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卵巣がん
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

卵巣がんの概要

卵巣がんは、女性の卵巣にできる悪性の腫瘍です。日本でも女性のがんの中で命に関わるケースが多い病気のひとつです。卵巣がんは、がんができる場所や細胞の種類によっていくつかのタイプに分かれますが、一番多いのは「上皮性卵巣がん」というタイプです。この病気の厄介なところは、初めのうちはほとんど症状が出ないことです。そのため、見つかったときにはすでに進行していることが多いのです。

卵巣がんは治療しても再発することが少なくありません。がんの進行度によって再発のしやすさが異なり、早い段階(ステージI)で見つかった場合の再発は約10%ですが、かなり進んでから見つかると90%以上が再発することもあります。そのため、治療後も定期的な検査や経過観察が重要です。

卵巣がんの原因

卵巣がんの原因は一つではなく、いくつかの要因が組み合わさっています。特に重要なのが遺伝です。BRCA1やBRCA2という遺伝子に異常があると、卵巣がんや乳がんになりやすくなります。こうした遺伝子は、体の中で細胞の傷を修復する役割がありますが、異常があるとうまく修復できずにがんが発生しやすくなるのです。家族に卵巣がんや乳がんの患者がいる場合は、遺伝的な検査を受けることもあります。

また、生活習慣や体の状態も影響します。たとえば、子どもを産んだことがない、月経が早く始まって遅く終わる、肥満、食生活の乱れ、女性ホルモンの治療を長く受けていることなどがリスクを高めると考えられています。一方で、ピルを長期間飲んでいると卵巣がんのリスクが下がるという研究もあります。最近では、卵巣だけでなく卵管の先端部分(卵管采)からがんが始まるケースが多いこともわかってきており、予防のために卵管を切除する手術が検討されることもあります。

卵巣がんの前兆や初期症状について

卵巣がんは「沈黙のがん」とも呼ばれ、初めのうちはほとんど症状がありません。しかし、がんが大きくなってくると、次のような症状が出てくることがあります。

・お腹が張ってきた感じがする ・下腹部の痛みや重苦しさがある ・食欲がなくなる、すぐにお腹がいっぱいになる ・便秘やお腹の調子が悪くなる ・頻尿や排尿時の違和感がある ・体重の減少 ・疲れやすくなる ・腹水がたまってお腹が大きくなる

これらの症状は他の病気でもよく見られるものなので、つい見過ごしてしまうことがあります。特に数週間以上続く場合は婦人科を受診することが大切です。

卵巣がんの検査・診断

卵巣がんが疑われたときは、まず内診や経膣超音波検査で卵巣の様子を調べます。血液検査でCA125という値を測ることもありますが、これは他の病気でも上がることがあるため、卵巣がんの確定にはつながりません。

さらに詳しく調べるために、CTやMRIといった画像検査を行い、がんの広がりや他の臓器への影響を確認します。最終的には手術で採取した組織を顕微鏡で詳しく調べて診断を確定します。最近では、がんの遺伝子検査(BRCA遺伝子やその他の遺伝子)も行われ、治療法を選ぶうえで参考にされることがあります。

卵巣がんの治療

卵巣がんの治療は、手術と薬による治療(化学療法)が中心になります。まずできるだけがんを取り除く手術を行い、その後に抗がん剤治療を行います。抗がん剤はカルボプラチンという薬とパクリタキセルという薬を組み合わせて使うのが標準的です。

がんが再発した場合や治療が効きにくい場合は、ベバシズマブという血管の成長を抑える薬や、PARP阻害薬という新しい薬が使われることもあります。特にBRCA遺伝子に異常がある人は、このPARP阻害薬がよく効くことがあります。

また、腹腔内温熱化学療法(HIPEC)という方法が行われることもあります。これは手術のときに温めた抗がん剤をお腹の中に直接入れて治療する方法です。さらに、一部の再発がんではミルベツキシマブ・ソラブタンシンという新しい薬が使われることもあります。

治療に伴って、しびれや手足の感覚異常、骨がもろくなる、白血球が減って感染しやすくなる、倦怠感、消化器症状などの副作用が出ることがあります。副作用への対策や体のケア、心のサポートも大切な治療の一部です。

卵巣がんになりやすい人・予防の方法

卵巣がんは完全に防ぐ方法はまだありませんが、リスクが高い人を早めに見つけて適切な対応を取ることが重要です。家族に卵巣がんや乳がんの患者がいる場合、遺伝子検査でリスクを確認し、必要に応じて卵巣や卵管を予防的に切除することも選択肢になります。

生活面では、体重を適正に保つ、バランスの良い食事を心がける、禁煙する、適度に運動することが推奨されます。現在のところ、すべての人に推奨できる卵巣がんの検診方法はありませんが、リスクの高い人は定期的に超音波検査や血液検査を受けることがあります。将来的には、血液や細胞からがんの早期兆候を見つける新しい検査法の開発が期待されています。

参考文献

  • Berek JS, Hacker NF, eds. Epithelial ovarian, fallopian tube, and peritoneal cancer. In: Berek and Hacker’s Gynecologic Oncology. 7th ed. Wolters-Kluwer; 2021:421-476.
  • World Cancer Research Fund International. Ovarian cancer statistics. www.wcrf.org/cancer-trends/ovarian-cancer-statistics/.
  • Zamwar UM, Anjankar AP. Aetiology, epidemiology, histopathology, classification, detailed evaluation, and treatment of ovarian cancer. Cureus. 2022;14(10):e30561.
  • Casaubon JT, Kashyap S, Regan J-P. BRCA-1 and BRCA-2 mutations. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island, FL: StatPearls Publishing; 2023.

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