

監修医師:
小坂 泰二郎(医師)
順天堂大学附属順天堂医院 卒業 (同大学で学位取得)/ 現在は佐久総合病院、佐久医療センター勤務 / 専門は乳腺外科、手術および薬物治療に従事 / 前職場であった愛媛県四国中央市HITO病院で外来業務に従事している
【資格】
日本乳癌学会 専門医
日本臨床腫瘍学会 専門医・指導医
ASUISHI 2期修了
小葉がんの概要
小葉がんは、乳がんの一種であり、乳腺の小葉という小さな腺組織から発生するのが特徴です。
乳房は乳腺組織と脂肪組織で構成されており、乳腺組織には乳管と小葉があります。小葉がんは、その病理形態から、小葉内に留まる「非浸潤性小葉がん」と、周囲の組織へ浸潤していく「浸潤性小葉がん」に分けられます。
非浸潤性小葉がんは、浸潤がんの前段階として扱われ、将来的に浸潤性小葉がんになるリスクがあります。
浸潤性小葉がんは、リンパ節やほかの臓器に転移する可能性があるのが特徴で、乳がん全体の中で5〜15%(報告により差あり)を占めるとされ、50歳以降によくみられます。
小葉がんは他の乳がんと比較して、発見が遅れるケースもあるため、定期的な検診による早期発見が重要です。
小葉がんの原因
小葉がんの正確な発生原因は、現時点では完全には解明されていません。
しかし、他の乳がんと同様に、複数の要因が複雑に関与して発生すると考えられています。女性ホルモンの一種であるエストロゲンの長期的な影響は、小葉がんのリスクを高める要因の一つとして指摘されています。
また、遺伝的な要因も関与しており、家族に乳がんを発症した人がいる場合、小葉がんのリスクがわずかに上昇することが知られています。さらに、閉経後の肥満(BMI>30)や喫煙、過度のアルコール摂取などの生活習慣も、乳がん全般のリスクとして挙げられており、小葉がんの発症にも影響する恐れがあります。
小葉がんの前兆や初期症状について
一般的に、乳がんはしこりに触れることで発見されるケースがあります。しかし、小葉がんは発生に至るまでの特徴から、目立った症状がなく、しこりとして触知しにくい場合があります。そのため、早期発見が難しいことも少なくありません。
小葉がんは、乳房全体の腫れや痛み、乳房の皮膚の変形、乳頭からの分泌物などが症状として現れることがあります。これらの症状は、他の乳がんの種類と同様ですが、小葉がんの場合、腫瘤を形成しにくいため、自己検診で見つけにくい特徴があります。
さらに、これらの症状は小葉がん特有のものではなく、他の乳腺疾患でも見られることがあるため、定期的な乳がん検診と、少しでも気になる症状があれば、早めに医療機関を受診することが重要です。
小葉がんの検査・診断
小葉がんの確定診断には、さまざま検査結果から評価することが不可欠です。
まず、問診と視触診によって、症状の有無や乳房の状態を確認します。画像検査としては、マンモグラフィや超音波検査が一般的に行われ、病変の有無や広がりを評価します。
マンモグラフィは、乳房全体の構造を把握するのに優れており、微細な石灰化の発見にも役立ちます。超音波検査は、乳腺内の構造(構築)異常を調べるのに有用です。必要に応じて、MRI検査を加えて、より詳しく調べることで、小葉がんの状態を把握して、手術や治療の計画を立てる際に役立てます。
これらの画像検査で異常が見つかった場合、組織検査によって確定診断を行います。組織検査には、針生検や吸引細胞診などがあり、採取した組織や細胞を顕微鏡で詳しく調べ、がん細胞の有無や種類などを評価します。
小葉がんの治療
小葉がんの治療は、がんの進行度やあらゆる検査結果、全身状態、本人や家族の希望を考慮して、計画が立てられます。
治療の主な目的は、病巣を除去すること、がんの根治を目指して再発を予防するための治療をすること、進行している場合は症状を緩和して生活の質(QOL)を維持することです。
手術療法
手術療法は、がん組織を物理的に切除することで、根治を目指す治療法です。
乳房部分手術と乳房切除手術の大きく2つの方法があり、がんの大きさや広がり、希望などによって主治医と相談のうえで決めます。
乳房部分手術は、乳房の一部のみを切除する方法で、整容性の維持に優れていますが、手術後に放射線療法を行う必要があります。乳房切除手術は、乳房全体を切除する方法で、局所再発のリスクを減らすことができますが、乳房を失う精神的な負担があります。
腋窩リンパ節への転移が疑われない場合はセンチネルリンパ節生検を行い、リンパ節転移を認めた場合にはリンパ節郭清(かくせい)という、リンパ節を切除する手術を併せて行うことがあります。
放射線療法
放射線療法は、高エネルギーの放射線を残存乳房や胸壁に照射することで、残っているかもしれないがん細胞を死滅させて、再発を予防する重要な治療法です。また、手術ができず皮膚から露出した乳がんや、痛みや出血などの症状を緩和する目的で用いられることもあります。
一方で、放射線治療は照射部位の皮膚炎、照射範囲の(放射性)肺炎などの副作用のリスクがあるため、治療計画を慎重に立てる必要があります。
薬物療法
手術で取りきれなかった微小ながん細胞や、目に見えないような全身に潜むがん細胞に対して、抗がん剤やホルモン治療、分子標的薬などの薬物を用いて、がん細胞の増殖を抑えたり、死滅させて再発を防いだりすることを目的とする治療法です。
抗がん剤は、細胞の分裂速度が速く、また自己修復能力の低いがん細胞を攻撃する薬剤で、全身への副作用として吐き気、脱毛、骨髄抑制などが現れることがあります。ホルモン治療は、ホルモン受容体に依存して増殖するがん細胞に対して、ホルモンの供給を阻害したり、受容体の機能を低下させたりすることでがんの増殖を抑えます。
分子標的薬は、がん細胞特有の分子を標的として作用する薬剤で、主に分子を阻害することでがんの増殖を抑える効果が期待できます。
薬物療法は、それぞれ薬剤の副作用のリスクがあるため、患者さんの状態を観察しながら、適切な薬剤選択、投与量、投与スケジュールなどが決定されます。
小葉がんになりやすい人・予防の方法
小葉がんの発生リスクを高める要因として、複数考えられています。
加齢は大きなリスク要因であり、特に閉経後の女性は小葉がんを含む乳がん全般の発症リスクが高まる可能性があります。これは、女性ホルモンの変化が関与していると考えられています。
家族歴に乳がんを発症した人がいる場合、遺伝的な要因によって小葉がんのリスクがわずかに上昇することがあります。肥満も、乳がんのリスクを高める可能性があるため、標準体重を考慮したバランスの良い食事や定期的な運動を心がけることが大切です。
その他、過度のアルコール摂取や喫煙などの生活習慣も、乳がんのリスクを上昇させる可能性があるため、これらのリスク要因を避けることが、小葉がんの予防につながることが期待されます。
また、日常生活での乳房のセルフチェックに加え、定期的な乳がん検診を受けることで、早期発見・早期治療が可能となります。乳がん検診には、マンモグラフィや乳房超音波検査などがあり、定期的に受けることが推奨されています。少しでも気になる症状があれば、自己判断せずに早めに医療機関を受診することが重要です。
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参考文献