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胃潰瘍・十二指腸潰瘍
中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

胃潰瘍・十二指腸潰瘍の概要

胃潰瘍とは、胃液に含まれる強い胃酸により 胃壁が傷ついて粘膜下層という深い粘膜までえぐられた状態 をいいます。
そして、胃酸によって 十二指腸の粘膜下層まで傷ついた場合が十二指腸潰瘍 です。
胃液は本来食物を消化する働きを持っていますが、何らかの理由により胃酸の分泌が増えたことで、胃や十二指腸の粘膜を傷つけてしまうのです。胃潰瘍・十二指腸潰瘍は消化性潰瘍と呼ばれ、その原因や症状には類似点が多くあります。

胃潰瘍・十二指腸潰瘍の原因

胃潰瘍と十二指腸潰瘍の主な原因としては、以下が挙げられます。

  • ヘリコバクター・ピロリ菌感染
  • 鎮痛薬の使い過ぎ
  • ストレス
  • 喫煙
  • 刺激物やアルコールの過剰摂取
  • 暴飲暴食

それぞれについて以下の解説を確認しておきましょう。

ヘリコバクター・ピロリ菌感染

ヘリコバクター・ピロリ菌は胃の内膜に生息し、 胃炎・胃潰瘍などの疾患の原因となる細菌 です。ヘリコバクター・ピロリ菌は胃酸を中和するウレアーゼという酵素を持っているため、強い胃酸のなかでも生き続けられます。感染の原因は、はっきりとわかっていません。ただ、衛生管理が不十分な地域や国における感染率が高いことから、衛生環境に要因があると考えられています。また、ヘリコバクター・ピロリ菌に感染している親から乳幼児期の子への口移しなどによって感染する場合もあります。

鎮痛薬の使い過ぎ

非ステロイド性抗炎症薬(鎮痛薬)には、 プロスタグランジンという物質の産生を抑制する作用 があります。プロスタグランジンは胃粘膜を保護する働きを持っているため、これが抑制されることで潰瘍が発生しやすくなるのです。頭痛や発熱でたまに使用する程度なら問題はありませんが、日常的に鎮痛剤を飲んでいると胃潰瘍・十二指腸潰瘍になりやすいことがわかっています。

生活習慣

ストレス・喫煙・アルコールなど刺激物の過剰摂取・暴飲暴食 ・生活習慣のみだれは、間接的に胃粘膜を傷つける と考えられています。例えば強いストレスを受けると自律神経に不調が起こり、胃液分泌に異常が出るため潰瘍ができやすい状態となります。また継続的な暴飲暴食は胃の消化機能を促進し、必要以上の胃液が分泌されることで胃潰瘍・十二指腸の原因となるのです。喫煙も胃酸の分泌を促進させます。

胃潰瘍・十二指腸潰瘍の前兆や初期症状について

胃潰瘍と十二指腸潰瘍の前兆や主な症状には次のようなものがあります。

  • みぞおちの痛み
  • 胸やけや胃もたれ
  • ゲップ
  • 吐き気
  • 嘔吐
  • 吐血
  • 下血

胃潰瘍・十二指腸潰瘍で よく見られる症状がみぞおちの痛み です。 胃潰瘍の場合は食事中や食後に、十二指腸潰瘍の場合は空腹時に痛みが起こりやすい といわれています。

潰瘍がすい臓の近くまで進行していると、みぞおちだけでなく背中側に痛みを感じることがあります。胸やけや胃もたれ・ゲップ・吐き気は胃酸が過剰に分泌されたために起こる症状です。このような症状が出たときは、消化器内科や胃腸内科を受診してください。

胃潰瘍が進行し、胃の血管まで損傷したときに見られる症状が吐血や下血です。
十二指腸潰瘍の場合も胃潰瘍とよく似た症状が見られますが、あまり症状が出ない場合もあります。気付かない間に潰瘍が進行して出血や穿孔などが起こり、便の異常で十二指腸潰瘍が発見されるという例も少なくありません。

胃壁に穴が開く穿孔(せんこう)という状態にまでなると、腹部に激烈な痛みが起こります。それとともに吐血・下血・血便といった症状が出ます。この段階は緊急手術が必要になる程の重篤な状態です。できるだけ速やかに消化器内科や胃腸内科を受診してください。

胃潰瘍・十二指腸潰瘍の検査・診断

胃潰瘍・十二指腸潰瘍が疑われる場合には、 上部消化管内視鏡検査や上部消化管造影検査を行って診断をします。

上部消化管内視鏡検査

上部消化管内視鏡検査は一般に胃カメラ検査と呼ばれるもので、潰瘍の状態を観察したり、ピロリ菌の有無などを調べたりします。細胞組織を採取して調べることもでき、出血していれば止血治療を行うことも可能です。患者さんのなかには、上部内視鏡検査を避けたがる人もいますが、近年は鎮痛剤や麻酔を使った辛くない上部消化管内視鏡検査を実施している医療機関もあります。

