

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
不妊症の概要
不妊症とは、妊娠を希望して避妊せずに一定期間性生活を営んでも妊娠に至らない状態を指します。通常、1年間妊娠しない場合に不妊症と診断されます。年齢が高い場合や他に不妊のリスク要因がある場合は、半年での評価が推奨されることもあります。不妊症は女性、男性のいずれにも原因が存在することがあり、決して女性側だけの問題ではありません。世界的に見ても不妊症は増加傾向にあり、日本においても晩婚化やライフスタイルの変化とともに不妊治療の重要性が高まっています。
不妊症の原因
不妊症の原因は多岐にわたります。女性側の原因としては、排卵障害、卵管の閉塞や癒着、子宮内膜症、子宮の異常(筋腫や奇形)、加齢による卵子の質の低下などが挙げられます。男性側では、精子の数や運動率の低下、精管の閉塞、性機能障害などが原因となります。さらに、夫婦ともに検査で特に異常が見つからない「原因不明不妊」も存在します。
排卵障害は女性の不妊原因の中でも頻度が高く、ホルモンバランスの乱れや多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)が代表的です。卵管因子ではクラミジア感染後の癒着や子宮内膜症による癒着が問題となります。男性不妊では造精機能障害が最多で、生活習慣、遺伝的要因、精索静脈瘤などが関与します。また、過度のストレス、肥満、喫煙、飲酒、環境ホルモンの影響など、生活習慣や環境要因も不妊のリスクを高めます。
不妊症の前兆や初期症状について
不妊症そのものに特有の自覚症状はありません。ただし、原因となる疾患により月経不順や無月経、性交痛、下腹部痛、不正出血などがみられる場合があります。男性では精液の異常が自覚できないことが多く、症状を感じないまま不妊検査で初めて異常が発見されるケースが少なくありません。
月経周期が不規則な場合は排卵障害の可能性があり、性交痛や下腹部痛がある場合は子宮内膜症や骨盤内癒着が疑われます。性感染症の既往がある場合は卵管障害のリスクが高まります。男性では精液検査を行わない限り、造精機能障害の有無はわからないことが多いです。
不妊症の検査・診断
不妊症の評価は、女性と男性の両方を対象に総合的に行われます。女性ではまず基礎体温表による排卵の有無の確認、血液検査によるホルモン測定(卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、プロラクチン、甲状腺ホルモンなど)が行われます。超音波検査では卵胞の発育状況や子宮の形態異常を調べます。
卵管の通過性を調べるためには子宮卵管造影検査が行われます。近年では、超音波下で行う通水検査や造影超音波検査も使用されています。子宮内膜症や重度の癒着が疑われる場合は腹腔鏡検査が有用です。
男性では精液検査が中心です。精子の数、運動率、正常形態率を評価します。異常があれば、さらにホルモン検査や遺伝学的検査、精索静脈瘤の有無を確認します。感染症スクリーニングや染色体異常の検査が行われることもあります。
不妊症の治療
治療は原因と状況に応じて段階的に行われます。まずは生活習慣の改善が基本となります。適切な体重管理、禁煙、節酒、ストレス対策が重要です。
排卵障害に対しては排卵誘発剤が用いられます。クロミフェンやレトロゾールなどの内服薬、またはゴナドトロピン注射が使用されます。タイミング法は、排卵の時期に合わせて性交渉を持つ方法で、排卵誘発と併用されることが多いです。
卵管障害や精子所見が軽度不良の場合には人工授精が行われます。精液を処理して子宮内に注入することで、受精の可能性を高めます。より重度の卵管閉塞や男性不妊、長期の原因不明不妊では体外受精が選択されます。受精卵を体外で培養し、良好な胚を子宮に戻す方法です。受精障害がある場合は顕微授精(精子を直接卵子に注入する技術)が行われます。
高度な不妊治療では、着床前遺伝学的検査(胚の染色体異常を調べる)や、卵子・精子・胚の凍結保存も選択肢になります。最近では卵子凍結による将来の妊娠計画も注目されています。
不妊症になりやすい人・予防の方法
年齢はもっとも大きなリスク因子です。特に女性は35歳を超えると卵子の質と数が急速に低下し、妊娠率が下がります。加齢以外にも、性感染症、子宮内膜症、肥満、過度な痩身、喫煙、過度の飲酒、ストレス、睡眠不足、過労、化学物質曝露などがリスクを高めます。
予防のためには、若いうちからの性感染症予防、月経異常の早期受診、適切な生活習慣が重要です。妊娠を希望する時期を考慮したライフプランニングも有効です。女性の健康教育の中で、妊娠に関する正しい知識を普及させることも大切です。
不妊症は夫婦の問題であり、女性だけが責任を感じるべきではありません。パートナー同士で理解し合い、早めに専門医に相談することが重要です。早期の検査と適切な治療により、多くの夫婦が妊娠の希望を実現できます。
参考文献
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