

監修医師:
馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)
目次 -INDEX-
卵巣胚細胞腫瘍の概要
卵巣胚細胞腫瘍は、卵巣に発生する胚細胞腫瘍の総称を指します。
将来卵子へ成長する原始胚細胞の一部は、通常、胎児期に卵巣にたどり着いてとどまりますが、何らかの原因でそれらが変異して、腫瘍をつくることがあります。
卵巣胚細胞腫瘍には、良性のものと悪性のものがあり、悪性の腫瘍にはいくつかの種類があります。
代表的なものとしては、未熟奇形腫や未分化胚細胞腫、卵黄嚢腫瘍、胎芽性癌、非妊娠性絨毛癌、そして複数の腫瘍のタイプが混ざった混合型胚細胞腫瘍などが挙げられます。
症状としては、下腹部痛などの腹部症状を生じることが多いですが、なかには無症状のまま進行し急性腹症を引き起こすケースもあります。
腫瘍が大きくなると、腫瘍の根元がねじれたり、周囲の臓器に広がったり、遠くの臓器に転移したりすることもあります。
診断では、血液検査で腫瘍マーカーと呼ばれる数値を確認したり、超音波検査などの画像検査をおこなったりします。
確定診断には、手術で採取した組織を詳しく調べる病理検査が必要です。
治療は手術が基本であり、必要に応じて抗がん剤や放射線治療などを組み合わせて治療を進めていきます。
手術の方法は、腫瘍の悪性度や進行具合、また患者さんが将来妊娠を希望しているかどうかによって異なります。
胚細胞腫瘍は希少がんに分類されており、いずれのタイプの卵巣胚細胞腫瘍も、卵巣にみられる腫瘍としてはまれな疾患です。
たとえば、未分化胚細胞腫が全卵巣腫瘍に占める割合は1%程度です。しかし、若い女性でも発症する可能性がある卵巣腫瘍の1つです。

卵巣胚細胞腫瘍の原因
卵巣胚細胞腫瘍の原因は、原始胚細胞ががん化し、卵巣内に異常に増殖することです。
原始胚細胞は、赤ちゃんが母親のお腹の中にいるときに作られる細胞であり、後に卵子や精子などの生殖細胞となる細胞です。
何らかの理由でこの原始胚細胞が異常をきたし、がん細胞へと変化してしまうことがあります。
卵巣内で腫瘍として大きくなったものが、卵巣胚細胞腫瘍です。
卵巣胚細胞腫瘍の前兆や初期症状について
卵巣胚細胞腫瘍の主な症状は、下腹部痛、腹部のしこり、下腹部の膨満感が挙げられます。
多くの人は下腹部の痛みをきっかけに病院へ受診し、そこで病気が見つかります。
次に多いのが、無症状で経過し、健康診断や自己触診などで下腹部のしこりに気づき見つかるケースです。
進行すると茎捻転(けいねんてん)を起こし、急性腹症として発見されることもあります。
茎捻転では腫瘍の根本がねじれ、激しい腹痛が生じます。
腫瘍が元に戻らず完全にねじれてしまうと、卵巣の血流が滞り壊死を引き起こすこともあります。
疑わしい症状が見られた場合は、できるだけ早く婦人科を受診しましょう。
卵巣胚細胞腫瘍の検査・診断
卵巣胚細胞腫瘍の診断では、血液検査や超音波検査などの画像検査をおこないます。
まず、卵巣胚細胞腫瘍が疑われる場合、血液検査で腫瘍マーカーを測定します。
腫瘍マーカーを調べることで、腫瘍の種類を特定したり、病気の状況や進行度を判定したりするのに役立ちます。
腫瘍マーカーとしては卵黄嚢腫瘍や未熟奇形腫、胎芽性癌ではAFPが上昇します。
非妊娠性絨毛癌ではHCG、未分化胚細胞腫ではLDHの上昇が見られます。
次に、腫瘍の状態や遠隔転移の有無を調べるために、超音波検査やCT検査、MRI検査などの画像検査をおこないます。
超音波検査では、腫瘍の性質や状態、大きさ、腫瘍と周囲の臓器との位置関係などを観察します。
卵巣胚細胞腫瘍の確定診断には、病理検査が必要です。
病理検査では、手術で採取した腫瘍の一部を顕微鏡で詳しく調べます。
これらの検査結果を総合的に判断して、今後の治療方針が決定されます。
卵巣胚細胞腫瘍の治療
卵巣胚細胞腫瘍の治療は、外科手術を基本とし、必要に応じて抗がん剤による薬物療法や放射線治療がおこなわれます。
治療方針は、腫瘍の種類や多臓器への広がりの程度などによって異なります。
手術
手術では、両側の卵巣や子宮、大網(胃と大腸の間の膜)を取り除くことが一般的です。
がんが広がっている場合は、リンパ節や腹膜なども一緒に切除することもあります。
また、がんが進行していると、一度の手術で全部を取り切れないと判断されることがあります。
そのような場合は、まず抗がん剤でがんを小さくしてから手術をおこなうこともあります。
患者が将来の妊娠や出産を希望する場合、悪性腫瘍であっても、進行期にかかわらず、がんがない方の卵巣や卵管、子宮を残す手術方法(妊孕性温存手術)が選ばれることもあります。
がんのない方の卵巣と卵管を残すことで、将来の妊娠の可能性を保てることがあります。
良性腫瘍の場合は手術のみで治療は終了しますが、悪性の場合、多くは術後の抗がん剤治療が必要です。
薬物療法
ほとんどのケースで、手術の効果を高めるために術後に抗がん剤による薬物治療がおこなわれます。
がんが再発した場合にも、抗がん剤による薬物療法が治療の中心となります。
放射線治療
がんが再発し、薬物療法や手術が困難なケースでは、放射線治療をおこなうこともあります。
放射線によってがん細胞を小さくしたり、痛みを和らげたりすることが期待されます。
卵巣胚細胞腫瘍になりやすい人・予防の方法
卵巣胚細胞腫瘍は、10代から20代の若い女性に多く見られる病気です。
予防方法は現在のところ確立されていません。
がん全般の予防には、生活習慣を整えることが重要です。
例えば、たばこを吸わないことや、お酒を飲みすぎないことが推奨されています。
バランスのとれた食事をとること、適度な運動をすること、適正体重を保つことも大切です。
また、食事では塩分を控えたり、野菜と果物を食べたり、熱い飲み物や食べ物は少し冷ましたりするようにしましょう。
ウイルスや細菌などの感染症を防ぐことも、がんの予防に役立つとされています。
早期発見のためには、日頃から体調のわずかな変化にも気づけるよう意識することが大切です。
気になる症状がある場合は、ためらわず婦人科医に相談しましょう。
関連する病気
- 未熟奇形腫
- 未分化胚細胞腫
- 卵黄嚢腫瘍
- 胎芽性癌
- 非妊娠性絨毛癌
- 混合型胚細胞腫瘍
- 急性腹症
参考文献




