

監修医師:
馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)
目次 -INDEX-
腟壁裂傷の概要
腟壁裂傷は、分娩や性交渉などによって腟の粘膜や組織が裂ける状態を指します。痛みや出血をともなうため、女性にとって深刻な問題の1つです。
腟壁裂傷の程度は、軽度で自然に治癒するものから大量出血によって外科的手術が必要になるものまでさまざまです。
適切な対応や治療によって治癒することが多いですが、そのまま放置すると出血が止まらず危険な状態になる可能性があります。
出血や痛みなど腟壁裂傷の症状を感じた場合は、できるだけ早く医療機関を受診する必要があります。
腟壁裂傷の原因
腟壁裂傷の主な原因は分娩で、胎児が産道を通過する際に発生することが多いです。とくに初めての出産の場合や胎児が大きい場合、分娩が急速に進んだ場合などにリスクが高まります。
また、性交渉による腟壁裂傷も見られます。腟内が十分に潤滑されていない状態での性交渉や、腟内への乱暴な挿入、不適切な体位なども腟壁裂傷の原因です。
その他、腟内に異物を挿入した際の損傷や、スポーツなどで強い衝撃を受けた際も起こる場合があります。また、腟の炎症や感染症により粘膜が脆弱になっている場合も、裂傷のリスクがあるといえます。
いずれも、腟の組織に過度な力や摩擦が加わることで発生するため、適切な予防と注意が重要です。
腟壁裂傷の前兆や初期症状について
腟壁裂傷の主な症状は痛みと出血です。痛みの強さは裂傷の程度によって異なり、軽度の場合は腟付近の違和感や不快感を感じたり、排尿時に痛みを感じたりすることがあります。
重度の場合は耐えがたいほどの激しい痛みや灼熱感が出現します。
出血は鮮やかな赤色の出血が見られるのが特徴です。通常の月経時の出血とは異なり、裂傷直後から出血します。
裂傷の程度が表層に留まる場合は出血量は少なく、自然に止血することもあります。
しかし、裂傷が深部に達していたり、周辺の臓器も損傷していたりする場合は、全身状態に影響を及ぼすほど大量に出血する危険性もあります。
腟壁裂傷の検査・診断
腟壁裂傷の診断は、腟壁の状態を詳しく調べるために主に内診や視診によっておこないます。腟鏡(ちつきょう:クスコともいう)という器具を腟から挿入して、裂傷の位置や大きさ、深さなどを確認します。
裂傷の程度が重く出血が多い場合は超音波検査やCT検査などを実施し、腟壁の深部の状態や周辺臓器への影響、腹腔内の血液貯留の有無を確認します。
全身状態に影響を及ぼすほど出血量が多い場合、血液検査によって貧血の程度を調べることも多いです。
腟壁裂傷の治療
腟壁裂傷の治療では、軽度の場合は主に鎮痛剤を使用し、縫合手術を要しないこともあります。
中程度から重度の場合は裂傷部位を縫合し、全身管理のために輸血することもあります。
軽度の場合
腟壁裂傷の程度が軽い場合は鎮痛剤を使用して経過観察します。痛みの軽減を図りながら、腟を清潔に保つためのケア方法を指導することもあります。
中程度から重度の場合
腟壁裂傷が中程度から重度の場合は裂傷部位を縫合することが多いです。
裂傷の程度が深い場合、周辺臓器にまで損傷が及んでいる可能性があるため、吸収糸(体内に溶ける糸)を用いて迅速に縫合して止血し、輸血によって全身管理をすることもあります。
どの程度においても傷が治るまでの間は性交渉を控え、傷口を清潔に保つことが大切です。
腟壁裂傷になりやすい人・予防の方法
腟壁裂傷になりやすい人は、主に初めて出産する人や胎児が大きめの妊婦です。また、性生活において十分な潤滑が得られにくい人や、性交渉の際に痛みを感じやすい人も注意が必要です。
分娩時における予防の方法
分娩時の腟壁裂傷は、とくに初めての出産の場合や胎児が大きい場合にリスクが高まります。分娩時に過度に努責(どせき:いきむこと)した場合や、急速に分娩が進んだ際も起こりやすいです。
分娩時において腟壁裂傷を予防するためには、妊娠中から会陰マッサージをおこない、腟付近の組織の柔軟性を高めるようにしましょう。
また分娩時は医師や助産師、看護師などの医療スタッフの指示に従いながら、効果的な呼吸法を実践し適切なペースで分娩を進めることが重要です。
性交渉における予防の方法
性交渉による裂傷は、腟の潤滑が不十分な状態で性交渉をした場合や、深く挿入されたり腟に強い圧力がかかったりする体位で起こりやすくなります。
性交渉における腟壁裂傷を予防するためには、挿入まで十分に時間をかけて腟内を潤滑させることや、必要に応じて適切な潤滑剤を使用することが有効です。
性交渉はパートナーとのコミュニケーションにも関わるため、痛みを感じた場合はすぐに中止するように心がけましょう。
腟壁裂傷は程度や部位によっては全身状態に大きく影響を及ぼす危険があります。
どの場合においても、出血や痛みなどの症状が出現した場合は、できるだけ早く医療機関を受診することをおすすめします。
関連する病気
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参考文献