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乳腺葉状腫瘍
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

乳腺葉状腫瘍の概要

乳腺葉状腫瘍は、乳腺に発生する比較的稀な線維上皮性腫瘍であり、全乳腺腫瘍の0.3%から1%を占めるとされています。この腫瘍は、良性、境界型、悪性に分類され、その病理学的特徴は線維成分と上皮成分の二相性の増殖を示すことです。特に、線維成分の細胞密度や核異型、細胞分裂の活性、腫瘍の浸潤性などの要素を考慮して診断が行われます。良性のものは比較的穏やかな経過をたどりますが、悪性の場合は局所再発率や転移のリスクが高くなります。葉状腫瘍は線維腺腫と類似するものの、増殖の速さや浸潤性の違いによって区別されます。

乳腺葉状腫瘍の原因

乳腺葉状腫瘍の発生メカニズムについては完全には解明されていませんが、最も有力な仮説は上皮-間質相互作用の異常によるものとされています。最近のゲノム解析により、MED12 遺伝子変異が乳腺葉状腫瘍および線維腺腫の両方で高頻度に認められることが明らかになり、これらの腫瘍が共通の分子機構を持つ可能性が示唆されています。また、悪性葉状腫瘍では、RB1やNF1、PIK3CAなどの遺伝子変異も報告されており、腫瘍進展に関与している可能性が指摘されています。加えて、エストロゲン受容体の発現が腫瘍の成長に影響を与える可能性も示唆されていますが、確定的な証拠はまだ不足しています。

乳腺葉状腫瘍の前兆や初期症状について

乳腺葉状腫瘍は、急速に増大する無痛性の乳房腫瘤として発見されることが多く、特に境界型および悪性のものは数カ月で数センチメートル以上の大きさに達することもあります。触診では弾力性のある腫瘤として感じられ、可動性が良好であることが一般的です。しかし、悪性のものでは皮膚の陥凹や腫瘍の浸潤による固定性が増し、疼痛や炎症症状を伴うことがあります。局所再発が比較的高頻度に生じるため、適切な診断と治療が求められます。また、一部の症例では腫瘍表面の血流増加により皮膚の発赤や熱感を伴うことも報告されています。

乳腺葉状腫瘍の検査・診断

乳腺葉状腫瘍の診断には、臨床診察に加えて画像検査および病理組織学的評価が不可欠です。マンモグラフィでは、葉状腫瘍は境界明瞭な腫瘤として認められることが多く、微細石灰化を伴うことは少ないとされています。一方で、超音波検査では嚢胞様構造を伴う境界明瞭な腫瘤として認識され、内部エコーが不均一であることが特徴です。MRI検査では腫瘍の内部構造や周囲組織との関係をより詳細に評価することが可能であり、特に悪性の可能性が示唆される場合には有用とされています。 組織学的診断は針生検や外科的切除後の病理検査によって行われます。葉状腫瘍は線維腺腫と類似した形態を示すことがあるため、正確な診断には複数の病理学的特徴(間質の細胞密度、核異型、細胞分裂像、腫瘍の境界など)を総合的に評価する必要があります。悪性のものでは浸潤性の増加や血管・リンパ管内への進展が見られることがあります。

乳腺葉状腫瘍の治療

乳腺葉状腫瘍の治療は、腫瘍の良性・境界型・悪性の分類に応じて異なります。基本的には外科的切除が第一選択となり、良性腫瘍に対しては乳房温存手術が可能なことが多いですが、局所再発のリスクを考慮し、腫瘍周囲に十分な切除範囲を確保することが推奨されます。境界型および悪性腫瘍では、局所再発率が高いため、より広範な切除が必要になる場合があります。 悪性葉状腫瘍の場合、転移の可能性があるため、追加の治療として放射線療法や化学療法が検討されることがあります。しかし、標準化された化学療法のレジメンは確立されておらず、患者ごとの病理学的特徴や遺伝子変異の状態に応じた個別化治療が求められています。近年の研究では分子標的治療の可能性も模索されており、今後の研究が期待されています。

乳腺葉状腫瘍になりやすい人・予防の方法

乳腺葉状腫瘍の発症リスク因子については明確な結論が出ていませんが、比較的若年層の女性(30〜50歳)が発症しやすいとされています。また、過去に線維腺腫を経験したことのある人は、葉状腫瘍を発症する可能性があると報告されています。家族歴や遺伝的背景の関与についても研究が進められていますが、現時点では決定的な要因は特定されていません。 予防策としては、定期的な乳房検診を受けることが重要です。特に、乳房にしこりを感じた場合や、短期間で急速に増大する腫瘤を認めた場合には、速やかに医療機関を受診し、適切な診断を受けることが推奨されます。また、遺伝子診断の進歩により、リスクを特定できる可能性があるため、今後の研究が期待されています。

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参考文献

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