

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
子宮筋腫の概要
子宮筋腫は、子宮の平滑筋に由来する良性腫瘍であり、女性の生殖可能年齢において最も頻度の高い腫瘍のひとつです。主に30〜50代の女性に発生し、無症状のまま経過することもあれば、月経異常や不妊などの症状を引き起こすこともあります。筋腫は女性ホルモンに依存して発育するため、閉経とともに自然に縮小することが多いですが、症状の程度や患者のライフステージに応じて治療が必要となることがあります。
子宮筋腫の原因
子宮筋腫は、子宮の平滑筋に由来する良性腫瘍であり、その発生にはエストロゲンおよびプロゲステロンといった卵巣ホルモンの影響が強く関与しています。特に筋腫細胞にはこれらのホルモンに対する受容体が高発現しており、ホルモンの刺激により細胞分裂が促進され、さらに細胞外マトリックスの産生が増加することが知られています。こうした反応によって腫瘍の容積が増加し、筋腫が徐々に成長していくと考えられています。
加えて、近年の分子生物学的研究により、子宮筋腫の発生には幹細胞の異常分化や遺伝子変異が関与していることが明らかになってきました。筋腫組織の一部では、MED12という遺伝子の変異が高頻度に認められており、この変異が筋腫の形成に関与しているとされています。MED12は転写共役因子として機能しており、細胞の分化や増殖の調節に重要な役割を果たしています。この遺伝子に変異が生じることで、正常な細胞分裂の制御が崩れ、筋腫形成が促進される可能性が示唆されています。
さらに、筋腫組織では成長因子の発現異常も確認されており、特にTGF-β(トランスフォーミング増殖因子β)は、筋腫の線維化や細胞外マトリクスの過剰沈着に大きく関与していると報告されています。これにより筋腫はより硬く、弾性を失った腫瘍組織へと変化していきます。
環境要因や生活習慣も発症に影響を及ぼす可能性が指摘されています。たとえば、初経年齢が早い、出産経験がない、閉経年齢が遅いといったライフコースの要素は、エストロゲンへの生涯曝露時間を延ばすことにつながり、筋腫のリスクを高めると考えられています。さらに、肥満は体内でのエストロゲン産生を増加させるため、筋腫発生の一因となり得ます。一部の研究では、ビタミンD欠乏や過剰な赤肉摂取も関連があるとされており、これらの代謝的・栄養的因子が筋腫の発症に影響を及ぼすことが示唆されています。
また、遺伝的素因として、母親や姉妹に筋腫の既往がある女性は、そうでない女性に比べて筋腫の発症リスクが明らかに高くなることが複数の疫学研究から報告されています。特定の民族集団間でも有病率に差がみられ、黒人女性では白人女性に比べて発症率が高く、若年発症、重症化しやすい傾向があることも知られています。
このように、子宮筋腫の原因は単一の要因に起因するものではなく、ホルモン環境、遺伝子変異、成長因子の異常、ライフスタイル、遺伝的背景などが複合的に作用することで発症すると考えられています。今後もさらなる基礎研究の進展により、より具体的な発症メカニズムの解明と、それに基づく新たな治療標的の開発が期待されています。
子宮筋腫の前兆や初期症状について
子宮筋腫の症状は、その位置、大きさ、数によって異なります。最も一般的な症状は過多月経と過長月経であり、これに伴って鉄欠乏性貧血を引き起こすこともあります。子宮内腔に突出する粘膜下筋腫は特に出血の原因となりやすく、少量の筋腫でも症状が強く出ることがあります。その他、下腹部痛や腰痛、月経困難症、頻尿や便秘などの圧迫症状、不妊や流産の原因にもなります。特に粘膜下筋腫は受精卵の着床障害や妊娠継続の妨げになることがあるため注意が必要です。無症状であることも珍しくなく、検診や他の疾患の評価中に偶然発見されるケースも多く見られます。
子宮筋腫の検査・診断
診断の第一歩は経腟超音波検査です。筋腫の有無、大きさ、個数、位置を把握するために有用であり、定期的な経過観察にも活用されます。特に粘膜下筋腫を評価する際は、子宮鏡や子宮腔造影も補助的に用いられます。さらに詳細な診断や手術計画の立案にはMRIが推奨され、筋腫の正確な位置や子宮肉腫との鑑別、周囲臓器との関係性を評価するのに適しています。悪性腫瘍との鑑別が必要な場合には、子宮内膜細胞診や組織診を併用することもあります。
子宮筋腫の治療
治療方針は、年齢、妊娠希望の有無、症状の有無や程度、筋腫の数や位置によって個別に決定されます。無症状の小さな筋腫に対しては、定期的な経過観察のみで管理可能です。症状がある場合には、薬物療法あるいは手術療法が選択されます。
薬物療法の中心はホルモン療法です。エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP製剤)は、月経量を減らし月経困難症の緩和に有効ですが、筋腫自体の縮小効果は限定的です。レボノルゲストレル放出子宮内システム(LNG-IUS)は、局所的にホルモンを作用させ、過多月経の改善に非常に効果的であり、長期間使用可能な点も利点です。GnRHアゴニストは強力な排卵抑制効果により一時的に閉経状態を誘導し、筋腫の縮小が期待できますが、更年期様症状や骨密度低下などの副作用のため、通常は6カ月以内の使用が原則です。GnRHアンタゴニストは経口剤として使用でき、効果の発現が早く、副作用も比較的少ないとされています。閉経が近い女性では、手術を回避するためにこれらの薬剤を断続的に使用する「逃げ込み療法」が行われることもあります。
手術療法は、薬物療法に抵抗性がある場合や、重度の症状、あるいは妊娠希望により筋腫を除去する必要がある場合に行われます。子宮筋腫核出術は子宮を温存できるため、妊孕性の温存を希望する女性に適しています。一方、症状が重く子宮の温存が不要な場合には子宮全摘術が選択されることもあります。近年は、腹腔鏡下手術や子宮鏡下手術などの低侵襲手術が普及し、術後の回復が早いというメリットがあります。術前にGnRHアナログ製剤を使用して筋腫を縮小させることで、出血量の減少や手術時間の短縮が期待される一方で、筋腫が硬化し摘出困難となることもあるため、使用のタイミングや適応には注意が必要です。
子宮筋腫になりやすい人・予防の方法
子宮筋腫は、初経年齢が早い、閉経年齢が遅い、出産経験がない、肥満、家族歴があるなど、ホルモンに長期間さらされることがリスク因子とされています。特にエストロゲンへの長期暴露は筋腫の発生リスクを高めるとされており、生活習慣の改善が予防に一定の寄与をする可能性があります。現在のところ、子宮筋腫の発生を完全に予防する方法は確立されていませんが、肥満を避け、バランスの取れた食事や適度な運動を継続することが重要です。さらに、定期的な婦人科検診により早期に発見し、適切な治療を行うことが、筋腫の増大や重篤な合併症の予防につながります。
参考文献
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