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分娩後異常出血
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

分娩後異常出血の概要

分娩後異常出血とは、赤ちゃんを出産したあとに、通常よりも多く出血が起こる状態を指します。これは母体の命にかかわることもある重大な産後合併症です。世界保健機関などの国際的な定義では、腟からの出産で500ミリリットル以上、帝王切開では1000ミリリットル以上の出血が確認された場合に、この異常出血とされます。出産後24時間以内に起こる場合を「早い時期の出血」、それ以降6週間までに起こるものを「遅い時期の出血」として分類されます。分娩後異常出血は、妊産婦死亡の主な原因の一つであり、世界中で対策が求められている課題です。

分娩後異常出血の原因

分娩後異常出血の原因は、大きく4つに分けて考えると理解しやすくなります。第一は「子宮の縮みが弱いこと」です。通常、出産後には子宮がしっかり縮んで血管を押さえることで出血が止まりますが、この働きが弱いと出血が止まりません。これはもっとも多い原因とされ、7割以上の方にみられます。

次に「出産の過程で体の出口に傷ができること」があります。腟やその周辺、子宮の入口などに裂け目ができることで、そこから出血が続くことがあります。

三つ目は「胎盤の一部が体の中に残っていること」です。胎盤がすべて外に出ずに一部が子宮内に残ると、子宮がうまく縮まらず、出血が続く原因になります。

最後は「血が固まりにくくなる状態」です。これはもともとの体質や、妊娠中や出産時に起こった異常によって、血の固まり方に問題が出てくることで起こります。このような状態では、少量の出血でも止まりにくくなってしまいます。

分娩後異常出血の前兆や初期症状について

出産後の異常出血は、ある日突然起こるように見えますが、よく観察すると前兆がある場合も少なくありません。もっとも分かりやすいのは、ナプキンやシーツがすぐに血でいっぱいになってしまうほどの出血です。また、出血の量にかかわらず、顔が青白くなる、息切れやめまいがする、脈が速くなるといった体の変化が見られることもあります。おしっこの量が減る、意識がぼんやりする、手足が冷たくなるといった症状が出ているときには、すでに体の中の血液がかなり足りなくなっている可能性があり、すぐに処置が必要です。

分娩後異常出血の検査・診断

出産後の異常出血の診断は、出血量と体の状態を合わせて行います。まずは実際に出た血の量をできるだけ正確に把握します。最近では、出産台の下に血液を集める容器を置いたり、濡れたガーゼやパッドの重さから出血量を推定する方法も使われています。

また、出産直後の血液検査で、体内の血液の状態や、血が固まりやすいかどうかを確認することもあります。さらに、体の中に胎盤の一部が残っていないかを調べるために、超音波検査が行われます。必要に応じて、より詳しい検査(造影を使ったCTなど)を行うことで、原因を見極める場合もあります。

分娩後異常出血の治療

出血の治療は、原因に応じて段階的に行います。まず「子宮の縮みが弱いこと」が原因であれば、子宮を手でマッサージしたり、子宮を縮める薬を使います。薬には数種類あり、体の状態に応じて選ばれます。たとえば血圧が高い人には使えない薬もあるため、慎重な判断が必要です。

それでも出血が止まらない場合は、子宮の中に風船のようなものを入れて圧迫したり、血の流れを一時的に止める処置(カテーテルを使って血管をふさぐ方法)を行います。さらに、命を守るために最終的に子宮を取る手術が必要になることもあります。

「体の中の傷」が原因であれば、傷口を見つけて縫って止血します。「胎盤の残り」がある場合は、それを取り除く処置が必要です。「血が固まりにくい」状態であれば、輸血を行ったり、血の働きを助ける薬を使います。

治療は一刻を争うため、出産のあとに異常が見られたときはすぐに医師の判断のもと、迅速に対応することが求められます。

分娩後異常出血になりやすい人・予防の方法

出産後の異常出血は、誰にでも起こりうるものですが、いくつかの要因があると発生しやすくなります。たとえば、赤ちゃんがとても大きい場合や、おなかに二人以上の赤ちゃんがいる場合、出産が長引いたり、逆にとても早く進んだときなどが挙げられます。初めての出産、肥満気味の方、妊娠中に高血圧や感染症があった方も、出血が多くなりやすいといわれています。

予防のためには、出産後すぐに子宮を縮める薬を使い、胎盤をスムーズに出すことが効果的とされています。これは多くの国の医療現場で行われており、「第三期の能動的管理」と呼ばれています。また、出産後も一定時間は体の状態をしっかりと観察し、異常があればすぐに対応できる体制が重要です。

産院や医療スタッフと事前に話し合い、リスクについて共有しておくことも、安心して出産を迎えるための大切な準備といえるでしょう。

参考文献

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