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急性乳腺炎
高宮 新之介

監修医師
高宮 新之介(医師)

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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。

急性乳腺炎の概要

急性乳腺炎は、授乳期に多く発生する乳房の炎症です。主な原因は、乳汁うっ滞(乳汁が乳房内に溜まること)や細菌感染によるものです。特に産後1~2週間の初産婦に多く見られますが、授乳期のどのタイミングでも発症する可能性があります。

乳汁うっ滞が進行すると、乳房の腫れや痛みが現れ、さらに細菌感染を伴うと、発熱や膿瘍形成を引き起こすことがあります。主な起炎菌は黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌ですが、近年ではMRSAによる乳腺炎も報告されています。

急性乳腺炎の原因

急性乳腺炎は、授乳期に多く発生する乳房の炎症であり、主に乳汁うっ滞細菌感染が関与します。

乳汁うっ滞

乳汁がうまく排出されず、乳房内に溜まることが原因で発症します。 産後1~2週間の初産婦は授乳に不慣れなため、乳汁うっ滞が起こりやすいです。 授乳間隔の延長や乳汁分泌過多もリスクとなります。 乳房の腫脹や疼痛を引き起こす非細菌性のうっ滞性乳腺炎につながります。

細菌感染

乳管口や乳頭の亀裂などを通じて細菌が侵入し、感染を引き起こします。 主な起炎菌は黄色ブドウ球菌表皮ブドウ球菌であり、近年ではMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による乳腺炎も報告されています。 多くの場合、乳汁うっ滞を背景に細菌感染が加わることで乳腺炎が発症するため、早期の適切な対処が重要です。

急性乳腺炎の前兆や初期症状について

急性乳腺炎は、授乳期に多く見られる乳房の炎症です。初期には以下のような兆候が現れます。

乳汁うっ滞による初期症状

乳房のハリや重苦しさ 授乳間隔が空いた際に感じやすいです。 乳房の腫れ 乳汁がうまく排出されず、一部または全体が腫れることがあります。 乳房の痛みや不快感 触ると痛い、ズキズキとした痛みを伴うことがあります。 乳房の硬結(しこり) 乳汁が溜まった部分が硬く感じられることがあります。

これらの症状はうっ滞性乳腺炎の兆候であり、適切な授乳や搾乳で乳汁を排出することが重要です。

細菌感染による進行症状

以下の症状が現れた場合は、細菌感染を伴う急性化膿性乳腺炎に進行している可能性があります。

  • 乳房の皮膚の赤みや熱感
  • 強い痛み
  • 38度以上の発熱や悪寒
これらの症状がある場合は、速やかに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切です。放置すると膿瘍(膿の塊)が形成されることもあります。 これらの症状が出てきたら産婦人科を受診しましょう。

急性乳腺炎の検査・診断

急性乳腺炎の診断は、臨床症状を中心に評価し、必要に応じて検査を行います。

1. 症状と身体所見の評価

うっ滞性乳腺炎 乳房全体の腫脹や疼痛があり、発赤や熱感は軽度なことが多いです。 急性化膿性乳腺炎 乳房の局所的な発赤、強い痛み、腫脹、熱感が見られ、38度以上の発熱や悪寒を伴うこともあります。

膿瘍形成が疑われる場合、触診で波動を触知したり、腋窩リンパ節の腫脹や圧痛が認められることがあります。

2. 超音波検査

膿瘍の有無を確認するために有用で、低エコー領域として膿瘍を認めます。

3. 血液検査

白血球増多やCRP高値が認められることがあり、炎症の程度を把握する指標になります。

4. 乳汁検査

治療不応例や重症例では、乳汁の培養検査を行い、起炎菌を同定します。グラム染色により、感染の有無や菌種を推定できます。

5. 炎症性乳がんとの鑑別

炎症性乳がんは、発赤や浮腫、硬結を特徴としますが、高熱を伴わず、抗菌薬治療に反応しないことが多いです。疑わしい場合は、皮膚生検や針生検を実施し、速やかに診断を確定します。

6. その他の鑑別疾患

乳がん、悪性腫瘍、肉芽腫性乳腺炎、乳輪下膿瘍など、類似症状を示す疾患との鑑別が必要です。

急性乳腺炎の治療

急性乳腺炎の治療は、症状の程度や原因(うっ滞性か化膿性か)によって異なります。

1. うっ滞性乳腺炎の治療(非細菌性)

乳汁うっ滞の除去が最優先です。頻回授乳や搾乳を行い、乳房を空にします。乳房マッサージや乳頭ケアで乳管の開通を促します。

局所の冷却(冷湿布や冷罨法)で炎症を和らげます。安静と鎮痛(アセトアミノフェンやNSAIDs)を行います。

2. 急性化膿性乳腺炎の治療(細菌感染を伴う)

抗菌薬の投与が必要になります。

  • 第一選択はペニシリン系やセフェム系抗菌薬
  • アレルギーがある場合はクリンダマイシン
  • 重症例やMRSA感染が疑われる場合はバンコマイシンを考慮
  • ニューキノロン系抗菌薬は授乳中の使用が制限されるため、・授乳中止を検討
抗菌薬の投与期間は約10日間が推奨されます。

膿瘍形成時は排膿が必要です。超音波検査で膿瘍の有無と広がりを確認します。 穿刺排膿または切開排膿を行い、培養検査で起炎菌を同定し、適切な抗菌薬を選択します。切開排膿は整容性に配慮し、乳輪縁や弧状切開を選択します。

乳腺内膿瘍は多房性のことが多く、広範囲な場合は全身麻酔下での排膿が必要です。排膿後はドレーン留置(ガーゼドレーンやPenroseドレーン)を行う場合があります。

乳汁分泌抑制薬(cabergoline)が投与されることがあります。

急性乳腺炎になりやすい人・予防の方法

急性乳腺炎は、特に初産婦の産褥早期や授乳間隔が空きやすい方に発症しやすいです。適切な授乳や搾乳を行い、乳汁うっ滞を防ぐことが重要です。乳頭や乳輪を清潔に保ち、マッサージで乳管の開通を促すことで予防できます。十分な休息とストレス管理も、乳汁の分泌を安定させるために大切です。

関連する病気

  • 膿瘍
  • 乳腺炎性浮腫
  • 乳頭裂傷

参考文献

  • 山下純一,山本 豊,小川道雄:急性・慢性乳腺炎.外科治療 85:141-146,2001
  • 青木眞:レジデントのための感染症診療マニュアル,第3 版.医学書院,2015
  • 日本助産師会授乳支援委員会(編):乳腺炎ケアガイ ドライン 2020,日本助産師会出版,2020

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