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多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

多囊胞性卵巣症候群(PCOS)の概要

多囊胞性卵巣症候群(Polycystic Ovary Syndrome:PCOS)は、生殖年齢女性において最も頻度の高い内分泌疾患の一つであり、その有病率はおおよそ6~15%とされています。月経異常、不妊、高アンドロゲン血症、代謝異常を特徴とし、生殖機能のみならず代謝や精神面においても長期的な影響を及ぼす疾患です。PCOSの診断と管理には、国際的な基準と日本独自の診療実態を踏まえた対応が必要とされています。

多囊胞性卵巣症候群(PCOS)の原因

PCOSの病態は非常に複雑ですが、大きく三つの特徴が挙げられます。第一に、生殖機能異常と代謝異常の相互作用が病態形成の核となることです。排卵障害や高アンドロゲン状態、視床下部-下垂体-卵巣軸のホルモン異常が生殖機能の異常をもたらし、一方でインスリン抵抗性、脂肪細胞機能異常、内臓肥満が代謝異常として現れます。これらの異常は互いに悪循環を形成し、病態の進行を助長します。

第二に、PCOSは高い家族集積性を示すことが知られています。スウェーデンの大規模コホート研究では、PCOS女性の娘は発症リスクが約5倍に上昇することが示されており、遺伝的背景の強い関与が示唆されています。第三に、環境因子が病態形成に大きく影響している点です。胎児期の高アンドロゲン暴露や、卵胞局所の小胞体ストレス(ERストレス)、腸内細菌叢の形成異常などが発症に寄与することが近年の研究で明らかになってきました。

また、ホルモンバランスの異常も大きな要因とされています。特に黄体形成ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)の比率が異常となることで、卵胞の成熟や排卵に障害が生じやすくなります。さらに、卵巣におけるアンドロゲン合成酵素の過活動や、インスリンによる卵巣への刺激が高アンドロゲン血症を助長し、これがさらに卵胞の成長を妨げるという悪循環も報告されています。

さらに、胎内環境における母体の栄養状態やストレス、内分泌撹乱物質の影響も、胎児期におけるホルモンバランスの異常を引き起こす要因として注目されています。加えて、思春期の肥満や急激な体重増加、不適切な食習慣や運動不足といった生活習慣要因も、PCOSの発症リスクを高めることが指摘されています。つまり、PCOSは遺伝的素因と環境因子が相互に作用することによって発症する多因子性疾患であり、予防や治療にはこの両面からのアプローチが求められます。

多囊胞性卵巣症候群(PCOS)の前兆や初期症状について

PCOSの前兆や初期症状は、月経不順(稀発月経や無月経)、不妊、にきび、多毛、肥満、黒色表皮症など多岐にわたります。これらの症状は思春期から成人初期にかけて現れることが多く、日常生活に影響を及ぼすこともしばしばです。特に排卵障害が持続する場合には、不妊の原因となることが多く、早期の対応が求められます。

多囊胞性卵巣症候群(PCOS)の検査・診断

PCOSの診断においては、国際的にはロッテルダム基準(2003年)が最も広く用いられており、①高アンドロゲン血症(臨床的または生化学的)、②排卵障害、③多囊胞卵巣のうち2項目以上を満たす場合に診断されます。一方、日本産科婦人科学会は2024年に新たな診断基準を制定し、①月経周期異常、②多囊胞卵巣またはAMH高値、③アンドロゲン過剰症またはLH高値のすべてを満たすことを要件としました。日本の基準は診断の精度を高め、思春期症例への過剰診断を防ぐ配慮がなされています。

多囊胞性卵巣症候群(PCOS)の治療

治療方針は、患者の挙児希望の有無によって大きく異なります。妊娠を希望する場合には、まず生活習慣の改善(減量、運動、栄養管理)を行い、排卵誘発剤(クロミフェン、レトロゾールなど)の使用が検討されます。特にレトロゾールは、アロマターゼ阻害作用により卵胞発育を促す作用があり、近年ではクロミフェンよりも有効性が高いとの報告もあります。また、必要に応じてゴナドトロピン注射や排卵誘発周期のモニタリングを併用することもあります。

排卵誘発が困難な場合には、体外受精(IVF)が有効な手段となります。特に多嚢胞性卵巣を持つ女性では、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)のリスクに注意しながら、低刺激法やアンタゴニスト法を用いた慎重な対応が求められます。

挙児希望がない場合であっても、排卵障害によるエストロゲン単独曝露は子宮内膜増殖症や内膜癌のリスクを高めるため、周期的なプロゲスチン補充療法(ホルムストローム療法など)による子宮内膜保護が必要です。加えて、月経異常や多毛、にきびといった症状の改善を目的として、経口避妊薬(OC)や抗アンドロゲン薬の使用も選択肢となります。

さらに、PCOSでは糖代謝異常(耐糖能異常や2型糖尿病)のリスクが高いため、診断時点での糖負荷試験などによる評価が推奨されます。必要に応じてインスリン抵抗性に対する治療(メトホルミンなど)も行われます。最近ではSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬といった、新しいインスリン抵抗性改善薬の有用性も検討されつつあります。

加えて、脂質代謝異常や高血圧といった心血管リスクにも注目が必要であり、長期的な健康管理が重要です。生活習慣改善はすべてのPCOS女性にとって治療の第一選択であり、特に体重減少が内分泌・代謝パラメータの改善に大きく寄与することが示されています。実際、体重の5~10%の減量により、排卵周期の改善、インスリン感受性の向上、アンドロゲン値の低下が得られるケースも報告されています。なお、肥満が高度であり、通常の方法での減量が困難な場合には、専門的な減量プログラムや薬物療法、さらには減量手術が検討されることもあります。

多囊胞性卵巣症候群(PCOS)になりやすい人・予防の方法

PCOSになりやすい人の特徴としては、家族にPCOS患者がいる、思春期以降に月経不順や多毛、にきびが続いている、肥満傾向があるなどが挙げられます。予防に関しては明確な方法は確立されていませんが、思春期からの適正体重の維持、バランスの取れた食生活、適度な運動習慣などが発症リスクを低減する可能性があるとされています。

参考文献

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  • 10) 日本産科婦人科学会生殖内分泌委員会. 多囊胞性卵巣症候群に関する全国症例調査の結果とわが国における新しい診断基準(2024)について.

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