

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
卵巣のう胞の概要
卵巣のう胞とは、卵巣内に液体や半固形の内容物を含む袋状の構造が形成される病態を指します。ほとんどの場合、良性であり、症状を伴わずに経過することが多いですが、大きくなると下腹部の痛みや圧迫感、月経不順を引き起こすことがあります。卵巣のう胞は大きく機能性のう胞と非機能性のう胞に分類され、機能性のう胞は排卵の過程で形成されることが多く、自然に消失することが一般的です。一方、非機能性のう胞には、子宮内膜症性のう胞や皮様のう胞などが含まれ、自然には消えにくいものもあります。
卵巣のう胞の原因
卵巣のう胞が発生する要因はさまざまですが、最も一般的なのはホルモンバランスの変化による機能性のう胞です。排卵に関与するホルモンの調整がうまくいかない場合、卵胞が成熟したまま吸収されず、のう胞が形成されることがあります。そのほか、子宮内膜症が原因で発生するチョコレートのう胞、皮様のう胞(奇形腫)、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)なども挙げられます。まれに、卵巣のう胞が悪性化し、卵巣がんへと進行することもあるため、注意が必要です。
卵巣のう胞の前兆や初期症状について
卵巣のう胞は無症状のことが多く、婦人科検診の際に偶然発見されることがあります。しかし、大きくなると下腹部の圧迫感や鈍い痛みを感じることがあり、月経不順や排尿・排便時の違和感などの症状が出る場合もあります。急な激しい腹痛や吐き気を伴う場合には、のう胞が破裂したり、卵巣茎捻転を引き起こしたりしている可能性があり、緊急の治療が必要になります。
卵巣のう胞の検査・診断
卵巣のう胞を診断する際には、まず病歴の聴取と婦人科診察が行われます。超音波検査(経腟エコー)は、のう胞の大きさや内部の性状を評価するのに最も有用な検査方法とされており、のう胞が6cm以上ある場合や12週間以上持続する場合には、追加の検査が推奨されます。また、腫瘍マーカー検査を補助的に行うこともありますが、子宮内膜症や炎症性疾患でも上昇することがあるため、悪性かどうかを判断する決定的な検査ではありません。MRIやCTなどの画像診断が必要となる場合もあります。
卵巣のう胞の治療
治療の方針は、のう胞の種類、大きさ、症状の有無、悪性の可能性によって異なります。機能性のう胞は自然消失することが多いため、特に症状がなければ経過観察が基本となります。ホルモンバランスを整える目的で低用量ピルが処方されることもありますが、すべてのケースで有効とは限りません。のう胞が大きく、圧迫症状がある場合や破裂のリスクがある場合には、手術が考慮されます。
手術には腹腔鏡手術と開腹手術の二つの方法があります。腹腔鏡手術は低侵襲であり、小さなのう胞を摘出する場合に適しています。一方で、大きなのう胞や悪性が疑われる場合には精査目的や摘出の際に他へと播種させないように開腹手術が選択されることがあります。
卵巣のう胞になりやすい人・予防の方法
卵巣のう胞はホルモンバランスの変化と関連が深く、特に思春期から閉経前後にかけて発生しやすいとされています。生理不順のある人やPCOSの人は、のう胞ができやすい傾向があります。また、肥満や不規則な生活習慣もホルモンバランスの乱れを引き起こす要因となるため、適切な体重管理や規則正しい生活を送ることが予防につながる可能性があります。
定期的な婦人科検診を受けることで、無症状のう胞を早期に発見し、必要に応じて適切な治療を受けることができます。特に、家族に卵巣がんの既往がある場合には、早期検診が推奨されます。
参考文献
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