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憩室炎(大腸憩室炎)
吉川 博昭

監修医師
吉川 博昭(医師)

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医学博士。日本ペインクリニック学会専門医、日本麻酔科学会専門医・指導医。研究分野は、整形外科疾患の痛みに関する予防器具の開発・監修、産業医学とメンタルヘルス、痛みに関する診療全般。

憩室炎(大腸憩室炎)の概要

憩室炎(大腸憩室炎)は、大腸の壁に形成された憩室(大腸憩室)が炎症を起こす病状です。
憩室とは、大腸の壁の弱い部分が、外側に向かって小さな袋状に突出した部分です。大腸の内側から見ると約5〜10mmのへこみで、多くの場合無症状とされています。
しかし、便や食物残渣が憩室内に詰まり、憩室内に細菌が感染すると炎症を引き起こし、憩室炎(大腸憩室炎)といった急性疾患の合併につながることがあります。
憩室炎は増加傾向にあり、再発率も多いとされるため、臨床上問題となることがあります。

憩室自体は消化管のどの部分にも生じ得ますが、大腸憩室症が一般的です。この病状は大腸の壁が弱まることにより起こり、高齢化や食生活の変化が主な原因とされています。日本では大腸の右側およびS字結腸に憩室が形成されることが多いようですが、左側の大腸にも見られることがあります。加齢に伴い、両側に形成されるケースも増えているようです。

憩室炎の症状には、腹痛、発熱、嘔吐、下痢症状などが挙げられ、場合によっては血便を伴うこともあります。炎症が重篤化すると腸壁の穿孔や腹膜炎を引き起こすリスクもあり、緊急の医療介入を要します。

治療方法としては、軽度の場合は抗生物質の投与や食事制限が行われますが、重症例では入院治療や外科手術が必要になることがあります。
憩室症は再発しやすい疾患であるため、食物繊維を多く含む食事や排便管理が予防につながります。

憩室炎(大腸憩室炎)の原因

憩室炎の発症は、大腸に形成される憩室が炎症を起こすことにより生じます。憩室は、大腸の壁が外側に袋状に突出したもので、これが多数存在する状態を大腸憩室症と呼びます。
憩室が炎症を起こすと憩室炎となりますが、原因は複数考えられます。

1つ目は、腸管内への強い圧力です。憩室は先天性または後天性の原因で腸管内圧が上昇すると形成されます。後天性の主な原因に、食物繊維摂取量の不足による便秘が挙げられます。慢性的な便秘や強い排便時の力みにより、腸内の圧が高まると、大腸の壁が薄い部分が外側に押し出され、憩室が形成されます。
また、憩室の存在自体が症状を引き起こすことは少ないものの、便や食物残渣が憩室内に留まることで、細菌が繁殖しやすくなり、炎症が引き起こされます。

さらに、肥満、運動不足、喫煙、一部の薬剤(非ステロイド性抗炎症薬など)の使用もリスク因子とされています。これらはいずれも腸内圧を不必要に高め、憩室形成を促進する可能性があります。

加齢も要因の一つです。高齢になるに連れて腸の筋肉の弾力性が低下し、腸壁の弱い部分が押し出されやすくなります。このため、高齢者の憩室症、そして憩室炎の発生率が高くなると考えられています。

このようにして形成された憩室が炎症を起こすと憩室炎と診断され、治療が必要となります。
日頃からの食生活の見直しや適度な運動が予防につながります。

憩室炎(大腸憩室炎)の前兆や初期症状について

憩室炎は、憩室が炎症を起こした状態です。
憩室自体は多くの場合無症状とされていますが、炎症が始まると腹痛、発熱、吐き気や嘔吐などの症状が現れることがあります。また、腹部の特定の部位に圧痛を感じることがあります。
憩室部の血管が破れて出血する憩室出血の場合は、痛みを伴わずに突然の血便が出ることが特徴です。

このような症状が見られた場合、早急に医療機関を訪れることが重要です。組織が破れて内容物が漏出し、腹膜炎を起こすと、敗血症やショックの恐れがあるため、緊急処置を要します。

憩室炎の診察は、基本的には消化器内科が推奨されますが、症状が重い場合や合併症が疑われる場合は、消化器外科での診察が望ましいです。
緊急を要する症状、特に腹部の激しい痛みや持続する高熱がある場合は、救急病院への受診が必要です。
憩室炎は見過ごすと重篤な合併症を引き起こすことがあるため、初期症状を見逃さないことが大切です。

