バルトリン膿瘍

監修医師：
佐伯 信一朗（医師）

バルトリン膿瘍の概要

バルトリン膿瘍は、腟の入り口にあるバルトリン腺が感染を起こし、膿が溜まることで発生する疾患です。バルトリン腺は腟の潤滑を助ける役割を持つ小さな分泌腺であり、この腺が細菌感染などにより炎症を起こすことで、腺の開口部が閉塞し、膿が蓄積して腫れや痛みを伴う膿瘍が形成されます。バルトリン腺嚢胞が感染を起こして膿瘍に移行することもありますが、必ずしも嚢胞が先行するわけではありません。

バルトリン膿瘍の原因

バルトリン膿瘍の主な原因は細菌感染です。最も一般的な病原菌としては、大腸菌や黄色ブドウ球菌が挙げられます。また、性感染症を引き起こす淋菌やクラミジアが関与することもあります。さらに、近年では口腔性交を介して肺炎球菌やインフルエンザ菌といった呼吸器系の病原菌が関与するケースも報告されています。

バルトリン膿瘍の前兆や初期症状について

バルトリン膿瘍の症状には、腫れ、圧痛、発熱などがみられます。初期段階ではバルトリン腺の開口部が閉塞し、腺内に分泌物が溜まることで嚢胞が形成されることがあります。感染が進行すると腫れがひどくなり、痛みが強まります。特に座る、歩く、性交時に痛みが増すことが特徴的です。発熱や倦怠感を伴うこともあり、感染が進むと膿瘍が自壊し、排膿がみられることがあります。

バルトリン膿瘍の検査・診断

バルトリン膿瘍の診断は、主に視診と触診によって行われます。典型的には、腟の入口部分に押されると痛みを伴う腫れが確認されます。診断を確定するために、排出された膿の培養検査を実施し、病原菌の同定を行うことがあります。また、40歳以上の患者では、バルトリン腺にできる悪性腫瘍の可能性を考慮し、腫瘍が疑われる場合には組織生検が推奨されます。

バルトリン膿瘍の治療

バルトリン膿瘍の治療には、膿の排出を目的とした処置と抗菌薬療法が含まれます。小さな膿瘍で症状が軽度の場合には、温罨法や座浴を行い、自然排膿を促すことがありますが、一般的には外科的処置が必要となることが多いです。治療法としては、局所麻酔下で切開して膿を排出する方法が一般的です。ただし、単純な切開のみでは再発率が高いため、適切な後処置が重要です。ワードカテーテル法では、切開後に小型のカテーテルを留置し、数週間にわたって排液を持続させることで再発を防ぐことが可能です。再発を繰り返す場合や嚢胞が大きい場合には、嚢胞壁を開放して新たな排泄口を形成する手術が行われることもあります。硬化療法として、切開後にアルコールや硝酸銀を注入し、嚢胞の上皮組織を破壊することで再発リスクを低減する方法もあります。硬化療法は治癒時間を短縮する利点がありますが、一部の患者では組織の壊死や跡が残るなどのリスクがあるため、慎重な適応が求められます。抗菌薬治療については、性感染症が関与しない単純な膿瘍の場合には抗菌薬の使用は必須ではありませんが、性感染症が疑われる場合や、周囲に炎症が広がるなどの重症例ではセファロスポリン系やフルオロキノロン系の抗菌薬が使用されることがあります。

バルトリン膿瘍になりやすい人・予防の方法

バルトリン膿瘍は、性感染症のリスクが高い人、免疫力が低下している人、過去にバルトリン嚢胞や膿瘍を経験したことがある人に発症リスクが高いことが知られています。性交渉によって病原菌が導入されることがあるため、特に複数のパートナーと性交渉を持つ場合はリスクが高まります。また、糖尿病や免疫抑制状態にある人は感染リスクが増加します。一度発症すると再発しやすいため、バルトリン嚢胞や膿瘍を既往に持つ人は注意が必要です。
予防策としては、性交時の適切な衛生管理、性感染症のスクリーニングと早期治療、日常的なデリケートゾーンのケアが推奨されます。加えて、症状が軽度の段階で医療機関を受診し、適切な治療を受けることが再発防止に重要です。