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急性胃腸炎
本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

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群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

急性胃腸炎の概要

急性胃腸炎は、ウイルスや細菌の繁殖によって胃や腸の粘膜が急激に炎症を起こす感染症です。初期症状として、突然の嘔吐や下痢、腹痛、発熱などの症状が現れます。一般的に感染性胃腸炎と呼ばれることが多く、ウイルス性胃腸炎は12月ごろの冬の時期に、細菌性胃腸炎は6〜10月の暑い時期に流行することが知られています。ウイルス性胃腸炎の代表的な原因としては、ノロウイルスやロタウイルス、アデノウイルスなどが挙げられます。一方で細菌性胃腸炎では、サルモネラ菌やカンピロバクター菌、腸炎ビブリオなどが発症の原因です。これらのウイルスや細菌は非常に感染力が強く、集団感染を引き起こすことがあります。

急性胃腸炎は非常に身近な病気であり、多くの人が一度は経験するでしょう。初期症状として、嘔吐や下痢、腹痛、発熱などが突然現れ、数日間続くことが多いです。特に小児や高齢者、免疫力が低下している人々にとっては、重症化するリスクが高い感染症のため、早期の検査と適切な治療が必要になります。

急性胃腸炎の治療は、薬物療法を主とし食事療法や水分摂取などの対症療法が中心となります。ウイルス性胃腸炎では特効薬が存在せず、自然治癒を待つことが基本の治療方針です。細菌性の場合は抗菌薬を処方しますが、状況に応じて経過観察をする場合もあります。重要なのは、脱水症状を防ぐために適切な水分補給を行うことです。経口補水液やスポーツドリンクなどを少量ずつ定期的に摂取することが推奨されます。

急性胃腸炎の予防には、手洗いや食品の適切な調理、衛生的な環境の維持が大切です。特に、感染者の嘔吐物や便に触れた後は、流水だけでなく石鹸を使用して触れてしまった箇所以外も徹底して手洗いしましょう。また、食品の加熱や保存方法にも注意を払い、食中毒を防ぐように心がけるのが重要です。

急性胃腸炎の原因

急性胃腸炎の原因は多岐にわたりますが、主な感染経路として汚染された食品や水を摂取することで感染が広がります。また、感染者の嘔吐物や便に触れた手を介して、他の人に感染が広がることも多いです。特に、手洗いが不十分な場合や、調理器具や食器の衛生管理が不適切な場合に感染リスクが高まります。

ウイルス性胃腸炎

ウイルス性胃腸炎の代表的な原因ウイルスには、ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスがあります。これらのウイルスは12月ごろの冬の時期に流行しやすく、集団感染を引き起こすことが多いです。これらのウイルスの感染経路はほとんどが経口感染で、表のような感染様式があると考えられています。
  • ノロウイルスが大量に含まれた嘔吐物や便から手を介して感染
  • 飲食店における調理従事者や食品製造の従事者が感染しており、その人を介して汚染された食品を食べて感染する
  • 汚染された二枚貝を生あるいは十分に加熱調理せずに食べて感染
  • ノロウイルスに汚染された井戸水や消毒不十分な水道水を飲んで感染
  • 家庭や共同生活施設で他人と接触する環境での飛沫感染

細菌性胃腸炎

細菌性胃腸炎の原因となる細菌には、サルモネラ菌やカンピロバクター菌、病原性大腸菌、腸炎ビブリオがあります。これらの細菌に汚染された食材(生肉や生卵、生魚など)を食べることで感染し、食中毒を発症します。特に6〜10月には細菌の増殖が活発になるため、食中毒の感染リスクが高いです。

寄生虫

急性胃腸炎はウイルスや細菌だけでなく、寄生虫による感染も原因として挙げられます。寄生虫の代表例としてランブル鞭毛虫やクリプトスポリジウムがあり、これらの寄生虫は、汚染された水や食品を摂取することで感染します。

急性胃腸炎の前兆や初期症状について

急性胃腸炎の前兆としては、軽い腹部の不快感や食欲の低下が挙げられます。これらの症状が現れた場合、無理はせずに安静にすることが大切です。また、初期症状には個人差があり、一般的には数時間から数日の間に急速に進行します。特に脱水症状には注意しましょう。

吐き気・嘔吐

急性胃腸炎の初期症状として、吐き気や嘔吐があり、体内に侵入した病原体を排出しようとする防御反応としてみられます。これらの症状は、ウイルスや細菌が胃腸に侵入し、炎症を引き起こすことで発生します。

腹痛・下痢

腹痛は、胃腸の粘膜が炎症を起こし、腫れることで引き起こされます。下痢は、腸内の水分吸収が妨げられることで発生し、頻繁に水様便が出る点が特徴です。重症になると下血や脱水症状が見られるため、早急に治療が必要となります。

発熱

発熱も急性胃腸炎の初期症状の一つで、体が病原体と戦うための自然な反応であり、免疫システムが活発に働いている証拠です。特に細菌やノロウイルスによる感染で高熱が出ることが多いです。発熱に伴い、全身の倦怠感や食欲不振が現れることがあります。これらの症状で体力を消耗する方は多いため、十分な休息を取るようにしましょう。

