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過強陣痛
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

過強陣痛の概要

赤ちゃんを出産する際、子宮は規則正しく収縮と弛緩(緩む)を繰り返します。これが陣痛です。通常の陣痛では、収縮と弛緩が適度な間隔で起こりますが、過強陣痛では子宮の収縮が異常に強くなったり、収縮が長く続きすぎたりする状態を指します。具体的には、お産の進み具合(子宮口の開き具合)に応じて決められた基準よりも子宮の収縮が強くなる場合や、10分間に5回を超えて陣痛が来る場合を過強陣痛と呼びます。 一般に、子宮は赤ちゃんを出産する際に適切な力で収縮と弛緩を繰り返すように作られています。しかし、何らかの理由でこのバランスが崩れると、子宮の収縮が必要以上に強くなってしまいます。このような状態が続くと、お母さんの強い痛みや赤ちゃんへの負担につながる可能性があるため、早期発見と適切な対応が重要になります。

過強陣痛の原因

過強陣痛には、いくつかの原因があります。母体の骨盤が小さい場合や、赤ちゃんの大きさと骨盤の大きさが合わない場合に、子宮が赤ちゃんを出そうとして過剰に収縮することがあります。また、陣痛を促進するためにオキシトシンという薬を使用した際に、体質的に薬が効きすぎてしまう場合や、投与量が多すぎる場合にも起こることがあります。 さらに、胎盤が早くはがれてしまう常位胎盤早期剥離という状態でも過強陣痛が起こることがあります。お産の道(産道)が硬すぎたり、赤ちゃんの向きが理想的でない場合(胎位・胎勢の異常)なども、過強陣痛の原因となることがあります。これらの要因は、単独で起こることもあれば、複数の要因が重なって起こることもあります。

過強陣痛の前兆や初期症状について

過強陣痛の初期症状は、陣痛の間隔や強さの変化として現れます。日本産科婦人科学会の基準では、子宮口の開き具合に応じて正常な陣痛の間隔は2分から3分とされていますが、過強陣痛では1分30秒以内、さらに進行すると1分以内と異常に短くなります。また一回の陣痛の持続時間も、通常60〜70秒程度のところ、2分以上と長く続くことがあります。お母さんは、通常の陣痛以上の強い痛みを感じ、陣痛と陣痛の間の休息時間が十分に取れないと感じることが特徴的です。 また、体型の痩せた方では、お腹に帯状のくびれ(収縮輪と呼びます)が見えることがあります。これは子宮の上部と下部の境目に現れ、子宮が過度に収縮している状態を示す重要なサインとなります。30分程度の観察で平均して10分間に5回を超える収縮(頻収縮)が見られることも、過強陣痛を疑う重要な所見です。

過強陣痛の検査・診断

過強陣痛の診断は、分娩監視装置(CTG)による客観的な評価と、医療者による診察の両方から総合的に行われます。分娩監視装置では、子宮の収縮の頻度や強さ、そして同時に赤ちゃんの心拍数の変化を連続的に記録します。特に30分以上の観察で、10分間に平均して5回を超える子宮収縮(頻収縮)が認められるかどうかを重要な判断基準としています。 医師や助産師は、分娩監視装置の記録に加えて、実際にお腹を触診して子宮の収縮状態を確認します。また、赤ちゃんの心拍数の変化も重要な診断要素となります。特に子宮収縮に伴って赤ちゃんの心拍数が低下する(一過性徐脈)場合や、その持続時間が長くなる(遷延一過性徐脈)場合は、赤ちゃんへの影響を示す重要な所見として慎重に観察します。このように、母体の状態と赤ちゃんの状態の両方を総合的に評価することで、過強陣痛の診断を行います。

過強陣痛の治療

治療は原因によって異なりますが、まず赤ちゃんとお母さんの安全を確保することが最優先となります。陣痛促進剤を使用している場合は、まずその投与を中止します。そして、お母さんの体の向きを変えたり、酸素を吸入してもらったりして、赤ちゃんの状態の改善を図ります。 それでも症状が改善しない場合は、子宮の収縮を抑える薬を使用します。使用する薬には様々な種類があり、状況に応じて最適なものを選択します。中には60秒以内という早さで効果が現れる薬もあります。また、効果の持続時間が2〜5分と短い薬を選ぶことで、必要な時だけ子宮の収縮を抑えることができます。 胎盤の早期剥離が疑われる場合や、薬での治療が効果的でない場合は、帝王切開での分娩が必要になることもあります。特に赤ちゃんの心拍数に大きな変化が見られる場合は、緊急の対応が必要となることがあります。また、骨盤の大きさと赤ちゃんの大きさが合わない場合なども、帝王切開を検討する理由となります。

過強陣痛になりやすい人・予防の方法

陣痛を促進する薬を使用する必要がある場合は、まず子宮口の状態(柔らかさや開き具合)を慎重に確認します。子宮口が固い場合は、あらかじめ柔らかくする処置を行うことがあります。これにより、過強陣痛のリスクを減らすことができるとされています。 陣痛促進剤を使用する場合は、少ない量から始めて、決められた時間間隔を守りながら慎重に増やしていきます。その際は、分娩監視装置で継続的に陣痛の状態と赤ちゃんの心拍数を観察します。陣痛の間隔が短くなりすぎていないか、赤ちゃんの心拍数に異常な変化が起きていないかを注意深く確認します。 過強陣痛は、お母さんにとって強い痛みの原因となるだけでなく、赤ちゃんにも影響を与える可能性があります。分娩中に普段と違う強い痛みを感じた場合や、陣痛の間隔が急に短くなった場合は、医師や助産師に伝えることが大切です。

関連する病気

  • 子宮破裂
  • 胎児モニタリング異常
  • 前置胎盤

参考文献

  • Freeman RK, et al. "Uterine Contraction Monitoring". Fetal Heart Rate Monitoring. 4th ed. Philadelphia, Lippincott Williams & Wilkins, 2012, 76-84.
  • 日本産科婦人科学会編. "過強陣痛". 産科婦人科用語集・用語解説集. 改訂第4版. 東京,日本産科婦人科学会,2018,29-30.
  • 妊産婦死亡症例検討評価委員会/日本産婦人科医会. 母体安全への提言 2022 Vol.13. 令和5年9月.
  • 日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会編集・監修. "CQ415-2 子宮収縮薬投与中にルーチンで行うべきことは?". 産婦人科診療ガイドライン:産科編 2023. 東京,日本産科婦人科学会,2023,257-8.
  • 日本医療機能評価機構産科医療補償制度再発防止委員会. "第3章 テーマに沿った分析:III.子宮収縮薬について(概況):5.事例紹介". 第13回産科医療補償制度 再発防止に関する報告書. 2023,34-9.

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