上部消化管造影検査

上部消化管造影検査は造影剤を服用してレントゲン撮影をする検査です。胃や十二指腸の形や潰瘍の大きさを見ることができます。

胃潰瘍・十二指腸潰瘍の治療

診断の結果、胃潰瘍や十二指腸潰瘍であった場合の主な治療方法は、次のとおりです。

  • 薬物治療
  • 食事療法
  • 内視鏡止血治療

以下の詳細を確認しておきましょう。

薬物治療

プロトンポンプ阻害薬などの 胃酸を抑制する薬や胃粘膜の保護を促す薬 を使用します。既往症の関係で消炎鎮痛薬の内服をされている患者さんの場合は、できれば消炎鎮痛剤を中止してもらいます。しかし継続が必要な患者さんには、プロトンポンプ阻害薬なども併用して内服するという治療方法も可能です。

食事療法

痛みが強かったり、潰瘍が大きかったりした場合に薬物治療に加えて行われるのが食事療法です。 症状が激しい間は胃を休め、胃液分泌を刺激しないように食事を制限 します。食事は消化のよいものを少量・数回に分けて摂り、症状が改善すれば普通の食事に戻します。アルコールやカフェインを含んだ飲み物・刺激物は、症状が改善して医師の許可が下りるまでは控えてください。アルコール・刺激物を日常的に多量摂取することは胃潰瘍・十二指腸潰瘍の再発リスクを高めます。潰瘍の再発を防ぐためにも、医師の指導のもと、適切な量の摂取を心がけてください。なお、タバコは治療の妨げであり、再発の大きな要因ともなりますので、禁煙をおすすめします。

内視鏡止血治療

潰瘍により胃から出血している場合は、内視鏡による止血処置を行います。ホチキスのようなクリッピングというもので出血している部分を止めたり、出血部の周囲に薬を注入したりして出血を止める方法です。穿孔による出血の場合は、内視鏡止血では対応できない場合があります。その際は外科的治療が行われます。穿孔の穴はほとんどが小さいため、近年では腹腔鏡による手術が一般的です。

胃潰瘍・十二指腸潰瘍になりやすい人・予防の方法

胃潰瘍・十二指腸潰瘍は、 大変再発しやすい病気 だといわれています。

しかし、生活習慣の改善や胃潰瘍・十二指腸潰瘍の原因と考えられているヘリコバクター・ピロリ菌を除菌することで、再発の予防が可能です。

胃潰瘍・十二指腸潰瘍になりやすい人

胃潰瘍・十二指腸潰瘍の原因の1つである ヘリコバクター・ピロリ菌に感染している人は、慢性的な胃炎となっている ため、潰瘍になりやすいと考えられます。高水準の衛生環境が整った日本においては、特に若い人のヘリコバクター・ピロリ菌感染は少なく、感染者の約80%が60代以上といわれています。日常的に強いストレスにさらされている人・食生活が乱れている人・喫煙者・刺激物やアルコールをよく摂る人なども、胃潰瘍や十二指腸潰瘍になりやすいといえるでしょう。

ヘリコバクター・ピロリ菌感染の検査

ヘリコバクター・ピロリ菌に感染しているかどうかを調べるには、上部消化管内視鏡検査による方法とそれ以外の検査方法があります。上部消化管内視鏡による方法では、内視鏡で胃粘膜の一部を取り出し、ウレアーゼ活性を調べます。その他の検査は、血液中のピロリ菌抗体を調べる抗体検査・呼気による検査・便のなかのピロリ菌抗原を調べる方法です。ピロリ菌の検査は、胃潰瘍や胃炎で受診されて上部消化管内視鏡検査を受けた患者さんは保険適用となりますが、健診や人間ドッグの際に検査する場合は全額自己負担です。

ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌

ヘリコバクター・ピロリ菌感染と診断された場合は、 除菌治療を受けておく とよいでしょう。ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌治療は、抗菌薬である抗生物質2種類と胃酸を抑制する薬を1日2回・7日間内服するというものです(一次除菌)。内服終了後4週間以上経過してから、ヘリコバクター・ピロリ菌が除菌できたかを検査します。もしまだ除菌できていない場合は、抗菌薬を変更してもう一度除菌します(二次除菌)。薬を正しく服用していれば、約90%の人が一次除菌で除菌でき、ほとんどの人が二次除菌で完了します。

胃潰瘍・十二指腸潰瘍の予防

消化性潰瘍を予防するためには、 日頃から規則正しい食生活を送り 、飲酒・暴飲暴食を避ける・ストレスをため込まないように心がけることが大切です。喫煙習慣がある人は、禁煙してください。もし胃の状態などで気になることがあれば、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。


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