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外陰上皮内腫瘍
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

外陰上皮内腫瘍の概要

外陰上皮内腫瘍は、外陰部の扁平上皮に生じる異形成であり、浸潤がんに進行する可能性がある前がん病変と考えられています。外陰上皮内腫瘍は、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染と関連するタイプと、非HPV関連のタイプに分類されます。HPV関連の外陰上皮内腫瘍は比較的若年者に多く、分化型外陰上皮内腫瘍は高齢者に多い傾向があります。発生頻度は低いものの、早期診断と適切な管理が重要とされています。 外陰上皮内腫瘍は一般に無症状であることが多いですが、進行すると外陰部のかゆみや違和感、灼熱感、疼痛を伴うことがあります。また、一部の患者では、皮膚の肥厚や表面の不規則な隆起がみられることもあります。これらの症状が持続する場合には、早期の医療機関受診が推奨されます。

外陰上皮内腫瘍の原因

外陰上皮内腫瘍の主な原因はHPV感染であり、特に16型や18型といった高リスク型HPVが関与しています。HPV感染が持続すると、外陰部の細胞に異常な増殖が生じ、外陰上皮内腫瘍へと進展する可能性があります。一方、分化型外陰上皮内腫瘍は慢性的な外陰の炎症や皮膚疾患(例えば外陰白斑症)を背景に発生し、HPVとは無関係に発症することが特徴です。分化型外陰上皮内腫瘍は扁平上皮がんへの進展リスクが高いため、特に注意が必要です。 HPVの感染経路としては主に性的接触が挙げられますが、免疫抑制状態にある人や喫煙者では感染の持続リスクが高まることが報告されています。加えて、閉経後のホルモンバランスの変化も分化型外陰上皮内腫瘍の発症に影響を与える可能性があります。

外陰上皮内腫瘍の前兆や初期症状について

外陰上皮内腫瘍の初期症状として最も多いのは外陰部のかゆみや違和感ですが、無症状のこともあります。病変部の色調は多様であり、白色、赤色、または褐色の病変として現れることがあります。進行すると、外陰部に小さな隆起やびらんが生じることがあり、痛みを伴うこともあります。特に、分化型外陰上皮内腫瘍は病変が目立ちにくく、診断が遅れることがあるため注意が必要です。 また、HPV関連の外陰上皮内腫瘍は若年層に多く見られるのに対し、分化型外陰上皮内腫瘍は閉経後の女性に多く発生する傾向があります。

外陰上皮内腫瘍の検査・診断

外陰上皮内腫瘍の診断には視診とコルポスコピーが有用です。コルポスコピーでは酢酸を用いた検査が行われ、異形成部分が白色化することで病変の範囲を確認できます。また、細胞診は診断に有用ではなく、確定診断には生検(組織検査)が必要となります。病変の広がりや進行の程度を評価するために、MRIやCTが追加されることもあります。 近年では、HPV検査も診断の一助として使用されることがあり、高リスク型HPVの陽性が確認された場合には、さらなる精査が推奨されます。分化型外陰上皮内腫瘍に関しては、p53変異の存在が確認された場合には悪性化のリスクが高いと考えられます。

外陰上皮内腫瘍の治療

外陰上皮内腫瘍の治療法は、病変の種類や広がり、患者の年齢や全身状態によって異なります。低悪性度の病変では、経過観察が選択されることもありますが、高度異形成や分化型外陰上皮内腫瘍の場合は積極的な治療が推奨されます。 外科的治療としては、局所切除術が一般的に行われます。病変部を5~10mmの安全マージンを確保して切除することで、再発リスクを抑えます。レーザー治療も選択肢の一つですが、根治性が低いため、病変の種類や範囲を考慮して慎重に選択されます。

外陰上皮内腫瘍になりやすい人・予防の方法

外陰上皮内腫瘍の発症リスクは、特にHPV感染や免疫抑制状態、喫煙などの生活習慣が影響することが知られています。HPV関連の外陰上皮内腫瘍は性的接触による感染が主な要因であり、予防のためにはHPVワクチンの接種が推奨されています。ワクチンは特に若年層に推奨されていますが、成人女性でも接種による予防効果が期待できます。 また、定期的な婦人科検診を受けることが早期発見につながります。特に、外陰部の違和感や異常がある場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。

関連する病気

  • 外陰扁平上皮がん
  • ヒトパピローマウイルス感染
  • バルトリン腺炎
  • 外陰湿疹
  • 前がん病変
  • 外陰上皮異形成

参考文献

  • Kesić V, Vieira-Baptista P, Stockdale CK. Early Diagnostics of Vulvar Intraepithelial Neoplasia. Cancers. 2022;14(1822). doi:10.3390/cancers14071822.
  • 日本産科婦人科学会. 外陰癌・外陰上皮内腫瘍診療ガイドライン. 2022年版.
  • Bornstein J, Sideri M, Tatti S, et al. 2011 Terminology of the Vulva of the International Federation for Cervical Pathology and Colposcopy. J Low Genit Tract Dis. 2012;16(3):290-295.
  • Darragh TM, Colgan TJ, Thomas Cox J, et al. The Lower Anogenital Squamous Terminology Standardization Project. J Low Genit Tract Dis. 2012;16(3):205-242.

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