絨毛がん
馬場 敦志

監修医師
馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)

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筑波大学医学群医学類卒業 。その後、北海道内の病院に勤務。 2021年、北海道札幌市に「宮の沢スマイルレディースクリニック」を開院。 日本産科婦人科学会専門医。日本内視鏡外科学会、日本産科婦人科内視鏡学会の各会員。

絨毛がんの概要

絨毛(じゅうもう)がんは、妊娠に関連して発症する女性特有のがんの1つで、胎盤を形成する絨毛細胞から発生する、まれながんです。

絨毛がんは、異常妊娠の1つである「胞状奇胎(ほうじょうきたい)」を発症したあとに、発症リスクがあることが知られています。また、まれではあるものの、正常分娩を含め、流産、人工妊娠中絶の後など、さまざまな妊娠の後でも発症する可能性があります。

絨毛がんの症状は、性器出血や下腹部痛などですが、初期では無症状のこともあります。絨毛がんは、血流にのって脳や肺、肝臓などに転移しやすい性質があり、悪性度の高いがんとして知られる一方で、抗がん剤が効きやすいことも知られており、早期発見と早期治療ができた場合は完治が期待できるがんです。

多くの場合、治療後も再び妊娠や出産が可能であるとされています。

絨毛がんの原因

絨毛がんの発生には絨毛細胞の異常との関係が示唆されているものの、明確な原因は解明されていません。

絨毛とは胎盤の一部で、母体から胎児への栄養や酸素の供給を担う重要な組織です。通常、絨毛は胎盤の形成に重要な役割を果たしますが、何らかの理由で異常な細胞が増殖しがんが発生します。

絨毛がんとの関連が深いとされているのは、胞状奇胎妊娠(ほうじょうきたいにんしん)です。胞状奇胎とは精子と卵子が受精する際に異常に発生したもので、絨毛細胞がぶどうの房のような形状になる特徴があります。

胞状奇胎は約500~1000妊娠に1回の割合で発生するというデータがあります。胞状奇胎になると胎児が正常に発育することが難しく、さらに、わずかな確率で絨毛がん発症のリスクがあることが分かっています。

出典:名古屋大学医学部産婦人科「絨毛性疾患」

絨毛がんは胞状奇胎のみでなく正常な妊娠の後や流産、人工妊娠中絶の後に発症する可能性があることも知られています。

なお、絨毛がんの発症に関して遺伝的や生活環境、環境的な因子は現在のところ確認されていません。高齢妊娠の場合、胞状奇胎になるリスクがやや高いとされています。

絨毛がんの前兆や初期症状について

絨毛がんの初期症状として多いのが、性器からの不正出血や下腹部痛です。月経でない時期に出血したり、出血量が普段より多かったりする場合は注意を要します。

ただし、絨毛がんは初期ではほとんど自覚症状がないケースもあります。

病態が進行して、がんの転移がおきると、咳や息苦しさ、胸痛などの呼吸器症状、めまいや頭痛、痙攣(けいれん)などの神経症状など婦人科疾患とは関連がないように思われる症状が現れることもあります。

絨毛がんは初期症状に乏しいことから、こうしたその他の症状が出現してからはじめて絨毛がんになっていると判明するケースも少なくありません。

不正出血や下腹部痛などは他の婦人科疾患でも多く見られ、絨毛がんに特異的な症状とは言えません。症状だけでは他の疾患と区別がつきにくい点に注意が必要です。

気になる症状がある場合は、医療機関に早めに相談するとよいでしょう。

絨毛がんの検査・診断

絨毛がんは問診や内診(子宮内部の検査)、血液検査や超音波検査、MRI検査やCT検査など複数の検査を組み合わせて総合的に診断を下します。

血液検査では血中のhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)値を測定します。絨毛がんではhCG値が高値を示すため、この検査結果は重要な診断材料となります。

超音波検査では、子宮の状態を観察するために、腟内に超音波の器具を挿入して、異常な腫瘤の有無を確認します。

また、絨毛がんは全身に転移しやすく、かつ増殖のスピードが速い特徴があるため、MRI検査やCT検査によって全身の画像を撮影し転移の有無も調べます。

絨毛がんの治療

絨毛がんの主な治療法は化学療法で、がんの中でも抗がん剤が効果をあげやすいことが知られています。

治療効果は、定期的な血液検査でhCG値を測定することで確認します。hCG値が基準値まで低下し、その状態が一定期間続くことで寛解(かんかい:完全に治った状態ではないが症状が落ち着いている状態)と判断します。

また、絨毛がんの進行度や転移の範囲によっては、手術療法を要する場合もあります。たとえば、子宮内の腫瘍が大きい場合や出血が続く場合には、子宮自体を摘出することも検討します。

子宮の摘出はその後の妊孕性(にんようせい:妊娠する能力)に大きくかかわるため、再度妊娠を希望する場合は、病気の状態などを考慮して主治医とよく相談することが重要です。

絨毛がんは進行が早いものの、早期発見・早期治療ができれば、一般的には予後の良いがんとされています。

絨毛がんになりやすい人・予防の方法

絨毛がんは女性特有のまれながんです。

異常妊娠である「胞状奇胎」を発症したあとには、絨毛がんを発症するリスクが高いとされています。まれではあるものの、正常分娩を含め、流産、人工妊娠中絶の後など、さまざまな妊娠の後でも発症する可能性があります。

高齢妊娠では胞状奇胎になるリスクがわずかに高まり、それにともなって絨毛がんの発症リスクも上昇すると考えられています。

現在のところ、絨毛がんは食事や運動、喫煙などの生活習慣や遺伝的な要因が関連しているとの報告はなく、妊娠以外の明確なリスク因子は解明されていません。

そのため、絨毛がんは予防よりも早期発見に重きを置くことが重要です。胞状奇胎を発症した場合は当然として、妊娠や出産時のみでなく、出産後や流産の後、人工妊娠中絶の後なども、定期的に検診をしっかりと受けることが、早期発見につながります。

絨毛がんは抗がん剤の効果が出やすく、治癒も望めるがんとされています。早期発見や早期治療が大切であるため、気になる症状があった場合は、すぐに産婦人科を受診しましょう。


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