

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
腟欠損の概要
腟欠損とは、先天的に腟が形成されていない、もしくは著しく短縮している状態を指します。また、腟欠損症は約0.02%の頻度で発生するとされ、そのうち95%は機能性子宮を持たないMRKH症候群に分類され、残りの5%が機能性子宮を有する腟欠損症に該当します。これらの患者は正常な卵巣機能を持ち、ホルモン分泌には問題がないため、思春期の第二次性徴も正常に進行します。しかし、月経が起こらないため、診断が遅れることが少なくありません。通常、思春期になっても月経が始まらないことをきっかけに医療機関を受診し、診断されるケースが多く見られます。機能性子宮を有する腟欠損症の患者では、月経血が排出できないため、子宮内に血液が貯留することがあり、周期的な下腹部痛を訴えることがあります。この場合、適切な診断と治療が求められます。腟欠損症は生殖器のみに影響を及ぼす場合もありますが、腎尿路系の異常を合併することが多く、診断時には包括的な評価が必要となります。
腟欠損の原因
腟欠損の主な原因は、胚発生の過程におけるMüller(ミュラー)管の異常発育です。通常、Müller管は胎生期に形成され、腟や子宮、卵管へと発達します。しかし、MRKH症候群ではMüller管の発育が停止するため、腟の形成が十分に行われません。これにより、腟の欠損や短縮が生じます。この疾患は単独で発生することもありますが、腎尿路系や骨格系の奇形を伴う場合もあり、診断後には他の臓器の異常についても詳しく調べることが必要です。近年の研究では、遺伝的要因や環境要因が関与している可能性が示唆されており、さらなる研究が求められています。
腟欠損の前兆や初期症状について
腟欠損の主な症状は、思春期における原発性無月経です。通常の思春期発達は正常であり、乳房の発育や恥毛の発生もみられますが、月経が起こりません。子宮が部分的に形成されている場合には、月経血の貯留による周期的な下腹部痛を訴えることがあります。また、性成熟期において性交困難が問題となることもあります。性交時に疼痛や違和感を訴えて受診し、診断に至るケースも少なくありません。特に、成人期に入り結婚や性生活を意識する段階になって初めて異常に気づく場合もあります。精神的な負担も大きいため、早期に専門医の診察を受けることが推奨されます。
腟欠損の検査・診断
診断は身体診察や画像診断を通じて行われます。腟の欠損や短縮の有無を確認するため、視診や内診が行われます。超音波検査では、子宮や卵巣の状態を評価し、付随する異常がないかを確認します。MRI検査は、子宮の発育状態や腟の形成不全の詳細な評価に有用です。また、MRKH症候群では腎尿路奇形を伴うことがあるため、腎機能の検査が推奨されます。加えて、染色体検査を行い、性染色体異常の有無を確認することもあります。
腟欠損の治療
腟欠損の治療は、患者の希望や症状の程度に応じて選択されます。性交渉を可能にすることを目的とした腟形成術(造腟術)が行われることが一般的です。非観血的治療としては、ダイレーターを使用して腟前庭の組織を徐々に拡張する方法があり、手術を伴わないため低侵襲ですが、長期間の継続的な管理が必要となります。この方法は患者自身が主体的に取り組む必要があり、医師の指導のもとで進められます。
手術療法としては、皮膚移植を用いる方法や、腹膜を利用する方法、腹腔鏡下で腟前庭を牽引する方法などがあり、患者の希望や適応に応じて選択されます。手術による腟形成は、術後の管理が重要であり、長期的な経過観察が必要となります。術後にはプロテーゼの使用が推奨され、定期的な診察を受けながら腟の形状を維持する必要があります。最近では、組織工学の技術を応用した新たな治療法も研究されており、将来的な選択肢が広がる可能性があります。
腟欠損になりやすい人・予防の方法
腟欠損は先天性の疾患であり、現時点では予防する方法は確立されていません。発症のメカニズムには遺伝的要因が関与する可能性があると考えられていますが、明確な遺伝子異常は特定されていません。早期診断と適切な情報提供が重要であり、患者が自身の疾患について十分に理解し、適切な治療を受けることができるようサポートすることが求められます。また、精神的なサポートも重要であり、カウンセリングを併用することで、患者の不安を軽減することができます。家族の理解と協力も不可欠であり、患者が自信を持って日常生活を送れるような環境を整えることが望まれます。
参考文献
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