憩室炎(大腸憩室炎)の検査・診断

憩室炎の初期の診断として、症状の特定(腹痛、発熱、下血など)とともに、血液検査が行われます。
血液検査では白血球の増加やCRP(C反応性タンパク)の上昇が確認され、これにより体内での炎症反応の存在が示されます。

腹部の詳細な検査には、腹部超音波検査と腹部CT検査が行われます。
腹部超音波検査では、肥厚した腸壁や憩室周囲の炎症が見られることがあります。
腹部CT検査は、より詳細な情報を調べる為に行われます。憩室周辺の脂肪織の混濁や憩室の肥厚、穿孔や膿瘍形成などの重篤な合併症の有無を確認します。

炎症が一定期間収まった後は、原因の特定や大腸がんなど他の疾患の除外を目的として大腸内視鏡検査が行われることがあります。大腸内視鏡検査では、大腸の内部を直接観察し、憩室の存在や炎症の範囲を確認します。
また、注腸造影検査も行われることがあり、腸管の構造や狭窄、瘻孔の有無を確認します。

これらの憩室炎の検査の結果、重症の場合や合併症が疑われる場合は、速やかに治療が必要となるため、早期の診断が重要です。

憩室炎(大腸憩室炎)の治療

憩室炎の治療は、症状の程度と炎症の重さに応じて異なります。基本的には、腸の安静を保ちながら炎症を抑えます。

憩室に炎症はきたしていないものの、便秘や腹部症状(腹痛や腹部の不快感)がある場合は、流動食や内服薬による保存的治療で対応します。

軽度から中等度の憩室炎では、絶食が推奨され、腸を休ませます。脱水や栄養不足を防ぐために点滴で水分や栄養を補給します。
また、抗菌薬の投与を行うことで、感染の拡大を防ぎ、症状の改善を促します。

憩室炎が重症の場合、または炎症が膿瘍を形成している場合には、より積極的な治療が必要になります。
膿瘍が小さく限局している場合は、超音波やCTスキャンを用いた経皮的ドレナージを行い、膿を体外に排出します。この処置が不成功または不適切な場合、影響を受けた大腸の部分を外科的に切除する必要があることもあります。

さらに、憩室炎が腸の穿孔や腹膜炎を引き起こした場合は、緊急手術が必要となります。
手術では炎症が起きている部分の腸や、慢性炎症で狭くなってしまった部分の腸の切除が必要となります。腹膜炎の状況により、大腸切除のほか人工肛門の造設を行うこともあります。

また、憩室出血がある場合は、大腸内視鏡による内視鏡的止血術や、カテーテルによる動脈塞栓術を用いて出血をコントロールします。憩室炎と同様、軽微であれば絶食と経過観察が行われることもあります。

憩室炎が落ち着いた後は、治療後のフォローアップとして、大腸内視鏡検査や注腸造影検査が行われます。憩室炎の原因となった可能性のあるほかの病態、例えば大腸がんなどの可能性がないか調べます。

憩室炎は再発する可能性があり、過去に憩室炎を経験した方は特に注意が必要です。
適切な食事管理と定期的な検診が再発予防に役立ちます。

憩室炎(大腸憩室炎)のなりやすい人・予防の方法

憩室炎は40歳以上の中高年の方に多く見られる傾向にあります。
高齢化や食生活の欧米化が進むにつれて、憩室炎や憩室出血などの大腸憩室疾患は増加傾向にあります。食物繊維の不足が主な原因とされ、運動不足、肥満、喫煙、NSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬)の使用も憩室炎を引き起こしやすくします。

憩室炎の予防には、日常生活での食生活の改善が不可欠です。食物繊維を豊富に含む食品(野菜、果物、全粒粉製品、豆類など)の摂取を増やし、食事から繊維を摂取するよう意識しましょう。
食物繊維は腸の運動を正常化し、便秘を防ぐことで腸内圧を低下させ、憩室の形成リスク減少に役立ちます。

また、定期的な運動を行い、適切な体重管理も重要です。運動は腸の蠕動(ぜんどう)運動を促進し、便通の改善につながります。
さらに、ストレス管理も重要で、過度のストレスは腸の健康に悪影響を及ぼすため、リラクゼーション技法や適度な休息、十分な睡眠を取ることが推奨されます。

歯が悪い場合や咀嚼に問題がある方は、食物繊維の多いスムージーや野菜ジュースなどの摂取も一つの方法です。
また、必要に応じて医師の指導のもとで排便コントロールのための薬を処方されることもあります。

憩室炎は、再発リスクが高いとされる疾患です。過去に発症したことのある方は、治療後でも注意が必要です。
冷や汗をかく程の腹痛や、血便などの症状が現れた際は、放置せずに医療機関を受診してください。

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