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胃がん
岡本 彩那

監修医師
岡本 彩那(淀川キリスト教病院)

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兵庫医科大学医学部医学科卒業後、沖縄県浦添総合病院にて2年間研修 / 兵庫医科大学救命センターで3年半三次救命に従事、近大病院消化器内科にて勤務 /その後、現在は淀川キリスト教病院消化器内科に勤務 / 専門は消化器内科胆膵分野

胃がんの概要

胃がんは、胃の壁を覆う粘膜の細胞で発生するがんです。
胃粘膜で発生したがん細胞は無秩序に増えながら大きくなり、やがて粘膜下層・固有筋層・漿膜といった外側の組織へ進行していきます。
また、発生した胃がんが大きくなると、体内で近い位置にある大腸や膵臓・肝臓・横隔膜にも広がる可能性は否定できません。このように、近くの臓器にがんが広がることを浸潤といいます。

胃がんの発生割合

胃がんは日本人のなかで罹患割合の大きいがんです。2019年の全国がん登録罹患データではがん発症部位別で男性が3番目、女性が4番目に多く胃がんを罹患していると判明しました。罹患率が高い一方で、致死率は減少傾向にあります。致死率が減少している要因としては早期発見が挙げられます。胃がんの進行度が致死率にも関係してくると考えられることから、定期的な検診で早期発見に努めることも重要です。

スキルス胃がん

胃がんのなかでも特徴的な広がり方をするのがスキルス胃がんです。胃の壁を硬く厚くさせながら広がっていく胃がんで、進行が速く治りにくいケースが多くあります。

胃がんの原因

胃がんの原因は大きく生活習慣とヘリコバクター・ピロリ菌への感染の2つに分かれます。

それぞれ詳しく以下を確認しておきましょう。

胃がんにつながるとされる生活習慣

喫煙や過度な飲酒は胃がんの原因になるとされています。ほかにも高塩分食品の摂取が胃がんの発生につながるとの研究結果もあることから、日頃の食生活が大きく関係しているといえるでしょう。

ヘリコバクター・ピロリ菌とは

ヘリコバクター・ピロリ菌とは胃粘膜中に存在し炎症を起こす細菌です。50歳以上の約70%以上の方が感染しているとされているだけでなく、胃がんを発症した患者さんの約91%が感染していたという研究結果もあります。もちろん感染した人が必ず胃がんに罹患するというわけではありませんが、危険因子として考えられています。

胃がんの前兆や初期症状について

胃がんの症状の特徴として、早期では自覚症状がほとんど出ないとされている点が挙げられます。また、進行しても症状がない場合もあるため、定期的な検診を受けることが重要です。

胃がんの症状としては、胃の痛みや不快感・胸やけ・食欲不振が挙げられます。

罹患した部位から出血を伴ったり、貧血や血便といった症状があらわれたりすることがあります。ただし、これらは胃がんだけでなく胃炎や胃潰瘍でも起こる症状です。胃炎や胃潰瘍を疑って検査を受けた際に、がんが発見されることも少なくはありません。

初期症状の出にくい病気であることから、日常で気になる症状がある場合には、内科や消化器内科といった医療機関を受診するよう習慣づけておくことをおすすめします。

胃がんの検査・診断

胃がんの検査や診断は大きく2つの手順があります。1つ目はがんが疑われる場合にがんか否かを判定する検査を受けることです。1つ目の手順でがんであることが確定した場合には、進行度を診断する検査を受けることになります。2つ目の進行度診断の検査は、今後の治療方針を決めていくために必要な検査です。

胃がんがあるかどうかを確定する際の検査は、内視鏡検査やX線検査、血液検査といった方法が用いられます。

健康診断や人間ドックで受ける硫酸バリウム検査は、上部消化管造影検査のことです。がんが疑われる場合には内視鏡検査でその組織の一部を取り、生検でがん細胞かどうかを検査します。この時点で胃がんと診断が確定した場合には、今後の治療方針を決める検査へ移行します。

胃がんの進行度を知るための検査としては、超音波検査やCT検査を行うことが一般的です。がんの深さや転移、浸潤の有無を調べてこれらの検査の結果からステージ診断をして、そのステージにあった治療方針を決めていきます。

胃がんの治療

胃がんの治療法は、大きく以下の4つが挙げられます。

  • 内視鏡治療
  • 手術療法
  • 薬物療法(化学療法)
  • 放射線治療

ただし、放射線治療は胃がんの治療法としてはあまり一般的ではありません。

納得のいく治療ができるよう、しっかりと主治医と相談をすることが大切です。進行度やがんの性質といった状態を検討するうえで重要なポイントです。そのほか、患者さんの体力や年齢だけでなく、本人の意志を踏まえて検討していきます。

それぞれの治療法について、1つずつ見ていきましょう。

内視鏡治療

早期がんに用いられることの少なくない治療法で、内視鏡を使って胃の内側からがんを切除する方法です。がんが胃の内側から切除することのできる範囲、粘膜層にとどまっていている場合に行うことが原則とされています。体に対する負担が少ない点が特徴です。また、内視鏡での切除後にも胃が残るため、食生活への影響も少ないといえるでしょう。ただし、内視鏡検査の効果として根治しているかは、病理診断で確認していく必要があります。がんが取り切れているかや転移の可能性があるかを観察し、取り切れていない場合や転移の可能性がある場合には、追加で手術が必要となる点にも留意しておきましょう。1年に1~2回の内視鏡検査による経過観察が望ましいでしょう。

手術療法

内視鏡治療による切除が難しい場合に推奨される治療法です。手術はさらに2種類に大別されます。腹部を切開する開腹手術と、小さい穴を開け専用の器具を挿入し切除する腹腔鏡下手術です。手術支援ロボットを用いて医師が遠隔操作で行う手術も腹腔鏡下手術に含まれます。開腹手術はがん細胞をすべて取り除き、治癒を目指します。状態を十分に観察できるほか、急な状況変化への対応や手術操作がよりしっかりとなる点から重要な治療法です。腹腔鏡下手術は術後の身体の負担が少ない点がメリットとされていますが、医師や施設の充実度によって制限を受ける可能性があります。どちらの方法が適切かは、がんの進行度によっても異なります。主治医としっかりと相談し、納得できる方法での治療を選択できるとよいでしょう。

薬物療法(化学療法)

胃がんの薬物療法は、目的によって2種類に分かれます。1つは手術で切除をすることが難しい胃がんに対する化学療法、もう1つは手術後の再発予防を目的とする療法です。細胞障害性抗がん薬や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬を用います。ここ数年で使用可能となった薬物が増加しており、治療を続けながら今までどおり日常生活を送ることもできる点も特徴です。また薬物療法は内視鏡検査やCT検査で効果を確認していく必要があります。

放射線治療

先述のとおり、放射線治療は胃がんの治療方法としては一般的ではありません。理由としては、周囲の正常な臓器を損傷しやすいことや、胃がんに対しての効果が弱いことが挙げられます。

胃がんになりやすい人・予防の方法

胃がんになりやすい人の特徴としては、原因となる生活習慣が大きく関係していると考えられており、多くの研究からも導き出されています。

予防のためには、それらのリスク要因を排除することが適切であるといえるでしょう。原因とされている喫煙に対しては禁煙、飲酒に対しては禁酒が予防につながります。ほかにもバランスのよい食事や適正な体系の維持も大切です。胃がんの原因として注目されているヘリコバクター・ピロリの除菌も有効です。


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