

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
非特異性外陰炎の概要
非特異性外陰炎とは、検査を行っても明確な原因が特定できない外陰の炎症を指します。外陰部は解剖学的に湿潤環境を保ち、常在菌のバランスが維持されることで健康な状態を保っていますが、さまざまな要因によって炎症が引き起こされることがあります。性行為感染症やカンジダ症などの明確な病原体が検出されない場合に「非特異性」と分類されることが特徴です。非特異性外陰炎は臨床的に「感染性外陰炎」と「非感染性外陰炎」に大別されますが、非感染性外陰炎であっても二次的に細菌感染を引き起こす可能性があり、診断には注意が必要です。また、閉経後の女性に多くみられる萎縮性外陰炎と症状が類似することがあるため、鑑別診断が重要となります。
非特異性外陰炎の原因
非特異性外陰炎の原因は多岐にわたりますが、主に外的刺激、ホルモンバランスの変化、免疫機能の低下、局所的な衛生環境の変化などが関与しています。外的刺激としては、石鹸やボディソープ、香料を含む製品の使用が挙げられます。また、タイトな衣類の着用や、ナプキンや下着の素材による摩擦が外陰部への刺激となることがあります。さらに、過度な洗浄による外陰部の乾燥やpHバランスの乱れも炎症の原因となります。ホルモンバランスの変化も大きな要因の一つであり、特にエストロゲンの分泌が低下する閉経後の女性では、外陰部の自浄作用が低下し、乾燥が進むことで炎症を起こしやすくなります。また、妊娠中や授乳期においてもホルモンの変動により同様の症状が見られることがあります。免疫機能の低下も非特異性外陰炎の発症に関与しており、糖尿病やHIV感染、免疫抑制剤の使用などによって局所免疫が低下すると、炎症が発生しやすくなります。さらに、衛生環境の変化も炎症の誘因となります。外陰部を過度に洗浄することで保護機能が損なわれる一方で、不適切な衛生管理によって細菌の増殖が促されることもあります。また、長時間のナプキン使用や頻繁な入浴による湿潤環境の維持が、炎症の発症に影響を与える可能性があります。
非特異性外陰炎の前兆や初期症状について
非特異性外陰炎の主な症状には、外陰部のかゆみ、灼熱感、赤み、腫れなどがあります。さらに、腟分泌液の変化や軽度の痛みを伴うこともあります。症状の程度は個人差があり、軽度の違和感から日常生活に支障をきたすほどの重篤な状態までさまざまです。特に閉経後の女性では、腟の乾燥に伴う外陰部のひりつき感や性交時痛を伴うことがあり、ホルモンバランスの変化が関与している可能性があります。また、小児では排尿時の痛みや外陰部の赤みが見られることがあり、診察時に外陰部の皮膚の観察が重要となります。
非特異性外陰炎の検査・診断
非特異性外陰炎の診断には、詳細な問診と視診を基本とし、必要に応じて以下の検査を行います。腟分泌液の顕微鏡検査では、細菌性腟炎やカンジダ症、トリコモナス感染症などの感染の有無を確認します。また、細菌感染の可能性が疑われる場合には培養検査を行い、病原体の特定を試みます。さらに、腟のpH測定を行い、pHバランスの乱れがあるかを確認し、萎縮性腟炎などとの鑑別を行います。持続的な症状がある場合には、病理組織検査を実施し、癌や皮膚疾患(扁平苔癬や外陰萎縮症)との鑑別を行うことがあります。
非特異性外陰炎の治療
非特異性外陰炎の治療は、原因に応じて異なりますが、主に症状の緩和を目的とした対症療法が中心となります。まず、外的刺激を回避することが重要です。刺激の原因となる石鹸やボディソープの使用を控え、外陰部専用の低刺激性洗浄剤を使用することが推奨されます。また、タイトな衣類の着用を避け、通気性の良い下着を選ぶことも有効です。
次に、外陰部の乾燥を防ぐための保湿療法が有効です。保湿クリームやバリア機能を補助する軟膏を使用することで症状を和らげることができます。特に閉経後の女性には、エストロゲンクリームの塗布が効果的な場合があります。さらに、症状が強い場合には、ステロイド外用薬を短期間使用することがあります。また、感染の合併が疑われる場合には、抗生物質や抗真菌薬の局所投与が行われることもあります。
非特異性外陰炎になりやすい人と予防の方法
非特異性外陰炎の発症リスクが高いのは、閉経後の女性、免疫機能が低下している人、長時間湿潤環境にさらされる人などです。予防のためには、日常的なケアが重要です。外陰部を過度に洗浄しすぎないよう注意し、低刺激性の洗浄剤を使用することが推奨されます。また、適切な保湿を心がけることで外陰部の乾燥を防ぐことができます。さらに、ホルモンバランスの変化が影響する場合には、医師と相談しながらホルモン補充療法を検討することも予防の一つとなります。
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