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中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

潰瘍性大腸炎の概要

潰瘍性大腸炎は、大腸の壁の内側を覆う粘膜に持続的・慢性的な炎症が起こり、粘膜の上皮が剥がれて潰瘍が形成される炎症性腸疾患の一種です。多くの患者さんで直腸から始まり、大腸全体に広がることもあります。
症状の程度や範囲は個人差があり、状態の悪いときと良いときを繰り返します。生命を脅かす疾患ではありませんが、日常生活の質に大きな影響を与える可能性があり、放置しておくと癌が発生することもあるため、適切な治療が必要です。

潰瘍性大腸炎の原因

潰瘍性大腸炎の原因ははっきりしていませんが、いくつかの要因が関与していると考えられています。

遺伝的要因

潰瘍性大腸炎は家族内での発症が多いことから、遺伝的要因が強く示唆されています。特定の遺伝子変異が直接遺伝するのではなく、潰瘍性大腸炎になりやすい体質があると考えられます。

免疫系の異常

通常は自分の細胞である粘膜を攻撃しないように免疫系が調節されています。しかしさまざまな原因により、誤って大腸粘膜の正常な細胞を攻撃するようになってしまい、炎症が引き起こされると考えられています。

環境要因

食生活やストレス、感染症などの環境要因も発症に関与している可能性があります。特に西洋化された食生活がリスクを高めるとされています。

腸内細菌叢の変化

さまざまな原因によって腸内細菌のバランスが崩れることが、潰瘍性大腸炎の発症に関与していると考えられています。

潰瘍性大腸炎の前兆や初期症状について

潰瘍性大腸炎の症状には個人差がありますが、一般的には次のような前兆や初期症状があります。以下の症状が1回や2回ではなく、頻回に、もしくは数週間以上続きます。

下痢

頻繁な便意と水様便、あるいは血便が見られます。特に血便を伴うことが多く、これが初期症状として現れることがあります。

腹痛

腸内の炎症や潰瘍によるもの、また、腸の動きにより、特に左下腹部に痛みを感じることが多いと言われています。

緊急便意(テネスムス)

便を出し終わっても便を出したい感覚が続くことを言います。便意は感じますが、実際には便が出ない、もしくは少量しか出ない状態が頻繁に起こります。これは肛門部に炎症があることと関係しているとされ、生活の質が大きく損なわれることがあります。

倦怠感・疲れやすさ

持続的な疲労感や体力の低下が見られます。炎症による体内のエネルギーの消耗が原因と考えられます。

発熱

軽度の発熱が見られることがあります。これは体内の炎症反応に伴うものです。

体重減少

食欲不振や消化吸収の障害により体重が減少することがあります。下痢や血便、また、炎症が続くことによる、栄養摂取の不足や体内での栄養吸収の低下が原因です。

関節痛や皮膚症状

潰瘍性大腸炎は大腸の炎症が主体の病気ですが、炎症が全身を回ったり、また、免疫系の異常を伴ったりすることもあるため、関節痛や皮膚の潰瘍や結節が現れることもあります。これらは炎症性腸疾患関連関節炎末梢性脊椎関節炎壊疽性膿皮症結節性紅斑と呼ばれます。
潰瘍性大腸炎の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、消化器内科です。潰瘍性大腸炎は大腸の炎症性疾患であり、消化器内科での診断と治療が必要です。

潰瘍性大腸炎の検査・診断

血液検査

炎症の有無や貧血の状態を確認するために行われます。C反応性蛋白(CRP)や赤血球沈降速度(ESR)などの炎症マーカーの上昇が多く見られます。また炎症により、白血球や血小板の数も増加することがあります。

内視鏡検査

大腸の壁を内側から直接観察するための検査で、潰瘍の有無や炎症の程度を確認します。生検(組織の一部を採取して検査すること)も行われます。生検を含めた内視鏡による観察は、炎症の範囲や重症度の評価に不可欠であり、治療方針の決定に用いられます。

便検査

血便の有無や感染症の除外のために行われます。特に寄生虫や細菌感染の検査が重要となります。

<診断基準> (厚生労働省 難治性疾患政策研究班)

