

監修医師:
中里 泉(医師)
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2008年宮崎大学卒業後、東京都立大久保病院にて初期研修。東京大学医学部付属病院産婦人科に入局。東京大学医学部付属病院、東京北医療センター、JR東京総合病院などの勤務を経て、現在は生殖医療クリニックに勤務。日本産科婦人科学会専門医。
処女膜裂傷の概要
処女膜裂傷とは、腟を大きく広げることで、処女膜が裂けて傷ができることをいいます。 処女膜とは、腟の入り口のすぐ内側にある粘膜のことです。処女膜の形状や厚さなどは個人差が大きいとされます。また、膜と呼ばれますが、通常は腟の入り口をすべて塞いでいるのではなく、真ん中には指1本が通るくらいの穴が開いており、輪状の形をしています。この穴から月経血やおりものなどが排出できるようになっています。 処女膜裂傷では、少量の出血や痛みなど、症状がある場合もありますが、一時的であり、治療が必要となる場合はほとんどありません。処女膜裂傷の原因
処女膜裂傷は、腟を大きく広げることが原因となります。乱暴な性行為などでは、処女膜だけではなく、腟壁や会陰(腟と肛門の間)まで損傷してしまう場合があります。 よく知られる処女膜裂傷の原因は、初めての性行為での挿入です。しかし、処女膜裂傷の原因は、それだけではありません。マスターベーションによる手指や異物挿入などにより起こることも考えられます。また、処女膜は大変薄いため、前述の腟への挿入だけではなく、激しい運動などによっても損傷してしまう可能性もあります。 処女膜の形状は人によって大きな差があるため、処女膜に関するさまざまな問題が生じることがあります。初めての性行為では処女膜が裂けて出血するというイメージを持つ方も少なくないですが、処女膜の柔軟性が高い方では、裂傷が生じないことや出血しないこともあります。 また、処女膜に関する問題として、処女膜に穴が開いておらず完全にふさがっている場合(処女膜閉鎖症)や処女膜が生まれつき厚く固いため性交渉が困難な場合(処女膜強靱症)などもあります。 処女膜閉鎖症は、胎児期に身体が形作られていく過程に異常があり起こる病気です。処女膜閉鎖症では、処女膜は月経血やおりものなどの排出に必要な開口部を認めず、閉鎖した状態になります。初経までは無症状のことが多いですが、月経が初来する思春期に、月経が来ない症状とあわせて周期的な下腹部痛を認めることが典型的な症状です。処女膜閉鎖症を認める場合は、処女膜の切開などの対応が必要となります。 処女膜強靱症では、処女膜が厚いために、性交時に強い痛みと出血を認めます。処女膜の厚みの程度によっては、痛みのためや物理的に挿入が困難な場合もあります。このような症状がある場合は、処女膜の切開をし、腟の入り口を広げる処置が必要になります。処女膜裂傷の前兆や初期症状について
処女膜裂傷の症状として、少量の出血や痛みが挙げられます。出血の量や痛みの程度は人によって大きく異なります。いずれにしても、痛みは短期間で消失し、出血も自然におさまることがほとんどです。数日程度様子を見ても、痛みや出血がおさまらない場合は、産婦人科を受診してください。 また、乱暴な性交渉などでは、稀に傷が深くなり、会陰や腟壁まで達することがあります。その場合は多量出血を来たし、出血のために血圧が低下しショック状態になることも懸念されます。出血の程度がそこまでひどくなくても、傷を治すために縫合などの処置が必要になる場合もあります。出血が尋常ではない場合や傷がかなり深い場合は、早急な産婦人科受診が必要です。処女膜裂傷の検査・診断
まず、問診で症状や思い当たる原因など状況を確認します。その後、視診や触診を行い、処女膜に裂傷があるかどうか、あるのであれば程度などを確認します。 性犯罪や性的虐待に関与する場合など、詳細な評価や記録が必要な場合は、コルポスコピーによる診察を行うこともあります。コルポスコピーとは、子宮頸がんの検査によく用いられる専用の拡大鏡のことです。子宮頸部などの対象物を10倍程度に拡大して見ることができ、画像(写真)として記録することができます。 腟壁裂傷は前述のように、数日程度で自然治癒することがほとんどです。しかし、性的虐待などでは裂傷が治った後の所見が必要となる場合があります。処女膜裂傷が治癒した所見とは、処女膜後方の断裂や欠損、処女膜の不整な陥凹、処女膜が伸展したときに痛みを伴わない腟の入り口の開大などのことです。特に、処女膜の後部(時計盤の4時から8時の方向)には生まれつきの欠損は存在しないことが知られています。この部分に所見がある場合は、過去に処女膜の損傷があったことを裏付ける証拠となります。 処女膜の診察は、通常は砕石位で行います。砕石位とは婦人科の診察で内診台に上がったときの姿勢のことです。しかし、性的虐待が疑われる場合など、詳細な評価が必要な場合は、砕石位またはspine frog-leg positon(仰向けになって膝を立てて足を開いたような姿勢)と腹臥位胸膝位(うつぶせになって膝を曲げお尻を上げたような姿勢)の2つの姿勢で診察することが推奨されています。診察時の体位が所見の発見に大きく影響すると言われています。 処女膜の診察は、デリケートな部分の診察であり、プライベートな事柄が関与していることも少なくありません。そのため、十分にプライバシーに配慮することが必要とされます。また、何らかの精神的苦痛などが生じた可能性がある場合はより注意が必要です。精神的な負担が少なくなるように、恐怖感や緊張を取り除くように対応します。処女膜裂傷の治療
処女膜裂傷は、出血や痛みがあっても数日程度で自然に落ち着くことがほとんどで、治療が必要となることは稀です。しかし、多量出血を来している場合や痛みの程度が強い場合は、縫合の処置が必要になることがあります。 縫合が必要となった場合は、局所麻酔を行い縫合処置をします。ただし、裂傷が深く腟壁や会陰に及んでいる場合などは、局所麻酔では処置が完遂できないことがあります。その場合は全身麻酔を検討します。 前述の通り、処女膜裂傷は自然に治ることが多く、医学的には治療の必要がない場合がほとんどです。しかし、処女膜裂傷が自然に治癒したとしても、形状が元通りに再生するわけではありません。そのため、傷ついた処女膜を元のように戻したい女性に対して、処女膜再生術が行われることがあります。処女膜再生術とは、処女膜を細い糸で縫い合わせる手術です。損傷した処女膜を切開縫合して修復する場合もあります。 この手術は医学的には必要とならない手術であるため、倫理的問題も含めて論争の対象となることがある手技です。しかし、必要とする女性がいることも確かであり、実施しているクリニックも少なくないようです。処女膜裂傷になりやすい人・予防の方法
処女膜裂傷は、腟を大きく広げることで起こります。一度損傷すると傷は治りますが、形状は元通りに回復はしません。そのため、性交渉の経験がない方におこりやすいと言えます。予防としては、腟を広げる行為をしないことになりますが、処女膜裂傷はほとんどが治療が必要ないものであり、過剰に心配する必要はありません。 処女膜は厚さや形に個人差が大きいため、同じことをしても処女膜裂傷ができることもあれば、できないこともあります。裂傷ができたときの出血量もさまざまです。つまり裂傷が起こる原因は人それぞれで、症状もまちまちと言うことになります。このことを理解しておくことが、処女膜裂傷に関するさまざまな問題や不要な誤解を解決するためには大切です。関連する病気
- 膣出血
- 膣炎
- 膀胱炎
- 感染症
参考文献




