

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。
子宮頸管裂傷の概要
子宮頸管裂傷は、経腟分娩時に起こる比較的まれな合併症ですが、出産直後に大量出血を引き起こす可能性がある重要な症状です。臨床的に重要な子宮頸管裂傷の発生率は全分娩の0.14%から0.2%とされています。しかし、分娩後6-48時間以内に詳しい検査を行うと、約66%の方に何らかの頸管の傷が見つかるという報告もあり、軽度のものを含めると実際にはより高い頻度で発生している可能性があります。発生頻度は低いものの、適切な診断と処置が遅れると深刻な出血を引き起こす可能性があるため、分娩に関わる医療者は常にこの合併症の可能性を念頭に置く必要があります。子宮頸管裂傷の原因
子宮頸管裂傷の発生には、様々な要因が関連することが知られています。初産婦であること、吸引分娩などの器械分娩が必要な場合、赤ちゃんが後ろ向きの状態での分娩、分娩誘発を行う場合、会陰切開を行う場合などが、リスクを高める要因として報告されています。研究によると、分娩誘発を行った場合、子宮頸管裂傷の発生率が3.1倍に増加するという結果が示されています。また、分娩時間に関しても、非常に速い分娩(3時間未満)や、逆に長引く分娩(3時間以上)でもリスクが高まることが分かっています。特に、若年妊婦(20歳未満)や、オキシトシンによる分娩誘発、吸引分娩を行った場合には、統計的に有意なリスクの上昇が認められています。頸管縫縮術の既往がある場合も、妊娠週数に関係なくリスク因子となることが報告されています。子宮頸管裂傷の前兆や初期症状について
子宮頸管裂傷は、主に分娩後の持続的な出血として発見されます。子宮の収縮が良好で、子宮からの出血が適切にコントロールされているにもかかわらず、明るい赤色の出血が持続する場合に疑う必要があります。出血のパターンは様々で、少量の持続的な出血から、突然の大量出血まで認められます。特に子宮が十分に収縮し、会陰裂傷などの他の出血源が適切に処置されているにもかかわらず出血が続く場合は、子宮頸管裂傷の可能性を考慮する必要があります。分娩後の出血が通常とは異なるパターンを示す場合、早期に子宮頸管裂傷の可能性を疑い、適切な評価を行うことが重要です。子宮頸管裂傷の検査・診断
子宮頸管裂傷の診断は、分娩後の異常出血が認められた場合に行われます。まず医療者は、子宮の収縮状態を確認し、子宮から適切に出血がコントロールされているかを評価します。次に会陰部や腟壁に明らかな裂傷がないことを確認します。これらの確認後も出血が持続する場合は、頸管の詳細な評価が必要となります。頸管は、滅菌した手袋をつけた手で触れることで裂傷を感じ取ることができますが、正確な診断と適切な処置のためには、腟鏡を用いて直接視認する必要があります。子宮頸管裂傷は、特に左右(3時と9時の位置)に多く発生しますが、頸管のどの部分にも起こりうる可能性があります。裂傷は小さなものから、子宮下部にまで及ぶ大きなものまで様々です。診断時には、裂傷の位置、大きさ、出血の程度を慎重に評価することが重要です。子宮頸管裂傷の治療
治療は裂傷の大きさと出血の程度によって決定されます。小さな裂傷で出血が少ない場合は、1-2針の縫合で止血が可能です。より大きな裂傷の場合は、さらに縫合が必要となることがあります。処置の際は、適切な疼痛管理が不可欠で、多くの場合、硬膜外麻酔や局所麻酔が使用されます。治療中は出血量を正確に測定し、バイタルサインを慎重にモニタリングすることが重要です。大量出血の場合は、輸液や輸血が必要となる場合もあります。また、処置後も継続的な観察が必要で、特に出血の有無、バイタルサイン、尿量などを注意深く確認します。子宮頸管裂傷になりやすい人・予防の方法
子宮頸管裂傷は予測や予防が難しい合併症ですが、いくつかの要因について理解しておくことが重要です。初めての出産、分娩誘発を行う場合、器械分娩が必要な場合、赤ちゃんが後ろ向きの場合、分娩が非常に速いあるいは長引く場合などでリスクが高まることが知られています。医学的に必要な場合を除き、不必要な分娩誘発を避けることでリスクを軽減できる可能性があります。 過去に子宮頸管裂傷を経験した方の次の妊娠に関しては、再発のリスクは研究によって異なる結果が報告されています。ある研究では、55人の経験者のうち次の出産で再発したのは1人(1.8%)のみでしたが、別の研究では、より高い再発率が報告されています。次の妊娠の際は、早産の兆候に注意を払い、定期的な健診を受けることが推奨されます。関連する病気
- 子宮内膜炎
- 膣炎
- クラミジア
- 淋病
- 子宮頸管狭窄
参考文献
- Susan Salazar, et al. Cervical Lacerations: A Review of Risks. J Midwifery Womens Health 2024;69:300-303.
- Committee on Practice Bulletin-Obstetrics. Practice bulletin no. 183: postpartum hemorrhage.
- Hopkins LM, et al. Racial/ethnic differences in perineal, vaginal and cervical lacerations.
- Landy HJ, et al. Characteristics associated with severe perineal and cervical lacerations during vaginal delivery.
- Gilmandyar D, Thornburg LL. Surgical management of postpartum hemorrhage.