以下の「Definite」に該当するものが対象となります。
次のa)のほか、b)のうちの1項目及びc)を満たし、下記の疾患が除外できれば、Definiteとなる。
a)臨床症状
持続性または反復性の粘血・血便あるいはその既往がある。
b)①内視鏡検査:ⅰ
粘膜はびまん性に侵され、血管透見像は消失し、粗造または細顆粒状を呈する。さらに、もろくて易出血性(接触出血)を伴い、粘血膿性の分泌物が付着しているか、ⅱ)多発性のびらん・潰瘍あるいは偽ポリポーシスを認める。
②注腸X線検査:ⅰ
粗造または細顆粒状の粘膜表面のびまん性変化、ⅱ)多発性のびらん・潰瘍、ⅲ)偽ポリポーシスを認める。その他、ハウストラの消失(鉛管像)や腸管の狭小・短縮が認められる。
c)生検組織学的検査
活動期では粘膜全層にびまん性炎症性細胞浸潤、陰窩膿瘍、高度な杯細胞減少が認められる。いずれも非特異的所見であるので、総合的に判断する。寛解期では腺の配列異常(蛇行・分岐)、萎縮が残存する。上記変化は通常直腸から連続性に口側に見られる。

潰瘍性大腸炎の治療

潰瘍性大腸炎の治療目標は、治療開始による症状の軽減とその後の寛解維持を目的とします。寛解とは、一時的あるいは永続的に、病気がほとんどない、または消失している状態のことですが、寛解となっても、何らかのきっかけで炎症が再び起こったり、症状が強くなったりする可能性があります。そのため、寛解となっても注意深い観察が必要です。

薬物療法

現在の治療は、薬物療法が主体です。いろいろな薬剤が使用可能であり、重症度や患者さんの状態によって使い分けられます。
アミノサリチル酸(5-ASA製剤)
炎症を抑えるために使用されます。サラゾスルファピリジンやメサラジンが代表的です。これらの薬剤は、軽度から中等度の潰瘍性大腸炎に効果的です。
ステロイド
急性の炎症を迅速に抑えるために使用されますが、長期の使用はさまざまな副作用があります。プレドニゾロンやブデソニドが一般的です。
免疫調整剤
免疫系の活動を抑えるために使用されます。アザチオプリンやメルカプトプリンが代表的で、長期の維持療法に使用されます。
生物学的製剤
特定の炎症たんぱく分子をターゲットにした治療法で、効果は高いものの、高価な薬剤が多くなっています。インフリキシマブやアダリムマブなどの抗TNF-α抗体や、ベドリズマブ、ウステキヌマブなどの新しい薬剤があります。

外科治療

薬物療法が効果を示さない場合や重症例では、外科手術によって大腸の一部または全部を切除することがあります。手術には回腸肛門吻合(Jポーチ手術)が含まれ、これにより肛門を温存し、便の排出機能を維持することが可能です。また、炎症が長期間持続することで癌を合併することがあり、その際にも手術が選択されます。

栄養療法

栄養状態を改善するための食事療法や栄養補助食品が使用されます。特に、発症期や手術後の栄養管理が重要です。低残渣食や、特定の栄養素を補うためのサプリメントが使用されます。

潰瘍性大腸炎になりやすい人・予防の方法

潰瘍性大腸炎の発症リスクを高める要因には、次のようなものがあります。

家族歴
家族に潰瘍性大腸炎の患者さんがいる場合、発症リスクが高まります。

生活環境
都市部に住んでいる人や高所得者層で発症率が高いことが報告されています。

予防の方法

潰瘍性大腸炎は慢性的な疾患であり、明確な予防法は確立されていませんが、健康的な生活習慣を維持することで発症リスクを低減し、症状を悪化させることなくコントロールしやすくなります。また、適切な治療と自己管理により、生活の質を向上させることができます。以下の方法がリスクを低減する可能性があります。

健康的な食生活
バランスの取れた食事を心がけ、特に食物繊維を豊富に摂ることが重要です。また、加工食品や高脂肪食の摂取を控え、果物や野菜、全粒穀物を多く摂取することが推奨されます。

ストレス管理
ストレスは潰瘍性大腸炎の発症や悪化に影響を与えるため、適切なストレス管理が必要です。

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