

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。
子宮内膜炎の概要
子宮内膜炎は、子宮内膜の炎症を指す疾患であり、急性と慢性の二つの病型に分類されます。急性子宮内膜炎は、感染症による炎症が急速に進行するもので、発熱や下腹部痛、異常なおりものなどの症状を伴います。一方、慢性子宮内膜炎は比較的症状が軽微であるため診断が難しく、不妊症や流産のリスク因子として注目されています。特に、不妊症の女性においては慢性子宮内膜炎の有病率が高いことが報告されており、その治療が妊娠率の向上に寄与する可能性が示唆されています。 慢性子宮内膜炎は、体外受精(IVF)や胚移植の成功率にも影響を及ぼす可能性があるため、生殖医療の分野でも注目される疾患です。また、反復流産や不育症との関連も報告されており、治療を行うことで妊娠継続率の改善が期待されています。子宮内膜炎の原因
子宮内膜炎の主な原因は、細菌感染です。通常、腟内には多様な常在菌が存在し、病原菌の侵入を防いでいますが、分娩や流産、手術、子宮内避妊具の使用などによって細菌が子宮内膜に侵入すると炎症が発生することがあります。急性子宮内膜炎の主な原因菌には、大腸菌、連鎖球菌、黄色ブドウ球菌、嫌気性菌などが含まれます。 慢性子宮内膜炎では、マイコプラズマ、ウレアプラズマ、ガードネレラ・バジナリスなどが原因となることが多いとされています。また、結核菌による結核性子宮内膜炎も発展途上国を中心に報告されています。 近年の研究では、子宮内の微生物叢(マイクロバイオーム)の乱れも慢性子宮内膜炎の発症に関与している可能性が示唆されています。健常な子宮内膜にはラクトバチルス属の細菌が優勢である一方、慢性子宮内膜炎では異常な細菌叢が認められることがあり、このような微生物の変化が炎症の持続に影響を及ぼすと考えられています。子宮内膜炎の前兆や初期症状について
急性子宮内膜炎では、発熱、悪寒、下腹部痛、異常なおりもの(悪臭を伴うこともある)、性交痛、月経異常などの症状が現れます。これらの症状が急激に発症し、進行すると骨盤内感染症(PID)を引き起こすこともあります。 一方で、慢性子宮内膜炎は症状が軽度または無症状のことが多いため、診断が遅れることがあります。症状としては、軽度の下腹部不快感、持続的なおりもの、不正出血、月経異常などが挙げられます。不妊や着床障害、反復流産との関連も指摘されており、特に体外受精(IVF)を受ける女性では、その影響が懸念されています。子宮内膜炎の検査・診断
急性子宮内膜炎の診断は、臨床症状の評価に加え、血液検査(白血球数やC反応性タンパク(CRP)の上昇)や超音波検査によって行われます。感染が疑われる場合には、子宮頸管や腟分泌物の培養検査を行い、病原菌を特定することが重要です。 慢性子宮内膜炎の診断には、子宮内膜組織の生検が不可欠です。特に、CD138陽性形質細胞の存在が慢性子宮内膜炎の診断基準とされています。これを確認するために、免疫組織染色を用いることが一般的です。また、子宮鏡検査も診断に有用であり、慢性子宮内膜炎に特徴的な子宮内膜の微小ポリープや点状出血が観察されることがあります。子宮内膜炎の治療
急性子宮内膜炎の治療は、原因菌に応じた抗生物質の投与が基本となります。通常は広域抗生物質(セファロスポリン系、クリンダマイシン、メトロニダゾールなど)が用いられます。重症例では、静脈内投与が必要となることもあります。 慢性子宮内膜炎の治療としては、ドキシサイクリン やメトロニダゾール(Metronidazole) などの抗生物質を一定期間投与することが一般的です。研究によると、抗生物質治療後にCD138陽性細胞が消失した場合、妊娠率が改善することが報告されています。また、一部の研究ではプロゲステロン療法の有効性も示唆されていますが、そのエビデンスは限定的です。子宮内膜炎になりやすい人・予防の方法
子宮内膜炎になりやすい人の特徴として、過去の分娩、流産、人工妊娠中絶、子宮内操作(子宮鏡検査、子宮内膜掻爬術など)を受けた経験のある人が挙げられます。また、子宮内避妊具の長期使用もリスク因子とされています。さらに、細菌性腟症や性感染症に罹患すると、子宮内膜炎を発症する可能性が高まります。 予防のためには、適切な衛生管理を行い、性感染症の予防に努めることが重要です。特に、コンドームの使用は子宮内膜炎の予防に有効であるとされています。また、手術や処置の際には無菌操作を徹底することが求められます。 さらに、近年の研究ではプロバイオティクスの補助的使用が子宮内の細菌叢を整える可能性が示唆されており、今後の研究が期待されています。参考文献
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