また、食事内容にも注意を払い、消化に良いものを摂取するよう心がけることが必要です。急性胃腸炎の初期症状を見逃さず、早期に対処することで、症状の悪化を防ぐことができます。

これらの症状がみられた場合、一般内科や消化器内科の受診を推奨します。

急性胃腸炎の検査・診断

急性胃腸炎の検査・診断は、患者さんの症状や病歴を基に行われます。

問診・触診

問診では、症状の経過や最近の食事内容、周囲に同様の症状が出ている人がいないかなどを詳しく確認します。これにより、感染経路や原因となる病原体の推測が可能です。触診では痛みの部位や程度、腹部の張り具合などを確認します。合わせて脱水症状や発熱の有無をチェックし、情報を総合的に評価して、急性胃腸炎の診断が行われます。

血液検査

血液検査では、炎症反応の有無や白血球数、電解質のバランスなどを確認します。特に、脱水症状が疑われる場合や重症化のリスクがある場合には、上記の数値を見て処置を決定します。

便の抗原検査

ウイルス性胃腸炎が疑われる場合、便の抗原検査が行われます。迅速診断キットを使用することで、ロタウイルスや腸管アデノウイルス、EHEC O157、ベロ毒素などの検出が短時間で可能です。

便の培養検査

細菌性胃腸炎が疑われる場合は、便の培養検査が行われます。これにより、サルモネラ菌やカンピロバクター菌などの細菌を特定することができます。

他疾患との鑑別

急性胃腸炎の診断時には、急性虫垂炎や腸閉塞、膵炎などの消化器疾患との鑑別が重要です。急性胃腸炎と似た症状を呈することがあり、これらの疾患を除外するために、追加の画像検査(超音波検査やCTスキャン)が行われることもあります。

急性胃腸炎の治療

急性胃腸炎の治療は、薬物療法と対症療法が中心となります。ウイルス性胃腸炎の場合は特効薬が存在しないため自然治癒を待つことが基本方針です。患者さんの症状を緩和し、体力の回復を促すために、無理をせずに安静に過ごすことが大切です。また、ストレスを避け、リラックスした環境で過ごすことも回復を促進します。

薬物療法

細菌性胃腸炎の場合は、抗菌薬が使用されるケースが多いです。とはいえ、細菌の種類や患者さんの症状に応じて経過観察が選択される場合もあります。ウイルス性胃腸炎の場合、整腸剤や吐き気止めが処方され、症状の緩和に努めます。

水分補給

嘔吐や下痢によって体内の水分が失われるため、脱水症状を防ぐために水分補給が必要です。経口補水液やスポーツドリンクなどを少量ずつ定期的に摂取することが推奨されます。特に、幼児や高齢者は脱水症状が重篤化しやすいため、便回数などに注意を払いましょう。

食事療法

急性胃腸炎の症状が現れている間は、胃腸を休ませるために絶食が推奨されます。その後、症状が改善してきたら、お粥やスープ、うどん、バナナなどの消化によい食事を少量ずつ摂取するようにします。この時期には脂肪分の多い揚げ物や乳製品は避けるようにしましょう。

急性胃腸炎になりやすい人・予防の方法

急性胃腸炎になりやすい人には、いくつかの特徴があります。

なりやすい人の特徴(免疫力の低下)

小児や高齢者、慢性疾患を持つ患者さん、免疫抑制剤を使用している方は、急性胃腸炎にかかりやすい傾向があります。免疫力が低下していると感染症に対する抵抗力が弱いため、ウイルスや細菌に感染しやすく、重症化するリスクも高いです。

なりやすい人の特徴(集団で生活する環境にいる)

集団生活をしている方も急性胃腸炎にかかりやすいです。幼稚園や保育園、学校、介護施設などは感染が広がりやすく、集団感染が発生することがあります。特に、手洗いや衛生管理が不十分な場合、感染リスクが高まりますので、感染予防策を徹底することが重要です。

予防方法(手洗い)

急性胃腸炎の予防として最も大切なのが手洗いです。外出先から帰宅した時や、トイレの後、食事の前などには、石鹸と流水でしっかりと手を洗うようにしましょう。特に、感染者の嘔吐物や便に触れた後は、触れた箇所以外も十分に洗浄するように心がけてください。

予防方法(加熱調理)

食品の適切な調理と保存も予防策として有効です。生肉や生魚、生卵などは、十分に加熱してから摂取するようにしましょう。また、食品の保存方法にも注意を払い、冷蔵庫で適切に保存することが推奨されます。

予防方法(清潔の維持)

衛生的な環境の維持も急性胃腸炎の予防に役立ちます。家庭や施設内の清掃を定期的に行い、ウイルスや細菌の繁殖を防ぐようにしましょう。特に、トイレやキッチンなどの水回りは細菌が繁殖しやすい環境です。夏場は特に繁殖しやすい状況になるため、定期的に清掃するようにしましょう。

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