合は、消化器外科や一般外科を受診し、触診や超音波検査で診断を受けることが推奨されます。治療方法としては、突き出た腸を元の位置に戻し、弱くなった腹壁を補強する手術とされています。 最近では、腹腔鏡を用いた低侵襲手術が行われており、回復が早く、再発率も低くなる可能性があるとされています。 鼠径ヘルニアは自然には治癒しないため、初期症状や前兆を感じたら早めに診察を受けましょう。

鼠径ヘルニアの検査・診断

鼠径ヘルニアの診断は、主に問診、視診、触診を通じて行われます。患者さん自身が鼠径部のしこりやこぶのようなふくらみに気付き医療機関を訪れるケースも少なくありません。 医師はまず患者さんに立った状態で腹部に力を入れてもらい、患部のふくらみの有無を確認します。視診と触診でふくらみの場所や大きさ、状態を観察し、問診で出っ張りが現れる状況を聞き取ります。 これらの基本的な診察に加え、必要に応じてさらに詳しい検査が行われます。

手術前にはCT検査を行い、鼠径部の腫れがほかの原因によるものかを判別し、視診や触診では見つけにくいヘルニアの種類や容態を確認します。これにより、どの臓器が飛び出しているかがわかるとされています。 また、血液検査や心電図、呼吸機能検査も実施されます。これらの検査では、貧血、感染症、糖尿病、肝臓・腎臓機能、心臓や呼吸器の状態を確認します。

鼠径ヘルニアの診断においては、超音波検査も重要な役割を果たします。特定の医療機関では、視診・触診に加え超音波検査を行い、鼠径ヘルニアの種類や類似する病気との鑑別を行っています。超音波検査やCT検査は、脱出部分の状態を詳しく確認するために用いられます。

鼠径ヘルニアの治療

鼠径ヘルニアの治療には、主に外科手術が用いられます。患者さんの年齢、健康状態、ヘルニアの大きさや症状によって治療方法は異なります。 緊急手術が必要なのは、ヘルニアが絞扼されて血流が遮断された場合です。この状態は危険で、迅速な手術が求められます。症状が軽度であれば、計画的な手術が推奨されています。

手術方法には、従来の開腹手術と腹腔鏡手術があります。 開腹手術では鼠径部を直接切開する手術が施されます。 腹腔鏡手術は小さな切開を通じてカメラと器具を挿入し、モニターを見ながら手術が行われます。腹腔鏡手術の利点は、傷口が小さく、術後の痛みや回復時間が短い点です。

治療では、ヘルニア嚢の内容物を腹腔内に戻し、弱くなった筋膜部分をメッシュで補強する方法が用いられる傾向にあります。メッシュは合成素材でできており、再発のリスクを低減するとされています。

手術後は、重い物を持ち上げるなどの腹圧をかける行為を避けることが重要です。 また、適切な運動と栄養管理が回復を助けます。定期的な診察を受け、再発やほかの合併症の兆候がないかの確認も大切です。

鼠径ヘルニアになりやすい人・予防の方法

鼠径ヘルニアは、内臓が腹壁の弱い部分を通って鼠径部に突出する病気です。特に男性に多く見られ、男性の80%が罹患します。乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層で発症しますが、高齢者や重い物を持ち上げるなど腹圧がかかる労働をする方に多い傾向があります。女性は妊娠や出産による腹圧増加が誘因となる場合があります。

予防方法として、重い物を持ち上げる際には膝を曲げて腰を落とし、物を体に近づけることで腹部への負担を軽減できます。日常的に腹筋を鍛えることも有効です。適度な運動を継続し、腹筋を強化することで内臓をしっかり支える役割につながります。 適切な体重維持も重要です。肥満は腹圧を高めるため、バランスの取れた食事と規則正しい生活習慣を心がけることが予防につながります。 便秘も腹圧を高めるため、食物繊維を多く含む食品を適切に摂取し、水分をしっかり摂ることが大切です。

鼠径ヘルニアの初期症状として鼠径部に腫れや違和感を感じた場合、早期に医療機関の受診が推奨されます。放置すると腸閉塞や壊死などの重篤な合併症を引き起こす恐れがあるため、早期の対応が必要です。

これらの予防策を実践することで、鼠径ヘルニアのリスクを低減し、健康な生活を維持できる可能性が高まります。

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